ピアノ
ぼくの中に忘れてきたピアノが惹かれてゆく
こそばゆい旋律と香ばしい戦慄が近づく
ト音記号の毛並み
休符の耳
ぼくを噛んだサミー
あたためる音源
ぼくを削ってくれる
彫刻刀で艶やかに
そう滑らかに抉る
ザラザラした舌で
キーを縛り
尾を突き刺し
月を射抜く
優しいルードヴィヒ
教えて?
ぼくが呑み込んだピアノが轢かれてゆく
額を潰し瞳を掬って
シャープに切り込み
蜜を舐め取る
スープが沸騰したら
息を綺麗に終う
ぼくが葬り去ったピアノが弾かれてゆく
洞窟の音が滴るタイヤ
黒揚羽のストローで吸う
ヘ音記号の目覚めについて
蝙蝠にクエスト
ペダルを漕いで欠伸する
農道の昼下がり