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第8話 (悠真視点)

田中先生に頼んで、放課後美希を生徒会室に呼び出した。

表向きは、生徒会への勧誘。

だが、一番の目的は美希に「彼女のフリ」を頼むことだった。


本当はフリではなく彼女になって欲しいと頼みたいところだが、急いては事を仕損じる。

今の段階で焦っては美希に逃げられる可能性が高い以上、慎重に行動しなくてはならない。

あくまでも最終目的は、美希のすべてを一生涯俺のものにすることなのだから。


入学式から約1ヶ月。

瑠奈を通して美希の連絡先を手に入れ、LINEで日常的にコンタクトをとる関係になった。


何度も学校で直接話したいと思ったが、授業中以外俺は常に男女問わず人に囲まれていて、王子を演じている以上それを無下にすることも出来ず、1年の教室に行くなど無理な話だった。


それに――


かなり注目されている俺が、不用意に美希に話しかけたりしようものなら、今以上に美希が男どもに目をつけられる危険がある。


美希のクラスには生徒会長の弟である、松河康介(まつかわこうすけ)がいて、入学早々色んな手を使いそいつにスパイをやらせることが出来たが、報告を受けるたび眉間にシワが寄るのを止められなかった。


やはり、美希は男たちの関心を必要以上に集めていた。


東高は都立ではトップ高だ。

私立の進学校でさえ、東高よりランクが下がるところも少なからずあるほどだ。

全国偏差値の上位校に有名私立が並ぶ中、数少ない公立で肩を並べているのが東高。


そこに入学してくる生徒は、中学ではトップレベルの子ばかり。

皆、成績に関しては自信を持っている中で、入試トップの新入生代表はそれだけで好奇の目を向けられる。

それが、小柄で華奢であどけない顔つきの可愛らしい少女であれば、そのギャップにやられる男は少なくないはずだ。


実際、康介によると、クラスの3分の2を占める男子のうち、明らかに美希に関心があるヤツが10数人。

そのうちの3~4人はかなり本気で、すぐにでもアプローチしそうだった。

もちろん、その報告を受けてから瞬時に康介を使ってそいつらに牽制をかけたわけだが……。


生徒会長である、兄の慶一(けいいち)も切れ者だが、その弟もかなり使えるヤツで助かることこの上ない。

王子の仮面をかぶっている以上、今は表立って動けないが、この兄弟が代わりに動いてくれている。


俺を生徒会に引き込む条件のひとつだったわけで、当然だし、それ以上に生徒会で面倒なこともやらされているんだから、いわばフィフティフィフティという訳だ。


そういう状況下で、なかなか美希に接触できなかったが、「彼女のフリ」を引き受けさせたことで、一気に美希との仲を学校中に知らしめることが出来た。


これで、美希に手を出そうとする男はそうそう現れないはずだし、もし現れても全力で排除する権利を得たわけだ。

やっと……少しばかり安心できた。


そうそう、あの日の俺たちの画像を康介に撮らせ、ツイッターで東高生に拡散させることも忘れない。

あの手の内容は広まるのが早いのは承知していたが、さらに翌朝から散々一緒のところを周りに見せつけるのも怠らなかった。

美希は真っ赤な顔で文句を言っていたが、そんな怒った顔も可愛くて仕方ない。


ただ、そこに至るまでに美希がバイトをするなどと言い出し大いに焦ったが、なんとか「彼女のフリ」をバイトにするという形に落ち着き、ホッと胸を撫で下ろす。


ファミレスでバイトなど、言語道断。

不特定多数の客に加え、他校の男や大学生などのバイト仲間にあっという間に目を付けられてしまう。


俺の目の届かないところで、そんな事はどうしても許せない。

俺の心が狭いのもあるが、美希が可愛すぎるのが悪いのだ。



それから1ヶ月。


まだ本当の意味で俺のものになるまでの道のりは遠いが、じっくりいこうと思っていた矢先、美希がとんでもないことを言い出した。


彼女になって(俺の中ではフリなどではない)たったの1ヶ月だというのに、そろそろやめようなどと……!


まず頭に浮かんだのが、最悪の事態。

考えたくもないが、美希に誰か他に好きな男が出来たのか……という事。


可能な限り美希と一緒にいる俺だが、流石に授業のある日中は会うことは難しい。

昼休みも友達と昼食をとりたいと言われれば、受け入れるしかなかった。

女の子の友達限定だとは約束してもらったが。


俺の存在が知られてからは、あからさまに美希に言い寄る男がいるとは思えないが、逆はどうだろう……?


美希は俺とは付き合っている「フリ」をしていると思っている。

と、いう事は、他の男を恋愛対象として意識してもなんの罪悪感もないんじゃないか?


そこまで考えて、冷静ではいられなくなった。

それは否定されて心底ホッとしたが、「嘘をついているようで気が咎める」と言われてしまい、これはもう早く何とかしないといけないと逡巡する。


今の状態に慣れさせてから、本当の恋人同士へと進む予定だったが、そうも言っていられなくなってきた。


また「気が咎める」からとかいう理由で、辞めたいと言われるのも困るし、何より「フリ」なんだからと他の男に目を向けてもいいなんて思われたら……想像しただけでどうにかなってしまいそうだ。

だめだ、絶対にそんなことはさせない。許さない。


美希に嫌われているとは思わない。

むしろ、どちらかといえば好かれているだろう。

王子様の外面だけだとしても、美希の好みのストライクゾーンであるはず。


だけど、まだまだ恋愛感情も自覚できない様子の美希。

もうこれ以上待てるのか、自分でも分からなくなってきた。


早く俺をひとりの男だと認識して、身も心も全部俺のところに堕ちてきて欲しい。


美希……お前だけだ。

俺をこんなにも余裕のない、ただの男にしてしまうのは。

早く……お前を全て、この手の中に閉じ込めたい……!





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