第36話 王子様と私のその後12
「美希…! ごめん!! 泣かないで? 怖がらせるつもりはなかったんだ。さっきのキスで火がついて、どうしても自分を抑えられなくて…。 ごめんな? 最低だな、俺は。何よりも大切な美希を泣かせるなんて…」
私が泣いてるのはそんな理由じゃないの。
そりゃ、ちょっとは怖かったけど、泣くほどじゃない。
でも、本当のことなんて絶対言えないよ。
悠ちゃんの過去が見えてしまったことが悲しくて辛いなんて、そんなこと言ったらきっとウザがられる。
元カノ(達)にいちいち嫉妬する彼女なんて、うっとうしいにも程がある。
「うっ、ううっ~~~」
早く泣き止みたいのに、涙はなかなか止まってくれない。
どうしよう。
こんなの、悠ちゃんも困るよね?
っていうか、私、こんなんでこの先やっていけるのかな。
自分がここまで嫉妬深いなんて、考えてもいなかった。
この先、同じようなことがある度に、また勝手に嫉妬して辛くなって、うっとうしく泣き出すことになるんじゃない?
そんな私に、悠ちゃんが愛想をつかす日だって、そう遠くないかもしれない。
そう考えるだけで、またボロボロと涙が溢れ出す。
「美希…? どうしたらいい? どうしたら泣き止んでくれる? 本当に悪かった。もう、あんな強引なことはしないから…!」
オロオロとした様子で、私の顔を覗き込み、必死に謝る悠ちゃん。
こんな悠ちゃん、初めて見るかもしれない。
それでも今は――――悠ちゃんが他の人とこれ以上の親密な行為をしたんだっていう思いが、私の気持ちを頑なにさせる。
イヤだ…。 どうしても、イヤ!
「美希…。頼むから――」
そう言いながらそっと私を抱き寄せようとしたその腕を、さっと身を引いて避けた。
そんな私を見て、目を見張り顔を引き攣らせる悠ちゃん。
もう一度こっちに伸ばしかけた腕を、辛そうにゆっくりと引いていく。
そんな悠ちゃんを見ながらある決心をすると、やっと、涙が止まった。
――私、もっと強くならなきゃ!
悠ちゃんの過去を知っても平気でいられるくらい、強い気持ちを持ちたい!
この先悠ちゃんの側にずっといるには、きっとそれしか方法はないから。
だって、そんなことでいちいち傷ついてたら、いくら好きでも一緒にはいられなくなる。
でも、そうやって強くなるためには… 今は、悠ちゃんと少し距離をおいて、もっと視野を広げた方がいい気がする。
悠ちゃんしか見えてないから、余裕がないから、きっとすぐに不安になっちゃうんだ!
「――悠ちゃん。」
「美希? もう大丈夫? 泣かせてごめん。何度でも謝るから、仲直りの印に抱きしめさせて? ね?」
優しい口調に甘いセリフ。
私を見つめるその瞳はもっと甘い。
でも――――
「あのね? 悠ちゃん。あの…… 私、しばらくの間、悠ちゃんと離れて一人になりたい」
「…………」
「ちょっと…このままじゃダメな気がして、それで色々考えたの」
「――それは、つまり、どういう、意味?」
甘い微笑みは一瞬にして消え去り、すぅ~っと目を細めジッとこっちを見つめる。
こ、怖い! でも、ちゃんと言わなきゃ…!
「あの…だからね、悠ちゃんが側にいない状況で、もうちょっと視野を広げられたら、えっと…少しは私も余裕が持てるようになって、そしたら――」
「絶対、ダメだ」
最後まで言う前に、恐ろしく低い声で遮られた。




