第26話 王子様と私のその後2
番外編として書くのには無理がありそうということで、完結を外してあと数話続きを投稿します。
短い間ですが、またお付き合い頂けたら嬉しいです。
水族館での初デートから帰った後、私は学校に行くのが少し心配になっていた。
本当の恋人同士になった事で、これまで抑えていたタガが外れたかのように、私に対する気持ちがそれはもうダダ漏れ状態の悠ちゃん……。
自惚れでもなんでもなく、当事者である私自身引いてしまうような溺愛ぶり。
さらに、悠ちゃんの妄想の世界で勝手に嫉妬されて詰め寄られるという、とんでもなくメンドくさい思いまでさせられた。
そして、そんな超スイートな一面とは相反する、王子様の面影の欠片もない、ダークな面も躊躇なくさらけ出し始めた悠ちゃん……。
私にはそれはそれは甘~い態度だけど、ちょっとでも2人の邪魔になりそうなものは、容赦なく排除しようとする。
待ち合わせで周りを威嚇していたのもそうだったみたいだし、その後も自分に寄ってくる逆ナン目的の女の子たちに、冷たい一瞥を向けたきり一切無視を決め込んでいたり、私に近付く男の子(って言っても混雑した中ちょっと肩が触れたり、すぐ後ろに立ってたってだけで意図して近付いた訳ではない……けど、もちろん悠ちゃんはそう思ってない)たちに冷たく鋭い目つきで睨みを効かせたり。
その視線の冷たさは、私を含めて周り中を凍りつかせるほどで。
誰にでも優しかった王子様の面影はキレイさっぱり消えてなくなり、――あなたダレですか??っていう状態だった。
でも……。
もし、学校でもそんな態度だったらどうなるんだろう。
私たちにしてみれば、この週末で2人の関係は劇的に変わった訳だけど、付き合ってる「フリ」をしていたとは誰も知らないのだから、いきなり悠ちゃんがそんな風に豹変したら、きっと学校中が大騒ぎになるよね??
理由がわかってる私でさえ、あの変わり様には驚愕だったんだから。
そう思って、水族館からの帰り道にそれとなく言ってみた。
すると……
「美希がこうやって俺のものになったんだから、もう王子でいる必要はないだろう? 誰にでもいい顔するのも正直面倒だとずっと思ってたし、美希以外の子に告られるのも、まとわりつかれるのもいいかげん鬱陶しい。って言うか迷惑。 それに、今まで王子を演じてるばかりに、学校でなかなか美希と一緒にいられないのも不満だったし」
綺麗なお顔を不機嫌にしかめて、ぶっちゃけたセリフの数々を吐き出した悠ちゃん。
今までキラキラ王子様スマイルの下で、実はこんなこと考えてたんだね……。
素で王子様なんだとばっかり思ってたよ……。
でも実は、こんなどう考えても王子様とは言えない悠ちゃんに対しても、ドキドキしている自分がいたりする……。
結局、好きになっちゃったら、どんな悠ちゃんでもいいって事……?
あ~~。ホント、私、悠ちゃんにハマっちゃったんだなー。
「ん~でも……私としては、王子様バージョンの悠ちゃんを見られなくなるのは、ちょっとさみしいなぁ……」
そう、どんな悠ちゃんでも今は大好きだけど、やっぱり昔から憧れていた王子様な悠ちゃんって、私にはトクベツなんだ。
マンションのエントランスまで送ってくれた悠ちゃんを、正面から見上げながらそう言うと、
「あぁ、もう!」
と一言言うなり、いきなり抱きしめられた!
えぇっ?!!!
「なにその上目遣い、可愛すぎだろう! 俺の忍耐力を試してるの?」
また、そんな訳のわからないことを~~!!
見上げただけで、上目遣いなんてしてないよね!?
こんな、いつ誰が通るかわからないところで、やめてぇ~!
ジタバタしている私の気持ちを察したのか、名残惜しそうに腕を離してくれたけど……
その代わりとばかりに、両手を包み込むように握られ、私の顔を覗き込んでわざと視線を合わせたまま、指先に「チュッ」っと音を立ててキスされた~!!
……すみません……もう本当に勘弁してください……。
この前から、心拍数の変動が激しくて、本気で心臓がどうにかなりそうです……。
「美希がそう言うんなら、外ではなるべく今まで通りに振る舞うよ。ただし、もう王子であることに必要性を感じてないから、今までと違って王子の仮面は剥がれやすくなってるって事は覚えておいて?」
そう言ってニヤリと笑ったその顔は、もちろん、王子様とは程遠かった……。