天使の救い悪魔の誘惑
魔王城の扉が開かれ、ガヤガヤと騒がしい集団が入って来た。その集団は角や羽根を生やし、人間の姿をしていない者が大半だった。
魔物たちが魔王城に帰って来たのだ。
「もう勝手に飛び出すのはやめて下さい魔王様!」
頭に角を生やした銀髪の男が怒鳴る。怒鳴る相手は黒髪と闇よりも暗い瞳を持つ、この城の主、魔王だった。
「あー、分かった分かった」
「前回、領主同士の諍いに首を突っ込んだ際にも、分かったと仰っていましたよね?」
魔王の後を追いながら、銀髪の男は声を荒げた。
「はいはい。俺は手を出すなってんだろ?」
「そうです。あなたが出向く必要はありません。領主間でどうにかすべき問題です。領主間でどうにもならなくなった場合でも、書状を出せばいい話です」
「だが、俺が行った方が早く終わるだろ」
「確かにそうですが、それでは根本的な解決になりません」
周りにいた他の魔物たちはパラパラといなくなり、二人だけで言い合いながら先に進む。
「あなたが無理やり解決することで、領主間に禍根が残るんです」
銀髪の男はわざとらしくため息を吐いた。
「あの後も、私がフォローするのにどれだけ苦労したか――」
「ああ、もう分かったよ」
小言はうんざりだという風に、魔王は銀髪の男の話を遮る。
「今度から、お前に言ってから出るから……」
玉座の間の扉の前に立ち、魔王が手を横に振る。音も立てずに扉が開き、魔王は玉座の間に入った。
「誰だこいつ?」
城を出て行く時にはなかったものを見て、魔王は立ち止まる。
「どうしました?」
銀髪の男も魔王の横から玉座の間に入る。
そこには、電撃を受けて倒れているノースがいた。
「また魔王様を殺しに来た人間ですかね?」
ノースに近寄り身体をかがめ、銀髪の男はノースの顔を覗き込む。
「魔王様を探す為に、城の者は出払っていましたから、城には誰もいなかったはずです。入って来て、ここで力尽きたのでしょうか?」
ノースの腕を取り、銀髪の男は脈を確認する。
「もうダメそうです。死んだらいつも通り、人間の城に送り返すので宜しいですか?」
魔王もノースに近付き、そばで立ったままノースを見る。
「まだ息はあるんだよな」
「そうですが、って何をする気ですか?」
ノースの頭の横に膝を付くと、魔王はノースの頭に手をかざして目を閉じた。
「聞こえるか?」
「魔王様?」
銀髪の男の問いかけを無視して、魔王は続ける。
「聞こえるのなら答えよ」
ノースにとってこの問いかけは、天使の救いとなるのか。
「お前の願い」
悪魔の誘惑となるのか。
「何と引き換えにしてでも」
それは誰にも分からない。
「叶えたいか?」
魔王はにたりと笑った。




