第22話
――なんだろう。
そうなるだろうと思っていたはずなのに、いざそう言われるとショックを受けてしまっている……。
そっか……もう、悠ちゃんの側にはいられないのかぁ。
周りに見せるためだけだとしても、あの甘い視線にも、とろけそうな笑顔にも、名前を呼ぶ時の甘い声にも、やっぱりときめいていたんだよね。
月曜から、駅で私を待つ悠ちゃんを見ることもなくなるんだ。
生徒会で遅くなれば一緒に帰れるかもしれないけど、家まで送ってくれることはもうないだろう。
そして、そのうち……誰か他の、きれいで大人で悠ちゃんの隣が似合う人が、悠ちゃんの甘い視線や笑顔を独り占めすることになるのかな……。
そこまで考えて、ありえないくらい胸が苦しくなった。
……なにこれ? なんでこんな苦しいの?
悠ちゃんの隣に私じゃない人がいるって……想像するだけで……イヤ! 絶対にヤだ~!!
……待って…………私、バカなの?
なんで、今まで気付かなかったの?
確かに期待しないように、思い違いしないように「フリ」だと言い聞かせてきたけど、自分の気持ちにまで蓋をして気付かないようにしていたなんて……!
――とは言っても、元々本当に付き合っていたわけでもないし、悠ちゃんが私を好きだったわけでもないし、気付いたところで何一つ変わらないんだけど。
むしろ、悠ちゃんを困らせないで済んでよかったと思おう。
しばらく、悠ちゃんと顔合わせないように気を付ければ、きっと少しずつ忘れられるはず!
うん! 頑張れ!私!
悠ちゃんを困らせることだけはしたくないもん!
「美希ちゃん? 聞いてる?」
ハッと目を上げると、悠ちゃんに至近距離で顔を覗き込まれていた。
また眉間にシワを寄せて、顔をしかめている。
「僕の声も耳に入らないほど、何を考えていたのかな?」
そう言いながら、さらに顔を近づける。
「あの男のこと……じゃないよね?」
「え?」
悠ちゃんの言葉の内容よりも、あまりに近くに綺麗な顔があるせいで、どんどん顔が真っ赤になっていく。
それを見た悠ちゃんの視線がすぅーっと暗く陰っていき、何故か両手で顔を固定されてしまう。
え?なに?って思っていると、柔らかい何かが一瞬、だけどしっかりと唇に触れてゆっくりと離れていった。
呆然としていると、目の前の綺麗な顔と目が合ってこれ以上ないくらい顔が熱くなる。
今のは……。
気のせい……じゃないよね?
目、開けて全部見てたんだもん。
今のって……キス?だよね!?
「あの男じゃなくって、僕のことを考えて赤くなって?」
いや、もうすごい赤いはずですけど!
っていうか、さっきも孝也くんのこと考えてたわけじゃないんですけど!
「これで美希ちゃんのファーストキスは僕のものだね?」
そう言ってニヤっと笑った悠ちゃんは、いつもの王子様スマイルとは程遠かった。
もう……何がなんだか……。
悠ちゃんが何考えてるのか、全然わからないよ~!!
「美希ちゃん、まだわかってない顔だね? これからは「フリ」じゃなくて、僕は美希ちゃんを本当の彼女にするから」
「……はい?」
「美希ちゃんが僕の側にいることに慣れるまで待とうと思ってたけど、そんなことしてて他のヤツに横から攫われるなんて我慢できないからね」
「ゆ……悠ちゃん!?」
今いち理解出来ないんだけど、これって悠ちゃんが私を好き……って事!?
そ……そんなこと、ありえるの??
「美希ちゃんはまだ、僕を恋愛感情で好きなわけじゃないかもしれない。でも、僕は美希ちゃんしか考えられないし、必ず僕を好きになるようにしてみせるよ。だから――」
私を見つめる悠ちゃんの視線が、今までにないくらい熱くて甘い。
「僕の恋人に、なってくれるよね?」
こ……恋人~~!?
彼女よりも親密さを感じさせるその言葉と、今まで以上に甘い視線に耐え切れずに目をそらして俯く。
ちょっと、まだ混乱してて色々とよくわからない。
そもそも、悠ちゃんが私を好きってことが信じられない。
私のどこに、悠ちゃんに好かれる要素があるの?
背も低くて子供っぽくて、特別可愛くもないし、スタイルもよくない。
悠ちゃんの周りには、きれいな人がたくさんいるし、そういう人たちから常に言い寄られているだろうに、どうして私?
「でも……悠ちゃん、やっぱり信じられないよ。悠ちゃんみたいな人が私なんか……」
悠ちゃんは、「はぁ……」っとため息をつくと、私から離れて自分のスマホを持ってきた。
それを操作してこちらに向ける。
ん?なに? ツイッター?
そこにある画像を見て「え!?」とびっくりした。
そこには、今日のカラオケ店での私たちが写っていた。
男の子2人は向こうを向いているけど、私と里奈ちゃんはバッチリ顔がわかる角度で。
さらにツイートの内容は……
「王子の彼女と遭遇したよぉ~! なんと男連れ!!」
なんだ、これ~!!