表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/45

第3話 (悠真視点)

第1話直後の、悠真視点となります。

――――冗談じゃ、ない。



部屋のドアを開けたまま、入ってこようともしない妹の、やや涙目になった目を鋭く見つめながら腕を組む。


「私だって今日初めて聞いたのよ。美希ちゃんも昨日聞かされたばかりだって……」


あと少し……そう、彼女が高校生になったら、本格的に動こうと計画していた。

ここから結婚までのシナリオも、俺の中ではほぼ出来上がっていたというのに。

これからという一番重要なところで、思いもしなかったところから邪魔が入った。


「……で? どこの高校を受けるんだ? 引越し先は?」

「う……まだ聞いてない。っていうか、昨日の今日だしまだ決まってないんじゃないの?」

「できるだけ早く、その辺まで聞き出してきてくれ」

俺はこの先の計画をどう軌道修正するか思案しつつ、これで話は終わりとばかりに妹に背を向けた。


「――っ! もうっいい加減やだっ! なんで私が、こんなスパイみたいなことしないといけないの!? 聞きたきゃ自分で聞けばいいじゃん! 美希ちゃんは大事な親友なのに、こんなコソコソお兄ちゃんに報告してるなんて、私もうイヤなの!」


「……へぇ?」


俺はもう一度妹の方を向くと、冷気を飛ばしながら口元だけで笑った。

「その大事な親友を、今までご褒美につられて俺の言うままに騙してきたのは誰だっけ?」

「だ……騙してっ!? そんなことしてないっ! 大体一番最初は幼稚園の時じゃない! 大好きだったお店のシュークリームを自分の分もあげるから、家に美希ちゃん連れて来てって! 幼稚園の子に、それが言う事をきかせるためのエサだとか、わかるわけないでしょ!」


「そうだねぇ。 幼稚園の時ならね? でも、それからずっと、瑠奈は俺の『お願い』を聞いてご褒美もらってるよね? 一番最近は……たった2ヶ月前だっけ。その時のご褒美は――」

「わぁ! いい! もうわかったからやめて!」


瑠奈は4年前から俺の友人に熱を上げている。

中学に進学してから出会ったそいつが家に遊びに来たのがきっかけだが、それ以来ご褒美という名のエサは奴の情報になった。

あいつのほうも最近は瑠奈を気にしているようだが、決して協力はしない。

ここでくっついてしまったら、次のエサを探すのが面倒になるからね?



俺、神木悠真は大変外面がいい。

外では完璧な優等生、完璧な王子……を演じている。

親でさえ、本当の俺を知らないかもしれない。

こんな腹黒い俺を知っているのは、ほんのわずかな友人と妹の瑠奈くらいなものだ。


母が英国とのハーフであり今でも美人、父も長身のイケメン。

2人の遺伝子のおかげで、俺の外見はやたら整っている。自分でもそう思う。

寄ってくる女はそれこそ物心ついた頃から鬱陶しいほどだった。


でも、俺が欲しいと思うのは昔から美希ただひとり。

初めて出会った幼稚園の時から、俺は美希に囚われている。

理由なんて俺にもわからない。

出会いから今までずっと、美希にしか心も身体も反応しないのだから、もう運命としか言い様がない。


美希は、本当に可愛い。

少しクセのある肩までの髪も、真っ黒な大きな目も、くるくる変わる表情も、150センチと小さくて華奢なところも、その割に大きめな胸も、真っ白できれいな肌も、とにかくすべてが愛しくてならない。


大人しそうな、守ってあげたいタイプの見た目の割に、芯はしっかりしていて素直でまっすぐ。

時々頑固だとさえ思うほど、自分の考えをしっかり持っているかと思えば、人がいいのか他人の言葉に流されてしまう危なっかしい面もある。


そんな美希の理想の男は王子様。

これはもう子供のころからずっとだ。


園児の段階でそれに気づいた俺は、そこからずっと王子の仮面をかぶっている。

小学生のころまでは

「悠ちゃん、王子様みたい~」

と、ニコニコしながら言ってくれたのに、俺が中学に進学すると同時に引越してからは、たまに会っても会話もそこそこに逃げられるようになってしまった。


理由がわからず焦りを感じたが、瑠奈に聞き出したところ、俺の外見や王子っぷりに緊張しているみたいだとのこと。

ということは、男として(それも美希の理想である王子様のような)俺を意識し出したって事だと、いい方に考える。


美希はもともと恋愛には奥手で、強引なアプローチは逆効果だと考えていた。

俺は近くにいて存在を意識させつつ、じっくりと美希の気持ちがこちらを向くまで待つつもりだった。

そう、美希が中学生のうちはそうやってじっと耐えていた。

もちろん、その間にどこかの男に攫われることのないように、私立で校則も厳しい女子校を受験するように仕向け、ありがちな合コンや紹介も瑠奈にブロックさせ、とにかく男を近づけないようにしてきた。


それなのに。


高校もそのまま女子校で、瑠奈に見張らせるつもりが、ここにきて共学に進学することになるとは……!

それも、そこには男をブロックする役目の瑠奈はいない。

いや、瑠奈がいたところで美希のあの可愛さでは、すべての男を近づけないなど無理に決まっている。

そんな状況はとてもじゃないが、許せるはずなどなかった。


そこで俺はある決断をする。


俺にとっての第一優先事項は美希だ。

それは絶対揺るがない。

近い将来、美希を完全に俺のものにするために、今は最善を尽くすのみ、だ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