第32話 王子様と私のその後8
里奈ちゃんと2人で昇降口まで行くと、1年の靴箱近くに人待ち顔で悠ちゃんが立っていた。
「美希、遅かったね。 って、――えっと、君、山内さん、だっけ?」
悠ちゃんが隣にいた里奈ちゃんを見て、驚いていたけどすぐにニッコリ笑ってみせた。
「は、はい!」
もう悠ちゃんの本性を知ってるはずの里奈ちゃんだけど、面と向かって王子様スマイルを向けられたら、やっぱり見とれてしまうみたい……。
でも、珍しいな。
私といる時の悠ちゃんって、王子様やってた時でも、他の女の子にこんな風に笑いかけたりしなかったんだけど……。
「里奈ちゃんね、私を待っててくれたの。 だから駅まで一緒に帰ってもいいよね?」
「すみません。お邪魔とは思ったんですけど……」
そう言う里奈ちゃんに、さらにキラキラの王子様スマイルを向ける悠ちゃん。
「そんなことないよ。むしろ、割り込んだのはこっちだからね。 駅まででいいの?」
「はい! もちろんです!」
なんだか、やけにキラキラスマイルを振りまく悠ちゃんに、ちょっと緊張した様子の里奈ちゃん。
それを、傍から見ていて気付いたこと……。
――この2人って、なんかお似合いじゃない?
知的美人で背も高くて大人っぽい里奈ちゃんは、悠ちゃんの隣にいても全く違和感がない。
3人でいると、ビジュアル的に邪魔なのは私……だよねぇ。
うん、どう考えてもそうだ。
里奈ちゃんがお似合いっていうより、私が似合わなすぎなんだよね~。
わかってたんだけど、こういうの見ちゃうとすぐ、自信なくなっちゃう……。
駅までの道のりはあっという間で、「じゃあね」って里奈ちゃんは帰っていった。
その間、悠ちゃんも会話に時折参加してたけど、里奈ちゃんに対してはずっと好意的な態度で、よっぽど気に入ったのかなって感じだった。
もちろん、魔王様降臨より全然いいんだけど……。
でもなんだかモヤモヤしてしまう私もいて……。
そんな自分に呆れるやら、腹が立つやら……。あぁ、自己嫌悪だ……。
「美希? どうした?」
駅近くのこぢんまりしたカフェに入ってランチを注文したあと、ぼんやり考え事をしていた私の顔を、心配そうに覗き込む悠ちゃん。
「――えっ? 何が?」
「何か、気になる事でもあるの?」
「えっ? えっと、あの……今日色々噂になったりして、明日から気が重いなぁ~って」
それももちろん、気になることのひとつに間違いなくて、ため息をつくと、悠ちゃんはなぜか満足そうに笑っている。
――なに? その笑顔……。
元はといえば、悠ちゃんの態度が原因なんだからね!
「俺はあの噂、嬉しかったけど」
――は??
「俺と美希が、そういう深い関係って思われたってことだろう? 美希を諦めてないヤツがそれを聞いたら、ダメージは大きいはずだからね」
……また、何かありえない妄想してますよ? この人。
悠ちゃんの思い込みって本当にすごいよね。
そんな人いないって何回言っても聞く耳持たないどころか、自覚が足りないって真顔で責められる。
大体、どうして私なんかがモテると思いこんでいるのやら。
悠ちゃんの目には、何か私を美化するフィルターが掛かってるとしか思えないんだけど。