表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/45

第25話 王子様と私のその後

悠ちゃんと「フリ」ではなく本当に付き合うことになってしまった……みたい??



私は自分の部屋で何をするでもなく、ただ呆然としていた。

さっき、悠ちゃんに送ってもらって帰ってきたばかりだけど、なんだかまだ現実だとは思えなくて頭の中がキャパオーバー状態で。


でも、悠ちゃんに思いっきり抱きしめられたり、キスされたりした感触は生々しく残っているから、きっと夢じゃないんだろうけど……。


思えば、ジェットコースターみたいな1日だった。


付き合ってる「フリ」をやめようって言われて、初めて自分の気持ちに気が付いて。

でも、その気持ちを封印して諦めようと決心して。

そう決心したかと思ったら、信じられないけど悠ちゃんも私を好きだとわかって、本当の恋人同士になることになって。

ここまでは、うん、夢見てるみたいな信じられない気持ち、嬉しい気持ちしかなかったんだけど……。

問題はそのあと……だよね?


まさか、悠ちゃんが本当はあんな人だったなんて……!!


ずっとずっと、穏やかで誰にでも優しい理想の王子様だと信じて疑わなかった私は、ショックで真っ青になった。

だけど、一度気付いてしまった恋心は、そのことで消えてしまうほど小さくはなかったようで、私のために王子様を演じていたと知って嬉しいなんて思ってしまうほど、悠ちゃんにがっつり気持ちを持っていかれてたと自覚しただけだった。



晴れて本当に付き合うことになった私の彼氏は、超ハイスペックな完璧王子様……の仮面を被ったオレ様腹黒男子だったんです……。






次の日。


土曜で課外もなく、当然のように一緒に出かけることになった。

これって、いわゆる初デートってやつですか??


待ち合わせ場所の駅に向かいながら、どんどん緊張してきて困ってしまう。

いつもこうやって一緒に学校に行ってたのに、やっぱり今までとは気持ち的に違うみたい。


今日はホームではなく駅前広場での待ち合わせ。

その駅前広場に近づくと、まだ待ち合わせ10分前なのになんだか見慣れた人だかりが……。

その中心にいるのは、やっぱりというか当然というか、頭ひとつ飛び出た長身の悠ちゃんだった。


見慣れた光景のはずなのに、どこか違う……?

なんでかな? と思いながらさらに近づくと……いつもよりみなさん遠巻きにして悠ちゃんを見ているようで。

その理由はすぐにわかった。


今までと違い、明らかに悠ちゃんは周りを威嚇していたのだ。

いつものキラキラオーラは封印し、「近づくな!」という、怖いくらいの冷気をこれでもかというくらい撒き散らしている。

それでも人だかりができてしまうのが逆に凄いと思わず感心してしまったほど。


そんな悠ちゃんがやっぱり怖くて、恐る恐る近付いて行った私に気付いた悠ちゃんは、一変して蕩ける様な笑顔を見せた。


「美希!」

相変わらず周りの視線は気にならないようで、人だかりを抜け出して私に近付くなり、頭を撫でながら「おはよう」とにっこり笑い、そのまま手を繋いで改札に向かう。


去年は瑠奈ちゃんといる時に何度か外で会ったから、悠ちゃんの私服は見慣れていたはずだったのに、今日は彼氏というフィルターが掛かったせいなのか、以前よりさらに素敵に映って困ってしまう。

スタイル抜群のイケメンって、何着ても本当にかっこいいんだな~。


そう感じるのは、当然私だけじゃない訳で。

あぁ……周りの女の子たちの視線が突き刺さるよ~。


そんな私の心中を知ってか知らずか

「今日もかわいいね? 美希」なんて囁いてくる、甘々な悠ちゃん。

今までも悠ちゃんのそういう視線や態度にドキドキしてしまっていたけど、今日はまた今までとは比べ物にならない。

これが本当の恋人同士になったってことなんですか~??


あぁ、もう。

私、今日1日心臓もつかな……。



電車に乗ってからも、隣に座った悠ちゃんはずっと私の手を握り、それだけじゃ足りないのか甘すぎる瞳でずっと私を見つめている。


「あの……悠ちゃん」

「なに?」

いや、そんな顔を覗き込まなくても、会話出来るよね?


「えっと、その、もうちょっと、普通にしない?」

私の言葉に怪訝な表情を見せる悠ちゃん。


「普通って、何が?」

「だから、こうやってずっと手を繋いだりとか、ジッとこっちを見つめるとか、そういうのはどうかな~と……」


「――何が、言いたいの?」

あ……悠ちゃんの眉間にシワ……。

同時に繋いだ手にさらにギュッと力が込められる!

