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第28話 王子様と私のその後4

午前中の課外が終わる頃には、ほぼ全校生徒に今朝の恥ずかしい悠ちゃんのセリフや態度が、駅での「頭にキス」事件も加えて広まっているとクラスの子に聞かされ、文字通り頭を抱えてしまった。


クラスの半分程は、授業が終わるとすぐに教室を出て行った。

帰宅組や、午後からの部活のために学食や売店に行くためだ。

残ったお弁当派の部活組たちから感じるこの空気……。

聞きたいけど、聞きにくい……ってそんな感じ?

私が必死に「そっとしておいて~!!」ってオーラを出してることもあるだろうけど。


――スマホをいじっているクラスメイトがみんな、私と悠ちゃんの話題で盛り上がってる気がしてしまうのは、あながち被害妄想とは言えないよね?

現にみんなチラチラとこっち見てるし!


そこへ里奈ちゃんがやって来た。

里奈ちゃんは帰宅組なので、私が今日は帰るかどうか聞きに来たんだろう。

いつもなら生徒会に顔を出すんだけど、今日はもう早く帰りたい……。


「里奈ちゃん……もう今日は生徒会行かないから、一緒に帰ろう?」

「――うん、まぁ、その方がいいかもね。でも大丈夫なの? なんか、すごいことになってるみたいだけど……美希ちゃんも大変だよねぇ」

「里奈ちゃ~ん……」

涙目になってるであろう私に、よしよしと頭を撫でてくれる里奈ちゃん。


「それにしても、神木先輩どうしちゃったの? この週末の間に先輩があんな風になっちゃうような、何かがあったって事?」

「なにか……?」

そのとたん、あの日の悠ちゃんのセリフやキスされたことなんかを思い出してしまって、たちまち真っ赤になる私。

すると、何故かそれを見て里奈ちゃんまでうっすら赤くなっている。

「――え??なに?その反応……。 まさか、噂は本当だったの~?」


?? うわさ?

「なに? 噂って」


「――美希ちゃん、もしかして今日スマホあんまり見てないとか?」

里奈ちゃんが顔を近付けて、なるべく小声で会話を交わす。

「……だって、朝からLINEで色んな人に悠ちゃんのことすんごい聞かれるし、でも何て返事したらいいかわかんないし、どうしようもなくてもう見るのやめて、ついでに電源も切っちゃった……」

キャパを超えると出る私の悪い癖、いわゆる「現実逃避」ってやつだ。


「……あぁ、じゃあ知らなくてもしかたないか。 あのね、噂って言うのは~ 先輩と美希ちゃんが一線を超えてしまったんじゃないかっていう……ね?」

「一線を超える……?」

「そう。 で? で? 本当にそうなの?」

一線を超えるっていう言葉の意味が今いちピンと来なくて、きょとんとしてしまう。

えっとそれ、どういう意味だっけ……??


「一線を超えるって……それって、つまり……え、ええっ!?」

それって、もしかして~!?

「そうそう、この週末に先輩と美希ちゃんがエッチしちゃったんじゃないかって、みんな噂してるの~」

「――っ!? えぇっ~~~!!!」


はっきり言われて、やっぱりそういう意味なんだとわかり、それと同時に大声を出してしまって慌てて手で口をおさえる。

あぁ……ただでさえ様子を伺うように見られていたのに、さらに注目を集めてしまった……。


「何それ!? なんで!? そんなわけないじゃん!」

里奈ちゃんの耳元で、出来るだけ声を抑えて、でも強く否定する。


「あ、そう? なんだ、やっぱガセかぁ~。 でも、この噂ってあたしが気づいたときにはもう事実認定されてたよ? まさかとは思ったけどねぇ。でもまぁ、あの先輩のメロメロっぷり見たら、もしかして本当かもって思うよね~」


え……。

ってことは、ほぼ全校生徒が、私と悠ちゃんが……その……そういうことしたと思ってるって事!?

ど……ど……どうしよう~~!


そんな恥ずかしすぎる状況、耐えられない~!

明日から、学校来たくない~!

早く家に帰って引きこもりたい~!


そんな私の心中を正しく読み取ったらしい里奈ちゃん。

「だ~いじょうぶよ! 今から知り合い全部に訂正しておくから。 美希ちゃんと一番仲いいあたしの情報だったら、みんな信じてくれるって。 で、ガセだったっていうのが今度は広まるはずよ~」

そう言いながらもう、里奈ちゃんの指がすごい速さでスマホの画面上をすべりだした。


「うぅ……。里奈ちゃん、ありがと……」

思わず涙ぐんでしまう。


そんな時、廊下がザワザワし出し、「きゃあ~」って黄色い声が聞こえてきた。

まさか――? これは、ひょっとして……?


「美希!」

やっぱり、悠ちゃん!!





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