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第6話

それから、悠ちゃんとはLINEで連絡しあうようになった。

それも毎日、いや、それどころか1日中?

学校でも気がつくとメッセージを受信している。

本当に他愛もない内容だったりするんだけど、こんなにマメな人だとは知らなかったよ!


学校での悠ちゃんは、予想はしてたけどそれはもうすごい人気だ。

初めの頃は、自分に自信がありそうな女の子たちが告白しまくっていたらしいが、しばらくするとそれも落ち着いた。


悠ちゃんが誰にもイエスと言わないせいだ。


そのうち、「神木君にはもう決まった人がいるらしい」っていう噂が流れ、それとともに恋愛対象ではなく芸能人とかのような憧れ対象として、みんなが見るようになった。


とは言ってもみんなの王子様。

学校じゃ、私なんて近づけもしないけどね。





――なんて思っていたのに、なんで今2人きりなんだろう……?


放課後の生徒会室。

先生からそこに行くように言われて行ってみれば、悠ちゃんが1人でいた。


「え? 悠ちゃん? 私、田中先生に言われて来たんだけど、先生知らない?」

「あぁ、僕が先生に伝言を頼んだんだよ。ちょっと美希ちゃんに頼みたいことがあってね」


学校で会話を交わしたのは、実は初めてだ。

学年も違うし、悠ちゃんの周りにはいつもたくさん人がいて、話し掛けたり出来るはずもなく。

いつもLINEでのやり取りだったから、今更ながらハッとした。


「ねぇ、悠ちゃん! 学校では私のこと名前呼びしないでもらえる? 私も神木先輩って呼ぶから」

ん? なんか悠ちゃんの表情が……さっきまでの笑みが別物になってるような? いや、気のせい??


「……それは、どうしてかな?」

やっぱりなんか声が怖い! 笑ってるのになんか怖いんですけど!?


「だって、悠ちゃん超有名人なんだよ? 私と元々知り合いとか誰も知らないし、それなのに、名前呼びしてるの聞かれたら、誤解されちゃうでしょ?」

「ふーん、美希ちゃんは誤解されたくないんだ?」

「そりゃ、誤解されるのはイヤだし、困るよ。 悠ちゃんだってそうでしょ?」


私の言葉に悠ちゃんの顔が、今度こそ見間違いようもなく固く強張っていく。 なんで!?


「――そんなに誤解されたくない人でもいるの? ……誰か、特別な人が?」

「へっ? イヤイヤ、そうじゃなくって! 悠ちゃんモテるんだから、誤解とかされたら私も色々目立っちゃうでしょ? それが困るって言ってるの!」


「それだったら、僕の方は困らないんだけどな。美希ちゃんに頼みたい事のひとつはそういうことだしね」

「え……? 何? 頼みたいこと?」

悠ちゃんが私になんて、なんだろう? 想像つかないけど……。


「うん、でもまず先にこっちから。 実は生徒会役員になって欲しいんだよね」

「生徒会? 私が?」

「そう。美希ちゃん入試トップだったんだってね? それで、先生からも推薦きてるし、中学でも瑠奈と生徒会に入ってたでしょ? 10月に新生徒会に変わるんだけど、毎年今の時期に1年生を数人入れておくみたいなんだ。 美希ちゃんの名前が上がってたから、僕がスカウト役に立候補したんだよ」


生徒会……。

確かにお嬢様学校の中等部でも生徒会に入ってはいたものの……。

なんていうか、形だけ? お飾り? って感じで、いつも生徒会室でお茶するだけ……みたいな。

なので、それで経験者と思われても困るんですけど。

それに――――


「でも、私バイトしないといけないから、放課後は時間なくて。だから生徒会は無理かな」

悠ちゃんの眉間がピクッとして、かすかにシワが寄る……。


ん?? 何かまたお気に触りました?


悠ちゃんのこういう表情って今まで見たことなくって、ちょっとびっくり。

いつも穏やか~な王子様スマイルが定番なのに。


「バイト? 美希ちゃんバイトなんてするの? どうして?」

「いや、その……瑠奈ちゃんに聞いてるでしょ? 私がここに編入したのも、お父さんの転職で収入が大幅に減ったからだって。自分のお小遣いくらい自分で稼ぎたいし」


悠ちゃんの眉間のシワは益々深くなり、目を瞑って何か考えているようだ。


「そう……で? バイト先はもう決まってるの?」

「実は明日面接なの~。 駅前のファミレスなんだけど」

「じゃあ、まだ決まってはいないんだね? それだったら、もっといいバイトがあるんだけど」

「え? どこかいいところ知ってるの?」

「いいところっていうか……」

あれ? いつの間にか距離を詰められ、目の前に悠ちゃんがいる……。


「さっきの、美希ちゃんに頼みたいもうひとつの事と関係してくるんだけど……ね?」

そこで悠ちゃんはニッコリ微笑んだ。

出ました……! 王子様仕様のキラースマイル!

もう、無駄にキラキラキラキラしてて、眩しすぎだってば! 心臓に悪いよ!

私相手にそんなもの出さないでいいから~~!


「僕の、彼女役のバイト、して欲しいんだ」


……は??

何? 今の。なんか聞き間違い?