あ、あれ?

なんかのスイッチ入っちゃった……??


「……美希」

「っ! ハイ……?」

「昨日のこと、もう忘れたのかな?」

「…………」

「俺たちはもう、恋人同士だよね?」

「……ハイ」

「恋人として、俺の態度のどこが普通じゃないと?」

「え? いや、だって、ずっと手を繋ぎっぱなしとか、ずっと見つめてるとか、ちょっとやりすぎじゃない?……かな~って……」

なんとなく、隣から冷気を感じてそっちを見られずに、言葉を濁してしまう。

なんか、やっぱり王子様じゃない悠ちゃんって、ちょっと怖いよ~~!


「俺は、これでも外だから控えてるつもりだけど? これが2人っきりだったりしたら、こんなもんじゃ済まないよ?」

ヒエ~~!

そんな色っぽい目つきで顔を覗き込まないで~~!

ここ、電車の中だってば~!


「それに、美希の言う普通ってなに? 俺は、美希に対してはこれが普通だと思ってるんだけど?」

う……そうなんだ??


「――それとも、誰かと出かけた経験から普通とか言ってる?」

「……はい?」

何を言われているのかよく分からずに悠ちゃんを見ると、思いっきり危険な目つきをしていた。

えっ! ちょっと、待って~~!!


「……俺以外のヤツとこうやって2人で出かけたことがあるの? その時の相手が美希の普通の基準になってるとか?」

いや、ちょっと、どこから突っ込んだらいいの? これ。

今まで男の子に免疫がなく、接点もなく生きてきた私が、そんな訳ないでしょ~!


あっけにとられて返事が出来ないでいたら、悠ちゃんの目つきがどんどん危険度を増していく。

あっ……これ、なんかヤバイ!?


「――答えられないって、まさか本当にそうなの……?」

「ち、違っ……!」

「相手は誰? いつの間にそういうことしてたんだ?」

繋がれた手とは反対の手で、肩を掴まれ怖いくらいの目つきで見つめられる。

だから! ここ、電車の中だってば~!


「悠ちゃん! ちょっと落ち着いて!」

私は出来るだけ小声で、それでも強い口調で悠ちゃんを落ち着かせようと必死だった。

そんなに混んでいないとはいえ、すぐ近くに他の乗客がいる訳で、何人かにはこの会話も聞かれているのは間違いない。

あぁ、もう~!

恥ずかしい事、この上ない……!


「あのね! そんな訳ないって、本当はわかってるんでしょう? 悠ちゃん以外の人とこんな風に出掛けたことなんて1度もないって」

私の必死な言葉で、悠ちゃんも肩を掴んでいた手を離し、目つきも和らいだ。

よ……よかった~!


「ごめん、美希。やっぱり俺は余裕ないな。 もしかしてって想像するだけでもうだめだ。 今も、もうちょっとで気持ちが暴走するところだった」


恐る恐る聞いてみる。

「……暴走って?」

「ん? あぁ、このまま出掛けるのはやめて、美希をどこかに閉じ込めて、俺以外の誰とも会えないようにしようか……とか?」


――そういうこと、真顔でサラッと言わないで欲しい。

冗談だと思いたいのに、そんな顔で言われたら思えないじゃないの~!


わかったつもりだったけど、本当の悠ちゃんはこういう危ないところがある人なんだよね。

それでも好きだと思う私も、相当悠ちゃんにハマってるって事なんだろうけど……。



結局ずっと手をつないだまま、目的地に到着した。

今日も暑くなりそうということで、悠ちゃんが選んだデートの場所は水族館。

夏休みで土曜日だってこともあり、まだ午前中の早めの時間だけど、すでに親子連れやカップルで賑わっていた。


そんな中、やっぱり人目を引く悠ちゃんは、どこに行っても女の子の視線を集めてしまっている。

こんな場所にいる女性って、彼氏と来てる子か、小さい子供を連れた若いママがほとんどなのに、それでも見られてるってどういうことなの??


今更ながら、どうしてこんなすごい人が私の彼氏なんだろうって思わずにはいられない。

きっと、隣にいる私が悠ちゃんと釣り合うようなきれいで大人っぽい子だったら、悠ちゃんがここまで熱い視線を向けられることはないんじゃないか……とか、ついつい思ってしまう。


恋人同士になったはずなのに、いつものように自信をなくしかけた私に、突然悠ちゃんは繋いだ手を離したかと思うとその手を肩に回してきた!

