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第30話 王子様と私のその後6

ここまで来れば、会話を聞かれることもないだろうってところまで階段を上ると、腕を離して正面からキッと悠ちゃんを睨んだ。

――とは言っても、見上げるほどの身長差じゃあ、相手は睨まれてるとも思ってないかもしれないけどね!


「美希……? どうした? 誰かに泣かされたんじゃないのか? 俺はてっきり――」

「誰かに泣かされたんだとしたら、それは悠ちゃんに、だよ!」


きっぱりそう言うと、驚いた表情の悠ちゃんにまじまじと見つめられた。

「俺に……?」

そうよ! という思いで大きくひとつ頷くと、眉を寄せて考え込む悠ちゃん。


今日、これだけ全校生徒の興味の対象になってしまっているのに、気付いてないわけないよね?

あの噂だって、里奈ちゃんの言い方じゃあ、かなり広まっているみたいだし、それを悠ちゃんが知らないわけもないよね?


「今日の悠ちゃんはどう考えても変でしょ! 私もう、朝からずっと恥ずかしくて仕方なかったんだから~!」

「変? どこが変なんだ? やっと美希と本当の恋人同士になれて、遠慮なく恋人として振る舞えるようになったってだけじゃないか」

全く悪びれた様子もなくて、本気でわかってないの? これ??

「だから、それがやりすぎなの! そ、それに! 噂のことだって知ってるよね? 悠ちゃんがそんな態度だから、あんなありえない噂が流れちゃったんだよ!」


「――ありえない?」

悠ちゃんの眉がピクリと動き、すぅーっと目が細められる。

その目に視線を捕らえられ目をそらすことも出来ないまま、どんどん顔が近付いてくる……!


階段の踊り場にいた私はジリジリと後ずさり、とうとう背中が壁に当たってこれ以上逃げられなくなった。

それでも構わず、悠ちゃんはどんどん距離を詰めてきて~!

私の顔の両側に手をつき、囲い込まれてしまった!


こ、これが! 漫画でよく見る「壁ドン」ってやつですか~! それも、両手バージョン!!

実際に自分がやられると、ドキドキがハンパないんですけど~!

しかも、相手が悠ちゃんって!! 

こんな状況、現実に起こるなんて思わないでしょう! 普通!!


「……あの……悠ちゃん?」

「ありえないって、どういう意味? あの時俺が言ったこと忘れちゃった? 近いうちに美希を全部貰うって言ったよね? という事は、噂が本当になるのも時間の問題だよね?」


――え、ええっと……。

そんなこと、言いましたっけ……??

うっすら記憶にあるような……?

でも、全部貰うってそういう意味なんデスネ?

あの時は、色々といっぱいいっぱいで、どういう意味かまで深く考えていませんでした……。


真っ赤になってアタフタしている私を見て、フッと笑みを浮かべた悠ちゃんは、壁についていた手を肘を曲げた状態にしてさらにグッと距離を詰める!

もう至近距離すぎて、蛇に睨まれた蛙のごとく視線をそらすことさえ出来ない私。


「――美希はたしか、人目がないところだったら、いいんだよね?」

「……へっ?」

いいって、何が~~!?


「今は、誰も見てないから、いいよね?」

そう言うなりさらに顔が近付いて、ゆっくりと唇にキスをされた!!

触れたとき同様、それはゆっくりと離れていき、視線を合わせて蕩けるような笑みを浮かべる悠ちゃん。


……そんな嬉しそうな顔をされたら、何も言えないよ~!

――それに、私だってイヤなわけじゃない。

ドキドキはもの凄いし、やっぱり恥ずかしいけど、嬉しいって気持ちも本当。

だって、私のこと好きって、大好きって、伝わって来るんだもん。


そんな気持ちが顔に出てたのか、さらに甘い笑みを浮かべた悠ちゃんはまたキスをしてきた。

さっきよりも顔を傾けて強く唇を押し付けるので、自然と口が少しづつ開いてしまう。

するとすかさず、そこへ舌がすべり込んできた!!

「――っっ?!!!」


う……うわぁ~~!! こ、これが……!! 大人のキスってやつなの~!?

そういうものがあるってことは知っていたけど、話に聞くのと実際体験するのはえらい違いだよ~!

な……なんか、生々しくってすごく恥ずかしいんだけど~!


どうしていいのか分からず、とりあえずされるがまま……。

い、息が……!!

でも、大人のキスはすぐには終わってくれず、ようやく唇が離れたときは息苦しさのあまり「はぁはぁ」と肩で息をしていた……。

ファーストキスから数日しか経ってないのに、もうちょっと手加減して下さい~~!


「やっぱり可愛いね、美希は」

嬉しそうにそう言って、もう一度チュッと軽くキスをしてから、そのまま抱きしめられた。


――あんなキスしておきながら、悠ちゃんは全然余裕なのね……?

これが経験値の差っていうものデスカ?

なんだかモヤモヤするんだけど……。


悠ちゃんに彼女いたとか聞いたことないけど、知らないだけでやっぱりいたんだよね、きっと。

そりゃあそうよね。

あれだけ昔から女の子に囲まれてて、今までいなかった訳ないよね……。


これまで全く気にならなかった事が、急に気になりだしてしまって、そんな自分に戸惑いを覚える。

今まで意識したことのなかった負の感情が、自分の中で大きくなっていくようで、なんだか怖い……。


そんな事をぼんやりと考えていて、されるがまま悠ちゃんに抱きしめられていたけど、そこへ予鈴が鳴ってハッと我に返った。

どうやら思った以上に長い時間、ここにいたらしい!







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