「悠ちゃん、なんか今、彼女役のバイトって聞こえた気がするんだけど……?」

恐る恐るたずねてみると……またまた出ました! 王子様スマイル!!


「うん、そう言ったよ。実はここに編入してから困っててね……」

で、悠ちゃんにその理由を聞いて、ここまでか! と、悠ちゃんのモテパワーを再認識させられた。



この前まで悠ちゃんが通っていた、私立の超有名進学校は、中高一貫の男子校だ。

悠ちゃんは近隣の学校の女子たちのアイドル的存在で、毎日のように「出待ち」をする女の子たちがいた。


でも、そこはさすがに私立の名門校。

警備は万全で複数ある門には監視カメラが設置してあり、下校時には警備員も巡回し、敷地も広いし、うまく女の子たちに捕まらないように警備員に協力してもらい、監視カメラと頭脳を駆使して下校していたとのこと。


でも、編入してきた東高にはもちろん、警備員も監視カメラもない。

生徒が出入りする門も2ヶ所しかない。


前の学校には編入先は伏せてもらっていたのだが、やはり隠し通せる訳もなく、ここ最近、また「出待ち」をする子達に悩まされるようになってきたらしい。

その上、前のようにうまく撒けなくて徐々に毎日の下校が大変になってきているという。


そういえば、私が帰る早めの時間帯でも、最近他校の女生徒が門のところにいたりしたような。

あんまり気にしてなかったけど、あの人たち悠ちゃん目当てだったのか……。


「それで考えたんだ。もし彼女がいるとなったら、あからさまに待ち伏せされたりもしないだろうって」

「いや、それは確かにそうかもしれないけど……。だったら本物の彼女作ればいいんじゃない? 悠ちゃんだったらすぐ出来るでしょ? 誰か、いいなっていう人いないの?」

そう言うと、すっと悠ちゃんの笑顔が消えた。

え? どうしたの??


「付き合うなら本当に本気で好きになった人じゃないと……ね。いつか、そんな恋人を手に入れたいけど、まだ、今じゃないんだ」

そう言ってジッと見つめられる。


なんだかよくわからないけど、今は付き合いたいと思うほど好きな人がいないって事? かな??


「そうなんだ……? でもなんで、私? もっときれいで大人な人じゃないと務まらないでしょう。私じゃ、みんな諦めたりしないと思うよ?」

だって、自分の方が勝ってるって思ったら、彼女がいてもそういう子は諦めないんじゃない……かな?


「――実は僕は……情けないけど、これでも人見知りが激しくてね。 よく知りもしない人と付き合ってるフリなんてできないし、考えただけで憂鬱になる。 それに、自惚れるわけじゃないけど事実として、誰にしろ頼んだ子がそのうち本当の彼女になりたがるのは目に見えているしね?」

う……確かに……それはそうかも……。


「だから、幼馴染で昔から知ってる美希ちゃんにしか、こんなこと頼めないって思ったんだよ。」

……って、王子様スマイルを浮かべて、熱心にこっちを見つめ、

「……ダメかな?」なんて言ってくる悠ちゃん。


いやそりゃ、確かに私だったら現実知ってるし、本当の彼女になりたいなんて全く! これっぽっちも! 思わないけど!

だからって、私と悠ちゃんが並んだところ想像しても……。

身長差に加えて何もかも子供っぽい私じゃ、釣り合わないよね? 大人と子供だよね??


「美希ちゃんだったら気心も知れてるし、他にいい方法思いつかないんだよ。引き受けてくれないかな?」

そんな、頼むよ。って顔してこっち見ないで~!

そこまで言われちゃったら、断れないじゃない~~!


「……わかった。 自信ないけど、やってみるよ。でも、それをバイトには出来ないから! いくらなんでも、そんなんでお金なんてもらえないから!」

私のもっともな主張だったけど、すぐさま却下された……。


「僕は付き合ってるフリをするんだったらとことんやりたいし、それには美希ちゃんの時間をかなり僕のために割いてもらうことになるんだよ? 登下校も一緒だし、さっき言った生徒会にも入ってもらうし、そうなると平日のバイトは出来ないよ? かと言って土日も、全く出かけないのも不自然だから休日の外出にも付き合ってもらうし。 ね? そしたら他にバイトなんて出来ないでしょ? そこまでしてもらうんだから、僕がバイト代を払うのは当然だし、むしろ受け取るのが美希ちゃんの義務ってレベルだよ」


……そ、そうなの??

っていうか、彼女のフリってそこまでするんですか~!?

せいぜい、人に聞かれた時に「付き合ってます」とかって答えればいいくらいかと……。

もちろん、「出待ち」女子たちには、一緒に下校するところを見せないといけないかなぁとは思ったけど……。

とことんやりたいって……でもそれはちょっとやりすぎじゃないでしょうか??

そこまでの覚悟は……はっきり言って無いんですが。


「あのぉ~……言いにくいんだけど、私やっぱり――」

「美希ちゃんはやるって言ってくれたよね? 一度引き受けたことを反故にするとか、まさかそんなことしないよね?」

「いや、確かに言ったけども……」

「困ってる僕を、助けてくれるんだよね?」


ニッコリ満面の笑みを浮かべるキラキラ王子様を、「あぁ、やっぱり美しいなぁ」と見つめながら、諦めのため息をついた私だった。







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