第20話
久しぶりの豪邸。
名の知れた高級住宅地の家々はどこも大きなものばかりだが、中でも群を抜いて広い敷地を持つのが神木家だ。
ここまで来る間も悠ちゃんはずっと手を離してくれなくて、おまけにずっと無言だった。
やっぱり、いつもと違うよね……。
そういえば瑠奈ちゃんに会うのも、本当に久しぶりだ。
普段、LINEでおしゃべりはよくしてるけど、私も生徒会で忙しく、瑠奈ちゃんも高等部になって弓道部に入ったらしくて、土日もなかなか予定が合わなかったのだ。
会いたがってたってことは、今日は家にいるのかな?
門のセキュリティを解除して中に入ると、玄関までは歩きだとそこそこ距離がある。
最初に来た時は、その門から玄関までの距離にも驚いたし、玄関前に小型のロータリーのような車寄せがあったり、その横には何台分?っていうガレージがあったり、とにかく、ここは日本ですか??って聞きたくなるほどの家で、本当にびっくりした。
玄関のドアを開けながら、やっと手を離してもらえた。
奥から、パタパタと足音がして中年の女性が現れる。
この家でずっと家事を取り仕切っている、恵子さん。
庶民には驚きだが、住み込みの家政婦さんだ。
他にも通いのお手伝いさんが、その時々で違うが2~4人くらいいる。
まぁ、悠ちゃんのご両親はお二人共、今は頻繁に海外を行き来するような仕事をされているようなので、家のことをやってくれる人は必要なんだろう。
……もちろん、私には別世界なんだけれど。
「まぁ悠真さん、お帰りなさい。今日は早いんですね。 あら、美希さんもご一緒ですか? お久しぶりですねぇ」
「あ……こんにちは。おじゃまします……」
「恵子さん、僕の部屋にお茶をお願いします」
悠ちゃんは王子様スマイルでそう言うと、こっちを振り向いて私を見てから、「行こうか」と先に立って2階へ歩き出した。
悠ちゃんの後を追いながら、あれっ?と思う。
瑠奈ちゃんはどうしたんだろう。
いつもなら、来客があればすぐに出て来るはずなのに……。
悠ちゃんが部屋のドアを開けて「どうぞ?」と招いてくれる。
そっか、そういえば悠ちゃんの部屋、入るの初めてだ。
いつも、この家で悠ちゃんと会うのは1階の広~いリビングでお茶する時だけで、あとは瑠奈ちゃんの部屋に行っていたからなぁ。
シンプルなモノトーンのインテリアのその部屋は、瑠奈ちゃんの部屋と広さは同じらしいのに、物が少ない分広々として見えた。
でも、隣の瑠奈ちゃんの部屋からはやっぱり人の気配がしない。
「あの……瑠奈ちゃんは?」
悠ちゃんはニッコリ笑う。
「あぁ、まだ帰ってないみたいだね? そういえば、部活でいつももう少し遅いんだった。僕の方がいつもはもっと遅いから、帰ったらいるんだとばかり思ってたよ」
なんだろう……なんだか悠ちゃんの笑顔がちょっと……うん、なんでかわからないけど、ちょっと怖い気が……?
その時ふと、今の状況を考えて急に緊張し始めてしまった……!
(家政婦さんはいるけど)家族が誰もいない家で、おまけに(超ハイスペックな)男の子の部屋で、今2人きりなんだよね??
そこへ、ノックの音。
「どうぞ」
ドアが開くと、恵子さんが紅茶セットと焼き菓子を乗せたトレイを持って入ってきた。
部屋の中央にあるローテーブルにそっと置くと、
「あとは僕がするから、大丈夫だよ」と、また悠ちゃんはニッコリ笑う。
「じゃあ、お願いしますね」と言って、恵子さんは出て行った。
う……なんだろう? 悠ちゃん、すごく上機嫌な感じなのになんで怖いって思うのかな?