表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/45

番外編 魔王様と私のこれまで (瑠奈視点)

悠真の妹、瑠奈視点です。

後半は24話の続きとなっています。

私は兄のことを、心の中で「魔王」と呼んでいる。

ただし、その呼び名に共感してくれる人はほぼいないことも知ってるし、それも仕方ないと思ってる。


だって、両親でさえあの人の本当の姿を知らないんだもの。

小さい頃から何度か、両親に兄の悪行を訴えたことがあるけど、逆に私が叱られたり、たしなめられたり・・。

親の前でも完璧な外面を崩さない兄は、決して尻尾を出すことはなかった。

そう、ほんの子供の時でさえ……。


兄がその完璧な王子様の外面を纏うようになったのには理由がある。

私の幼馴染にして同級生で親友でもある、早瀬美希を手に入れるためだ。

美希ちゃんは、初めて出会った幼稚園の入園式の時にはすでに、王子様大好きな女の子だったから。


幼稚園児の時にロックオンして、高校生になるまで、兄は自分のシナリオ通りに私も含め周りを動かしてきたのだから、気が遠くなるような長期計画よね。


その間、一切よそ見は無し。

私から見れば、執着心MAXの危険極まりないストーカーでしかないけれど。


そのシナリオが崩れたのが去年、私たちが中3の時。

美希ちゃんが当初の予定になかった共学の高校に行くことがわかった途端、すぐに行動を開始し、美希ちゃんの高校入学と同時に、その学校に編入してしまったのだ。


私は唖然とした。

と同時に、美希ちゃんに大いに同情した。

美希ちゃんには兄の身内として、本当に、本当に、ほんと~に!申し訳ないけど、兄に捕まるのはもう時間の問題だろうとため息をついた。


幼稚園からこれまでの10数年、事あるごとにエサをちらつかせて私を意のままに動かしていた兄。


美希ちゃんを家に呼ぶことから始まり、美希ちゃんに近づく男の子をその都度報告させて自ら牽制に行ったり、私にガードをさせたり。

中学は女子中に入るよう私に誘わせ、入れば入ったで紹介や合コンの話も美希ちゃんの耳に入る前に私から断らせる。


私が失敗しようものなら、あの冷たい目つきと表情でじっと見据えられる。

何も言わないのに、見られただけで全身に震えが走るあの目は「魔王」としか形容出来ない。


私は恐れていた。

子供の頃から、兄だけは怒らせてはいけないと悟っていたのだ。






私が高等部に進学して最初の夏休み。

いつもの通り、部活に行った帰りの車の中で気になることを聞いた。


学校への行き帰りは、住み込みの運転手である佐伯さんに送り迎えをしてもらっている。

佐伯さんの奥さんは恵子さんと言って、家のことを一手に引き受けている。

夫婦で自宅敷地内の離れに住んでいるので、私も兄も両親が仕事で留守がちでも不便なく過ごせているのだ。


その佐伯さんが、美希ちゃんが家に来ていると言ったのだ。

美希ちゃんが家に来たのは、高校生になってから初めてだ。


美希ちゃんはうちに来ると緊張するらしく、中等部の頃も遊ぶのは外が多かった。

その美希ちゃんがわざわざ来るってことは……何か私に大事な用事があったんだろうか?

携帯を確認するけど、何も連絡はない。

どうしたんだろう・・と思っていると、佐伯さんの言葉にギョッとした。


「悠真さんが帰った時に、一緒に来たそうですよ」

お兄ちゃんと……?

そこで考えられることといえば、これしかない。

――とうとう「魔王」に本格的に捕まってしまったのだろうか。


美希ちゃんとはほぼ毎日LINEで連絡をとっているので、あの兄を翻弄してしまうほどの美希ちゃんの鈍さには感心していた。

「彼女のフリ」してるだけだと、本当に本心で信じていたもんなぁ。


近いうちにジレた兄が爆発するんじゃないかと心配していたが、それが現実になっていたのだとしたら……。

美希ちゃん、大丈夫かな……。

美希ちゃんがもしNOと言っても、それを受け入れるような兄ではない。

なんだか、ものすごく心配になってきた……!


「佐伯さん、ちょっと急いで!」

美希ちゃん、急いで帰るから待ってて!




