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第16話 (悠真視点)

美希をうまく生徒会に引き込み、文化祭に向けて忙しかったこともあって、放課後の時間はずっと美希と過ごせていた。


「神木先輩」だなんて他人行儀な呼ばれ方は許せるはずもなく、今までどおり「悠ちゃん」と呼ばせることもなんとか了承させた。

ただ、俺以外のヤツが「美希ちゃん」と呼び始めた時には、胃が沸き立つような憤りを感じ、かなり不機嫌にそれをやめさせた。

やはり、美希に関することになると、俺は抑えが効かなくなってしまう。


生徒会のメンバーは早い段階でそのことに気付いていて、俺の隠している本性にもうすうす気付いているだろう。

元々優秀な集団である分、気付いていても何も言わないでいてくれるのはありがたい。


中でも優秀な松河兄弟は、俺の作り笑顔の下の本心も感じ取れるらしく、弟の康介なんかしょっちゅう俺の笑顔を見て顔を引き攣らせている。


そうそう、いつかは生徒会室に入ったとたん、美希と康介が顔をくっつけそうなほど近づけてPCモニターを覗き込んでいるのが目に入って、俺は笑顔を保ちながらも怒りの冷気をぶちまけた事があった。


もちろん、康介が美希に手を出したりしないのはわかっている。

あいつは以前から俺を知っていて憧れていたようで、本性を知った今は恐れてもいる。

だからこそ、俺の手足となって動いてくれてもいるし、美希が唯一下の名前で呼ぶのも許しているのだ。


まぁ、兄である会長からは「あんまりいじめてやるなよ~」と言われているが……。

そう言いながら、あいつもそんな康介を見て面白がっている事も知っている。




文化祭も終わり夏休みに入ったが、課外があるので毎日美希に会える。


去年までいた私立では、夏の課外は自由参加だったのでほとんど学校には行かなかった。

テニスの試合前くらいだっただろうか。


それよりも、いつ美希が家に遊びに来てもいいように、毎日瑠奈に美希の予定を聞いていた。


去年は結局、家に来てくれたのは夏休みを通して2回だけだったが、瑠奈と外で会う日は時間と場所を聞き出して、偶然を装い合流して一緒に過ごした。

偶然にしては不自然だろうと思うほどの遭遇率だったのに、可愛い俺の美希は全く疑っていない様子で。


だが、あまりにもそれが続くと瑠奈に「いい加減、邪魔!」と言われたが、何を言っているんだか。

邪魔なのは瑠奈の方だろう。


東高の課外は3年は基本1日授業だが、1年は半日がほとんどだ。

でも、生徒会の仕事を理由に、美希には午後も残ってもらって一緒に帰っている。

もちろん、美希が帰りたいと言えば、俺も午後の授業は受けずに帰るつもりではいた。


そのつもりだったのだが、友達と放課後遊びに行きたいと言われ、そのパターンを想定していなかった俺は、そうなると一緒に帰れない上に、その間の美希の行動を全く把握出来ないという事に思い至り、どうすればいいか考えあぐねてしまった。


そんな頭の中とは裏腹に、LINEのメッセージを見るなり、身体は勝手に走り出していた。

とにかく早く、美希を引き止めないとっていう思いしかなかったのだろう。


1年の教室に初めて現れた俺を見て美希はびっくりしていたが、話を聞いて顔を見ると、友達と遊びに行くのをダメだとは言えなくなってしまった。


そもそも、俺は美希にはとことん甘いのだ。


男が一緒なら、もちろん行かせるわけにはいかないが、女の子の友達と2人、それも俺が生徒会を理由に美希を引き止めていたせいで、今まで遊びに行けなかったのだと暗に言われ、多少の罪悪感めいたものまで感じてしまう。


渋々許可したが、くれぐれもナンパには付いて行かないようにと言い聞かせた。

男が苦手な美希が、知らないヤツについて行くわけはないとは思うものの、あれだけの可愛さだ。

強引に押し切られる事だってないとは言えないじゃないか!



そういうわけで美希を送り出したもののその後は全く集中できず、授業はあと2時間残っていたが、もう諦めて帰る用意をしてから生徒会室に向かった。

このままひとりで帰っても、美希の事を考えて落ち着かないのは同じだし、自分の仕事が少し残っていたのでやってしまおうと思ったのだ。


生徒会室では、慶一(会長)がひとりでPCに向かって作業していた。

「おー、神木! お前がサボリか? 珍しいな」

「慶一だって、サボリだろう? 授業に集中できないから、気分転換にこっちの仕事を片付けに来ただけだよ」


そう言いながら、俺はスマホを取り出し期待を込めて画面を確認するが……

美希からのLINEのメッセージも、メールも、もちろん着信も一切なかった。


がっくりしている俺を、慶一はいつものように面白そうに見ている。

その表情を見ていると、無性にイライラしてきた。


「今日はここに早瀬がいなかったから、お前も一緒に帰ったのかと思ってたんだけどなぁ」


――やっぱり、こいつには色々と見透かされているみたいだな……。


「で? 早瀬が友達と遊びに行っちゃったもんで、拗ねてるってわけか? あの神木悠真が集中出来ないくらいに?」


「……なぜ、美希が遊びに行ったのをお前が知っている?」

低い、地を這うような声が自然に出た。


俺には全く連絡もないのに、慶一には美希からなにか連絡があったっていうのか?

