守るための別れ
次の日から、ノースは行動に出た。
「よろしくお願いします」
ノースは娼館の支配人と女将さんに頭を下げる。
「あたしたちは構わないんだけどね。人手も足りていなかったし。お前は良いのかい? こんなところで妹を働かせて」
マリアが住み込みで働ける場所を探して、ノースは娼館に来ていた。
娼館の玄関口で頭を下げ続ける。
それを、階段の上や廊下から他の娼婦たちが見ていた、
「お願いします」
「何か深刻な理由でもあるのかい?」
ノースはどうしてもマリアを娼館で働かせたかった。
ノースがいなくなったと知ったら、すぐにでもマリアは売られてしまうだろう。
そうならないようにする為には、マリアを借金取りから隠す必要がある。
売られないように必死に働いていたノースが、マリアを娼館に預けるなんて借金取りも思わないのではないかとノースは考えた。
それに、働くといっても雑用でだ。
ノースや母の代わりに家事をしていたマリアは、雑用仕事には慣れていてむいている。
そして、もしノースが志半ばで死んでしまい金が手に入らなくても、売られたわけではないマリアは、娼館を出て行くのか、娼館で本格的に働くのかを自分の意志で選ぶことも出来る。
マリアが大人になるまであと十年はあるから、娼館を出て行く頃には顔もある程度変わっていて、借金取りに見付かる心配はないだろう。
娼館は子供が働くような環境ではないが、ここ以上に安全な場所はない。
「お願いします」
ノースは女将さんに何も説明することなく、さらに頭を深く下げた。
これから無謀な賭けに出るのだ。
絶対に止められる。
それが分かっていて説明出来るわけがなかった。
「ああもう、分かったよ」
女将さんは諦めたようにため息を吐きつつ、マリアが働く許可を出した。
「ありがとうございます!」
ノースはもう一度、深く深く頭を下げた。
次の日、ノースはすぐにマリアを娼館へ連れて行き、その日のうちに自分の仕事を全て辞めた。
借金取りが気付く前に、街を出る必要があったからだ。
夜までに準備を終わらせ、ノースは日が暮れると同時に街を出た。
誰にも気付かれることなく、ノースは夜の闇に消えた。




