第5話 (一部 悠真視点)
かなり緊張した面持ちで新入生代表挨拶をする彼女、美希をじっと見つめながら俺は笑みを隠せないでいる。
なんて可愛いんだろう。
緊張のためか顔が強張って、声も小さくなっているけれど、それでも美希は最強の可愛らしさだ。
よくよく見ると、そう思っているのは俺だけじゃないことに気づいて面白くない。
周りの在校生席でも、新入生席でも何人かが熱い眼差しを美希に送っている。
やはり思ったとおりだ。
美希が共学に行けば、こうやって大勢のヤツに目を付けられる。
かなり大変だったが、親や前の学校を説得して東高に編入して本当によかった。
編入早々、生徒会に引っ張り込まれたのは不本意だったが、こうして在校生代表として美希の晴れ姿を見られるのであれば悪くはない。
だが……早いところ美希が俺のものだということを、ここの男どもに分からせなければいけない。
そろそろ本気で美希を手に入れるために動き出そう。
逃さないように慎重に。かつ確実に。
美希、俺はもう十分に待った。
これ以上、他の男に取られるリスクをそのままにはしておけない。
そろそろ、俺の恋人になってもらうと決めたから。
――――覚悟して?
……っ!?
なんか、今背筋がゾクッとしたんですけど!!
あれから、どうやって教室に戻ったのかも、どうやって家に帰ってきたのかも、ぼんやりとしか覚えていない。
教室でクラスの女子と少しおしゃべりしたけど、すべての話題の中心は悠ちゃんだった。
私は、どうして悠ちゃんが東高にいるのかとそればかりを考えていたので、みんなの話には適当に相槌を打って聞き流していたけれど。
クラスの女子の中に3年生にお兄さんがいる子がいて、その子によると悠ちゃんは編入試験を受けて数日前の始業式から東高生になったらしい。
超有名私立の進学校からきたことも知られていて、東高は都立ではトップ校だけど、悠ちゃんのいた、全国レベルの私立の超進学校とは比較にならず、なぜここに、それも3年になって編入してきたのかみんな疑問に思っているそうだ。
それはそうだろう。
私もぜひ聞きたいよ!!
で、編入試験は東高はかなり難しいと言われているのに、お約束のように全教科パーフェクトだったそうで。
興奮した校長が大声で職員室で話しているのを生徒が聞いて、その日のうちに学校中に広まった。
で、容姿、スタイル、頭脳、立ち居振る舞い、表情や話し方諸々……から、ここでも既に王子様認定。
編入したばかりだというのに生徒会にも入れられ、会長補佐という肩書きながら、すでにみんなをまとめる立場にいるという。
さすがだよ……悠ちゃん。
でも、でもでもでも!
どうしてもわからない。
なんで悠ちゃんがわざわざ東高に編入してきたのか……。
その時、カバンの外ポケットにあるスマホが震えだす。
さっと取り出すと、瑠奈ちゃんからの着信!
まさにジャストタイミング!
そうだ、瑠奈ちゃんに聞けばいいんだ!
「もしもし、瑠奈ちゃん?」
「美希ちゃん……えっと、今大丈夫?」
「うん、もう家に帰ってるから。それよりびっくりしたよ! 東高に悠ちゃん編入してたなんて! なんで教えてくれなかったの~?」
「う……うん、ちょっと色々事情があって。詳しいことは私の口から言えないんだ。 そのうち、お兄ちゃんから聞けると思うけど……」
「悠ちゃんから? でも、同じ学校とはいえ、学年も違うし向こうはなんかすでに王子様だし、接点ないと思うんだけど?」
「うん……それなんだけど……。実はお兄ちゃんって誰とでも仲良くできるんだけど、あれで意外と人見知りなんだよね」
――え?? 悠ちゃんが人見知り???
「そ……そうは見えないよね? でも実はそうなんだよ! ほら、どこ行っても注目されちゃうから、いつも気を張ってるっていうか……」
確かに……あんなに常に人目を引いてしまうと、疲れるかも。
でも、悠ちゃんってそれが通常だし、気にしてなさそうに見えたんだけどなぁ。
「でね? 昔から知ってる美希ちゃんが同じ学校ってことで、お兄ちゃんも心強いみたいでね? 連絡先教えて欲しいって。美希ちゃんのケー番とメアド、教えてもいいよね!?」
なんか……瑠奈ちゃん声が必死なんですけど。
そんなに悠ちゃんのこと、心配してるのかなぁ。
「それは別に構わないけど……。私なんかで心強くなるもの?? 悠ちゃんだったら、すぐにたくさん友達できそうだけどねぇ」
入学式後に見かけた悠ちゃんは、すでにたくさんの人に(主に女子)取り囲まれてたし。
「そんなことない! 見た目だけで寄ってくる人となんて、友達にはなれないよ! だから美希ちゃんだけが頼りなの! お兄ちゃんと今まで以上に仲良くしてあげて! ね!?」
そこまで? そこまで悠ちゃんのことが心配なんだ!?
これって、前の学校で何かあったとか?
もしかして、編入もそのせい……とか?
でも~~あの悠ちゃんが……?
スーパーパーフェクトな印象しかないから、違和感しか感じないんだけどなぁ……。
「わかった。 私で出来ることがあれば、力になるよ。って言っても、大したことは出来ないと思うけどね」
「ありがとう!! 美希ちゃん! さっそく、お兄ちゃんに伝えておくね! すぐに連絡すると思うから、返事してやってね!」
…………
切れたスマホを見つめながら考える。
な~んか、悠ちゃんのイメージと今の話が結びつかない気がするんだけど……。
まぁ、連絡先教えたからって、本当に連絡してくるかどうかなんてわかんないしね。
って、思った矢先、まだ手に持ったままだったスマホがまた震えだす。
知らないアドレスからのメール……。
件名は~「悠真です」!?
もう連絡来ちゃったよ!!
実際には公立高校では、然るべき事情がない限りこんなに簡単に編入は出来ないと思いますが……。
フィクションですのでさらっと流して頂けると助かります……。