第27話 王子様と私のその後3
今日は朝の6時と今回の2話投稿しています。
月曜日の朝。
どんな悠ちゃんを見ることになるのかと、ドキドキしながら待ち合わせの駅のホームへ行くと……。
そこには先週と変わらない様子の王子様が立っていた。
相変わらずイヤホンを耳に携帯で音楽を聴きながら周りを牽制しつつ、その立ち姿全体から王子様のキラキラオーラを放出していて、これでもかと女子たちの目を引きつけている。
その見慣れた光景に妙に安心して、「なんだ、心配する必要なかったな~」なんて思ったのも束の間。
私に気付いた悠ちゃんが「美希!!」と大きな声で呼びながら、あの蕩けそうな笑みを浮かべて長いコンパスを駆使し、あっという間に目の前にやってきた。
いつもより明らかにハイテンション。
私の名前も呼び捨てで声も大きいので、その違いに気付いたのか一部の女の子たちがザワザワしだす。
その上、
「おはよう、美希」
と言いながら、あろうことか肩を抱き寄せ、頭のてっぺんに「チュっ」っとキスをしたのだ!!
周りでそれを見ていた女の子たちは、もうザワザワを通り越してキャア~!って反応。
そういう私ももうちょっとで「ウギャア~!」って言ってしまいそうだった!
なんとか叫ぶのは堪えたけど、顔を真っ赤にしたまま固まってしまう。
こ……こんな混雑した朝の駅のホームで何してくれてるの~~!?
人前でベタベタするのはイヤだって、私、この前言ったよね!?
わかったって言ってたのに、全然わかってないじゃないの~!
そりゃ、いきなり冷たく周りを威嚇されるのも困るけど、こんなのも困る~!
心配してたのとは逆方向にだけど、悠ちゃんがおかしくなっちゃってるよ~~!
心の中ではありったけの抗議をしていたけど、結局固まったまま何を言うことも出来ずにされるがまま。
悠ちゃんに手を繋がれて電車に乗り、いつもの満員電車でいつも以上に抱き寄せられ、周りの数多の視線を浴びながら 「これってなんの拷問!?」と心の中で半泣きになっていた。
駅から学校までもしっかり手を繋いだままで……。
時折、斜め上から甘ったるい視線を感じ、とてもじゃないけどそっちを見られずにいたら、
「美希? どうかした?」って言いつつ屈んで顔を覗き込まれるし!
思わず真っ赤になったら、
「フフっ……可愛い」なんて、蕩けそうな笑顔で言われるし!
近くを歩いていた複数の東高生がそのやり取りを見て、ある人は目を見開いて、ある人は気まずそうに目をそらして、早足に離れていく……。
あぁ……もう、ごめんなさい。
朝から何考えてんの?……って感じですよね?
でも、私だって同意見なんです!
本当にこの人、どこかネジが外れちゃったんじゃないでしょうか……。
学校に着いても、悠ちゃんはおかしいままだった。
表情や、キラキラ王子様スマイルはいつも通りなんだけど……。
じゃあ、どうおかしいかっていうと――
ひとことで言えば激甘!!
私に対する態度が先週と違いすぎ!
今までは昇降口で「じゃあ」って別れてたのに、なぜか1年の教室に一緒に来ようとするし。
「――どうしたの?」
暗に、付いて来ないでね? って意味合いを含めて行く手を遮ってみるけど……。
「教室まで美希を送り届けるだけだよ?」って。
――それ、必要ないよね??
「あのね、悠ちゃん。今までそんな事してなかったよね? そもそも教室まで送るっていう理由がわからない」
「理由? そんなの決まってる。少しでも長く大好きな美希と一緒にいたいからじゃないか」
「……っ!!」
だ~か~ら~!
そんなセリフを、そんなキラキラした笑顔と共に、周りに聞こえるボリュームで言わないで~!
で、当然のようにまた、手を繋いで歩いてるのはどうしてなの~!?
悠ちゃんに好きだって想われるのは嬉しいけど、ここまで人目もはばからず愛情表現されるのは、ちょっと勘弁して欲しい!
ほら! 朝のこの時間だけでも、周りの悠ちゃんを見る目がちょっと残念な方向に変わって来ちゃってるよ~~。
1限目の課外が始まるまでのわずかな時間で、東高で今や大注目のカップルであるが故に、いつもよりさらに甘い王子様の様子は、全校生徒のみならず一部の教師にまで猛スピードで広まっていった。
――LINEで、ツイッターで、メールで、ブログで、フェイスブックで。
みんなの反応が大好物という世代の彼らには、誰よりも早く発信したい格好のネタだったのだ。
その結果、かなりの人数が競い合うようにSNSを駆使して、いちカップルのラブラブっぷりを全校……いや、結果的に全世界に向けて発信するという、意味がわからない状況になっていた……。