もしかして、美希と普段から頻繁に連絡を取り合うような仲なのか?

こいつは俺の本性にある程度気付いているようだから、もう取り繕う必要なんてない。


「おぉ~怖ぇ~~。神木王子様の本性がこんなんだって、みんなが知ったら腰抜かすぞ。ま、俺は益々お前が気に入ったけどね~」

「お前に気に入られようなんて思ってもないから、やめてくれ。で?さっきの質問の答えは?」

「おいおい、冷静になれよ、お前らしくもない。そもそも、康介は早瀬と同じクラスなんだから、そっからの情報とか、お前ならすぐに考えつくだろ?」


――確かに。

美希のこととなると、やはり俺は冷静な判断が出来なくなるようだ。


「まぁ、でも今回の情報源は違うけどなー。康介はサッカー部のヘルプで今日は朝からいないよ」

ニヤリと笑みを浮かべながら、慶一は極寒の冷気を纏った俺の視線を正面から受け止める。


初対面から感じていたが、こいつの神経は図太い。

さすが、俺が一目置く男なだけはあるが。


だけど、今はそれどころじゃない。

こいつのこの態度と言い方、俺が知らない美希に関することを、何か知っているに違いない!


「もったいぶってるつもりか……? いい加減、吐け!」

「あーはいはい、わかったから、その人殺しそうな目でこっち見るのはやめてくれる? 情報源はね、これだよ」


そう言いながら、慶一は自分のスマホを操作して、あるツイッターのページを開き、俺の目の前に差し出した。

思わず、そのスマホを奪い取って信じられない思いでその画像を見つめた。


そこには、カラオケボックスの受付と思われる場所に立って談笑している(ように見える)4人の男女が写っていた。

見間違いようもない、その女の子のうちのひとりは、俺の美希だった……!!


そこには――

「王子の彼女と遭遇したよぉ~! なんと男連れ!!」


画像に写るもうひとりの女の子は、一緒に遊ぶと言っていたクラスメイトの子だ。

でも、2人の男は他校の制服。あの制服はたしか、南高のはず。


美希には、南高に男の友達なんているわけがない。

というか、俺の知る限り、男友達なんてどこにもいないはずなのだ。

じゃあ、これはどういう事なんだ……?


俺は思考が完全に停止するという経験を生まれて初めて味わった。


「それさぁ、うちの2年女子のツイッターなんだけど、俺が気付いた時点で削除させたから。幸い、その子フォロワーも少ないし、早いうちに気付いたからほとんど広まってはいないと思うけど。でも、お前、ちゃんと早瀬を捕まえてんの? これ、ナンパって感じしないし、傍から見たらダブルデートか、そうじゃなければ合コンとかって思うんじゃない?」



……ダブルデート? ……合コンだ……と?


数秒間停止していた思考が、ものすごい速さで回転しだした。


どうしてそういう事になっているんだ?

あの時、美希は何て言っていた?

たしか、一緒にいた女の子と行くと言っていた。

それを聞いて俺は、その子と2人で行くものだと解釈したのだが、よく考えれば2人だけだとは美希はひと言も言っていない……!


――目の前が一気に赤く染まっていく。

これまでに経験したことのないほどの、激しい憤りがこみ上げる。


美希に対してなのか、画像の男たちに対してなのかもわからない怒りで、頭に血が上って拳をギュッと思い切り握り締めた。

そして、少し前にも感じていた懸念が蘇る


美希は俺と付き合っている「フリ」をしているだけだと思っている。

美希にしてみれば「フリ」である以上、表沙汰にならなければ他の男と遊んだり、さらに言えば付き合ったりしても構わないということなのか?

それゆえ、他校の男が相手なのか?

男に免疫のなかった美希も、東高での生活ですっかり慣れたということなのか?


それならそれで、俺ももう遠慮はしない!!

これまで、怖がらせて逃げられてしまうんじゃないかと、ゆっくりと慎重に距離を詰めてきた。

が、他校の男とこうやって遊べるくらいなら、俺が少々強引な態度に出ても問題ないはずだ!


明らかに俺の読み間違い。

美希のことは毎日見ていたつもりだったが、俺としたことが、美希の気持ちの変化に気付かなかったということか……! くそっ!!


ドンッ!!!

思わず生徒会室の壁を力任せに殴りつけてしまった。


「……おーーい。いいから一回落ち着けよー? もう一回やったら、間違いなくその壁穴あくぞ」


俺は慶一の方を向いて、乱暴にスマホを返した。

それを受け取りながら、さすがの慶一も心配そうに俺を見ている。


「お前……大丈夫か?」

「その画像、こっちに送れ」

「は?」

「そのツイッターの画像だよ。削除した画像を今見れるってことは、お前のスマホに保存してあるんだろ? それを送れって言ってるんだ」


今の俺は、触れれば切れそうな鋭利なナイフのごとき空気を纏っているんだろう。

慶一は眉を寄せてこっちを見ている。

が、スマホを操作して画像を送ってきた。


「わかってると思うけど、早瀬を傷つけるような真似はするなよ? お前にこのセリフを何度も言うことになるとは思わなかったけど……いいか? 冷静になれよ」


当たり前だ。

俺が美希を傷付けるなどありえない。精神的にも、肉体的にも。

ただ――美希が誰のものなのか、それをわからせる。それだけだ。






次回、悠真視点がもう少し続きます。

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