車寄せに着くなり、自分でドアを開けて大急ぎで家に入った。

「瑠奈さん、おかえりなさい。どうしたんですか?そんなに慌てて」

恵子さんがすぐに出てきたので、慌てて聞いた。

「美希ちゃんは? 来てるのよね?」

「美希さんでしたら、悠真さんのお部屋にいらっしゃると思いますよ」

「それっていつから?」

「そうですね……。1時間くらい経つかしら?」


それを聞くなり、私は2階に急いだ。

廊下に荷物を置いたまま、兄の部屋を形だけノックして急いで開けた。


「美希ちゃん! 大丈夫!?」


その瞬間、凍えるような冷たい目で睨まれた。

兄と美希ちゃんはローテーブルを挟んで座っていて、テーブルには半分ほど残った紅茶が置かれている。


「……いきなり入ってくるなんて、瑠奈は礼儀を忘れたのかな?」

その言い方にも目つきにもビクビクしていたけど、今は美希ちゃんが大丈夫かどうかの方が気がかりだった。


「瑠奈ちゃん、久しぶり……。えっと、うん、大丈夫、だよ?」

いやいや、その表情がすでに大丈夫じゃないでしょ~。


美希ちゃんはやや青ざめていて、でもなんていうか、恥ずかしそうにモジモジしている様子も見て取れる。

お兄ちゃん! 何かやらかしたの!?


「とにかく、瑠奈は部屋へ行って着替えた方がよくないか?」

それもたしかにそうなので、仕方なく着替えに行くことにする。


「美希ちゃん、じゃあ私の部屋に行こ?」

立ち上がりかけた美希ちゃんを、目にも止まらぬ素早さで兄が止めた。


「瑠奈、今日だけは遠慮してくれないか? 俺と美希は本当の恋人同士になったばかりなんだから」

そう言って満足気にニヤリと笑う兄の顔は、私が恐れる真っ黒な「魔王」そのもので、「王子様」の面影はまるでなかった。


うわ~……。 本性晒してるし……!!


驚いて美希ちゃんを見ると、いつの間にか兄に後ろから肩を抱き寄せられていて、兄の表情が見えないせいもあるのか、顔を真っ赤にしている。


「美希、ちゃん……?」

それでいいの!? って気持ちを込めて、美希ちゃんを見つめる。


「私も、もう驚きすぎてよくわからないっていうか……。悠ちゃんも思っていた感じと全然違うし、なんか怖かったんだけど……。うん、でも、やっぱり嬉しくって……」

そう言って、はにかんで笑う美希ちゃんは本当に可愛くて!!


あぁ、こんな純粋な美希ちゃんが、「魔王」に捕まってしまった……。

その手助けをしていた自覚がある私の罪悪感はハンパない。


ハンパないけど、美希ちゃんがイヤだと言っても「魔王」は許さないだろうし、美希ちゃんに受け入れてもらえなければ、確実に兄は犯罪者になってしまう気がする。


それなら、美希ちゃんが兄を心から受け入れて、好きになってくれた方が、みんなにとって幸せなのは間違いない……。


美希ちゃん、本当に悪いと思うけど、世の中の平和のためにも、どうか兄の側にずっといて、兄を好きでいてあげて……!


「じゃあ、美希ちゃん……あとで連絡するね?」

「うん。 私もそろそろ帰るし、また遊びに来るから……って! ちょっ! 悠ちゃんっ!?」


――あの……お兄ちゃん……? 私、まだ部屋出てないんだけど……?

ハイハイ、早く出て行けってコトですね?


私は、イチャイチャし始めた2人(と言っても兄が一方的にだが)を見ないように、慌てて部屋を出てドアを閉めた。



これで本当に良かったのかは私としては疑問が残るけど、当の美希ちゃんがあんな嬉しそうな顔してるんなら、きっと良かったんだろう……。

今のところは……。


「魔王」はきっともう死ぬまで美希ちゃんを手放さないだろうし、美希ちゃんがそれでも幸せでいられるよう、私はこの先も「魔王」にいいように使われる覚悟を決めた。



仕方ないよね……?

親友にして、将来の義理の姉のため、だもんね?





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