第33話 王子様と私のその後9
「で? いつにしようか?」
「――?? 何が??」
唐突なセリフに、なんのことやらさっぱり分からず、ポカンと悠ちゃんを見返すと……。
これ以上ないくらい極上の笑みを浮かべたまま、昼下がりのカフェでとんでもないことを言い出した!
「あの噂を本当にするのを、だよ。――気持ちが通じ合った以上、待つ必要なんてないだろう?」
その言葉の意味を理解するのに数十秒費やし、そして理解したとたん真っ赤になってカチンと固まる私。
な、な、なに言ってるの~~!?
「今までは美希の気持ちがちゃんと俺の方を向くまで……と思って我慢してたけど、こうやって恋人同士になったんだから、そんなに長く待てないよ? 早く、美希の全部を俺だけのものにしたいんだ」
思わず周りを見回してしまう。
幸いお昼のピークを過ぎた時間のためか、近くの席に座っている人はいなくて、誰にも聞かれてないみたいだった。
よ、良かった~~!
それでも、あまりにも……な会話の内容に、赤くなったり、青くなったり。
どうして悠ちゃんは、平気な顔でこんなこと言ったりできるの~!?
「――悠ちゃん」
「ん?」
艶っぽい顔でこっちを見ているであろう悠ちゃんを、なるべく見ないようにしながら、きっぱりはっきり宣言した。
「私、相手が誰だろうと、結婚するまでそういうことはしないって決めてるから」
近くに人はいないけど、それでも小声でしか言えない、こんなこと!
「……それは……なんの冗談かな?」
「え? 本気だよ? 今どきって思うかもしれないけど、結婚前にそういうのって抵抗あるんだよね」
今までずっと笑顔だった悠ちゃんの顔から笑みが消え、一気に引き攣った。
「――じゃあ、結婚しよう。今すぐ!」
「はぁ???」
なんだか必死な形相で、訳の分からないことを言い出した悠ちゃん。
「何言ってるの? そんな真面目な顔で冗談言わないでよ~」
うん、冗談……だよね??
「いや、本気だよ? どうせいつかは結婚するんだから、同じ事だろう? 俺はもう18歳になってるし、美希は……あぁ、12月で16歳か。じゃあ美希の誕生日がきたらすぐにでも籍を入れて――」
「ちょ、ちょっと待って!!」
……本気っぽい!……ナニコレ、まさか本気で言ってる!?
エッチしたいから結婚って、ありえないでしょ~~~!?
ちょうどそこへランチが運ばれてきて、慌てて口をつぐむ。
会話が途切れたおかげで、悠ちゃんも私もちょっと冷静になれた?のかな??
そのまま無言でランチを食べ、何を食べたか記憶にないほど2人とも考え事に没頭し、気が付くとカフェを出て悠ちゃんに手を引かれて歩いていた。
「このまま、俺の家に行くからね?」
もはや決定事項らしいその言い方に、頷くしかなかった。
さっきの話の続き……って事なんだろうなぁ……。
でも、どうしてこんな大ごとっぽくなってるんだろう?
付き合うって、そういうことしないといけないわけじゃないでしょう?
大人の人ならともかく、私たち高校生なんだし。
――――思春期以降、男の子と接点なく過ごしてきた私に、一般的な男子高校生の性事情なんてわかるはずもなく……。
彼女のいる男子にとって、目の前にいる大好きな彼女に手を出さないでいることが、どんなに大変であるかなんて考え付きもしなかった。