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第19話

あっという間に改札を抜けてホームへ着き、そこへ滑り込んできた電車にそのまま乗る。

まだラッシュ時間には間があるためか、電車は空いていて端の座席に並んで座った。

――手はまだ握られたままだ。


横目で悠ちゃんを見ると、穏やかな表情はいつも通りにみえるが、……どこか張り詰めたものも感じ、話しかけようにもそんな雰囲気じゃなくて。


握られたままの手も、なんとなく離そうとしても、さらにギュッと握られてしまうし……。

な……なんで~~!?

なんかここにきて急にドキドキしてきた! 

手、汗かいてるんじゃないかな……!


「携帯、着信あると思うけど気にしないでね? あと、LINEも見てないよね?」

今まで無言だった悠ちゃんが、やっと口を開いた。

「え!? あ、ごめんね! 携帯カバンに入れたままで、全然見てなかったよ~」


よし、今だ! と思い、携帯を取り出すのを理由に繋がれた手をさっと引いた。

何故だか不満そうな顔をする悠ちゃんの方は、見ないフリ。

そもそも、なんで今まで離してくれなかったんだぁ~!


カバンの外ポケットに入れていた携帯を取り出すと、一緒に何かがポロリと出てきて私の膝の上に落ちる。

何? これ……と思った次の瞬間、大慌てでそれを手のひらの中に握りつぶした!!


忘れてた~~!!

あの、超恥ずかしいプリクラ、外ポケットに突っ込んだままだった~!!

あの時は何も考えずにとりあえずここに入れたんだ……。

だってまさか、こんな状況になるなんて思わないじゃないの~!


「……美希ちゃん? 今のは何?」

笑みを浮かべてこっちを見る悠ちゃん。だけど……なんだか目が笑ってない気が……!!

「な……なんでもないの! ゴミが一緒に出てきちゃって!」


そう言いながら、悠ちゃんの視線の先を見て凍りつく。

そう、あのプリは1枚ではなかった。

1枚どころか、全部もらってきたので大小色々で4~5枚はあったんだ……。


そして、その内の1枚がさっき悠ちゃんの足元に落ちたらしい。

それも一番大きいものが。

ゆっくりと悠ちゃんはそれを拾った。


あぁ~……見られた!

あんなおバカなプリなんて、誰にも見られたくなかったのに~。

正直、変顔のプリよりも恥ずかしい。

それを、よりによって悠ちゃんに見られるなんて……!


「あ……あのね! 違うの! それ偶然そんな画像が撮れちゃったから、みんな面白がって落書きも悪のりしちゃったってだけなの……!」


悠ちゃんは無言でそのプリクラをジッと見ていた。

あの~……悠ちゃん? えっと、か、顔が……!

いつもの王子様スマイルはどこ行っちゃったんですか~!?


眉間にはこれ以上ないほどシワが寄り、口元は引き締められ、身体が小刻みに震えてる!?

ど……ど……どうしちゃったの~!!


悠ちゃんは震える手に持ったプリを、黙ったまま自分の制服のポケットに入れた。

下を向いて僅かに顔を背けているので、表情はよくわからない。

わからないけど、いつもと違うことだけはよくわかる!


なんとなく、悠ちゃんの背後に黒い禍々しいオーラみたいなものが見える気がしてきちゃったよ!


あのプリの画像、そんなに不快になるほどふざけてたってことだよね?


今にもぶつかりそうな私と孝也くんの顔と顔の間に、赤いハートマーク。

一瞬目をつぶったようで、孝也くんはもろキス顔に。

私は驚いたせいか、目を見開き口も半分空いていて、ほんとアホ面だ……。


落書きはもちろんハートマークだけじゃなく、

「たかや&みき」「キス1秒前!」「らぶらぶ~」などなど……。

悪のりした里奈ちゃんと渉くんに、色々書かれてしまった。


あ、それかやっぱり、一応付き合ってるってことになってる私が、こんな、人が見たら誤解されるようなプリ撮ったこと自体に怒ってるのかな……?

でもそれなら、このプリは全部引き取ってきたし、もう誰かに見られることもないんだけどな。

そう説明したら、いつもの悠ちゃんに戻ってくれるかなぁ?


う~~ん、でも、今のこの雰囲気、なんか話しかけることすら出来ない……。


そんなことを考えていると、いつの間にか私が降りる駅に着くところだった。

いつもなら、悠ちゃんは私を送っていくためここで一緒に降りるけど、今日はまだ明るいし送ってもらわなくても大丈夫だ。


そうじゃなくても、こんな微妙な空気から早く解放されたい……。

ちょうど週末だし、来週になったらまた普段の悠ちゃんに戻ってるよね?


「悠ちゃん、それじゃあ……って、うえっ!?」


バイバイって立ち上がろうとした私は、ぐいっと悠ちゃんに手を引っ張られて、立つことが出来なかった。

そのまま電車のドアが閉まる。

え……? なんで!?


「あの……悠ちゃん……?」

戸惑いを隠せないまま悠ちゃんを見ると、やや硬い笑みを浮かべて悠ちゃんがじっとこっちを見ていた。


さっき引っ張られた手は、そのままギュッと繋がれている。

でも、とりあえず笑みを浮かべてくれたことでちょっとホッとした。


「美希ちゃん」

やっと、悠ちゃんが口を開いた。

「はい……!」なんだろう……いつもと同じ口調だと思うのに、何故か緊張してしまった。


「ちょっと……話したい事があるんだ。電車の中じゃ話せないから、今からうちに一緒に来てくれる?」

「え?」

うちって……悠ちゃんの家に?

い……今から??


「う……うん。大丈夫だけど……でも話って……?」

「それは、家に着いてから。瑠奈も久しぶりに会いたがってたし、喜ぶと思うよ?」

そう言って、やっとちょっと笑ってくれた!


いつもの悠ちゃんに戻ってくれたのかなって思ったけど、繋いだ手は離さないままどころか、さらに強く握られる。


こんな強引なのって、普段の悠ちゃんじゃ考えられないんだよね……。

本当にどうしちゃったのかな。








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