驚いて隣の悠ちゃんを見上げると、なぜか不機嫌な顔で周りを見回している。


「悠ちゃん? ……どうしたの?」

悠ちゃんは無言のままさらに肩を抱き寄せるように密着してきて、あまりにもくっつきすぎなその体勢に真っ赤になって抗議する。


「悠ちゃん! ちょっと近すぎ! 外では控えるんじゃなかったの?」

そう言いながら、悠ちゃんと離れようとしたんだけど、どうやってもビクともしない。

「ちょっ……さすがにこれじゃ歩けないよ~!」

そうじゃなくても周りの視線が痛いのに、こんなことしてるせいでさらに注目浴びちゃってるし~!


「ダメだ。離れないで! さっきから周りにいる男が、みんな美希を見てる。 美希は俺のものだってひと目でわかるようにしとかないと、いつヤツらに声掛けられるかわからないだろう?」


「……は??」

――もうね?

あいた口が塞がらないって、こういうことを言うのね?


もちろん悠ちゃんの言う通り、さっきからかなり見られてるよ?

でもそれって、男の子が私を見てるってわけじゃないよね?

どっちかというと、先にカップルの女の子が悠ちゃんに目を奪われちゃって、それに気付いた男の子がこっちを睨むように見てるって感じだよね?


大体、こんな人の多いところでこんなに密着してたら、そんな気なくてもちょっとは見ちゃうでしょう!

それも、決していい意味での注目ではないよね!?

バカップル、ウザっ!1 みたいな……。もう、ヤダ……。



「悠ちゃん……」

私は肩を抱いている悠ちゃんの手をペチっと叩いた。

「すぐに、この手を離して! 人前でこんなことされるんだったら、もう悠ちゃんと2人で出掛けるとか私できないよ?」

「美希!?」


私の声のトーンで何かを感じ取ったのか、肩に回されていた手が素直に下ろされ、そのまままた手を繋ぐ。

「美希は無防備だし、隙がありすぎるから心配なんだよ……」


……ずるい。

こんな時だけ、王子様スマイルで顔のぞき込むとか……。

その顔に弱い私は、どうしても真っ赤になってしまって、そんな私を見てますますキラキラ笑顔を振りまく悠ちゃん。


でも!

負けないからっ!

これだけは言っておかないと!


「あのね? 悠ちゃん」

「なに?」

うっ……まだその王子様スマイル続けますか……。

出来るだけ見ないようにしなきゃ、何も言えなくなっちゃう!


「悠ちゃんが色々と心配してくれるのはわかるし、嬉しいよ? でもね、少しは信用してくれないとお互い疲れちゃうよ?」

「でも、美希に近付く男に俺は我慢できない。やっと手に入れたんだし、絶対離さないって言ったよね? 美希は俺のものだって、世界中の男に宣言したい気持ちで一杯なんだ。 絶対に美希を他の男に盗られたくないんだよ」


こんな完璧な悠ちゃんから、そんなすごい殺し文句言われて冷静でいられるはずもなく……顔はさらに真っ赤になってるだろうし、心臓も痛いくらいドキドキしてる!


「あ……あのね? そこまで言ってもらえるのは本当に嬉しいんだけど、それでも私を信じてくれないかな? 今まで悠ちゃん以外の人にこんな気持ちになったことないんだし、この先もなるとは思えないもん。 私は悠ちゃんみたいにモテないんだし、う……浮気とか絶対ないから!」

私の必死な訴えが通じたのか、悠ちゃんはひとつため息をついて「……わかったよ」と言ってくれた。


「ただ、美希がモテないっていうのは完全に間違ってるから。そういう認識だから心配なんだよ。 浮気じゃなくても美希に男が近づくだけでイライラするのは自分でもどうしようもないから、それはわかってほしいんだ」

今度は私がう~~んと唸りながらも、「……わかった」と頷く番だった。


「あ、でも、今日みたいなのはもう絶対イヤだからね! 人前でベタベタするカップルって迷惑だな~っていつも思ってたのに、自分がそうなるとか本当にイヤなの~!」

それに対する悠ちゃんの答えは……

「……わかったよ。今度からちゃんと人目がないところでするから」

「…………」

それもなんかちょっと違うんだけど~!


また真っ赤になって俯いてしまった私の手を「恋人つなぎ」にさっと繋ぎ変えて、そのまま歩き出す悠ちゃん。

その後はなんだか上機嫌で、魚よりも私ばっかり見ていたっていうのは……多分気のせいじゃないよね?




――うん、まだ信じられないけど、私、どうやらかなり、悠ちゃんに好かれてるみたいです……。




この続きを番外編として書き始めたんですが、思った以上に長くなり、さらに内容的に番外編ではなく、もはや続きとしか言えないものになってしまったので、完結を外して続きという形で投稿することにしました。


わかりにくいですが、次の回から新しく投稿した続きとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