第15話
世間は一応夏休みだけど、お昼過ぎのカラオケボックスは客が入れ替わるタイミングなのか、なんとか待たずに入ることができた。
駅からほど近いここは、駐車場がないためか一般客より学生が客層の中心だ。
課外終わりらしき、制服姿の高校生もけっこう見かける。
東高の制服を着た女子グループがいるのに気づいたが、2年生みたいで面識もないしその時は全く気にしなかった。
後になってわかることだけど、面識なくても一方的に知られてるって事もあるんだよね……。
自分が生徒会メンバーで、さらに悠ちゃんとも関わりがあるって事、それだけで東高では顔が知られてるって事を、もっと自覚しないといけないんだと、後々思い知ることとなった。
部屋に入るなり、他の3人は盛り上がりだしたんだけど……。
私は、初対面の男の子2人がいる前で歌なんか歌えるはずもなく。
「歌ってよ~」って言葉に「聴くほうが好きだから……」と笑顔でごまかしながら、ひたすらドリンクを飲みつつ時折タンバリンを叩いていた。
あぁ……なんかもう早く帰りたい~~。
里奈ちゃんがトイレに立ったタイミングで、「私も!」と一緒に部屋を出る。
いままでずっと渉くんたちと一緒だったから、里奈ちゃんに文句も言えていないのだ!
「里奈ちゃん、どうして~? 私が男の子苦手って知ってるよね~? なのにどうして勝手に誘っちゃうのぉ~!?」
「ごめん、ごめん。だって、神木先輩と付き合ってもう大分経つし、男子苦手なのも治ってきてるんじゃないかなって。最近はクラスの男子ともちょっとずつ話してるじゃん?」
「クラスの男子にやっと慣れてきた程度なの! 今日は里奈ちゃんと2人だから、思いっきり歌えると思ってたのにぃ~」
恨みがましく里奈ちゃんを見ると、流石に悪いと思ったのか、真面目な顔になる。
「ホント、ごめん! まさか歌えないくらい緊張するとは思わなくて・・。あたしもこんなチャンスなかなかなくって焦っちゃったんだ。勝手して本当にごめんね」
「こんなチャンス?……って?」
「うん……。実は、あたしずっと前から渉のこと好きでさ」
やっぱり、そうだったんだ!
「それこそ小学生の頃から好きだったんだけど、向こうはどう見ても友達としか思ってなくて。中学になっても友達って関係を壊すのが怖くて、告白もできなくて。渉って頭良かったから、絶対東高受けるだろうと思って、必死に勉強して東高に合格したのに、あいつはテニス優先で南高に決めててさぁ。確認しなかった私も悪いけど、やっぱり学校違うと全然会えなくて。だから、今日のこの偶然をどうしても無駄にしたくなかったの……」
そう言ってうつむく里奈ちゃんは、いつもと様子が全く違っていて、渉くんのことが本当に好きなんだと感じられた。
「そうだったんだ……。うん、わかった! 今日は里奈ちゃんに協力する。って言っても一緒にいることくらいしか出来ないけど……」
「ありがと~!美希ちゃん! ……でも神木先輩には言わない方がいいだろうね~」
「悠ちゃん? 大丈夫だよ~。 悠ちゃん、そんなの気にしないよ」
だって、ホントの彼氏じゃないしね~?
「美希ちゃんって……」
その先を言わないまま、里奈ちゃんははぁ~~っとため息をついた。
「悪いことは言わないからさ、今日のことは先輩には言わないようにね? 私も恨まれたくないし……」
里奈ちゃんは本当のこと知らないから、こんなに心配してくれるんだね。
全然大丈夫なんだけどな~。
2時間ほどカラオケをしてから、近くのゲーセンへ。
カラオケで渉くんたちとは別れるんじゃないかと期待したけど、やっぱり里奈ちゃんにその気はなく……。
一緒にプリまで撮ることになってしまった。
「俺ら部活ばっかで彼女もいないしさ。男だけじゃプリコーナー入れないから、一回行ってみたかったんだよね!」
って、2人ともテンション上がってる。
4人で狭い撮影場所に入って、出来るだけ距離を取るようにするんだけど、撮るときにはどうしても身体が触れそうなほど近づかないとフレームに収まらない。
私と里奈ちゃんが前に立って、渉くんと孝也くんが後ろに立ってるんだけど……
頭のすぐ上で孝也くんの声がしたり吐息を感じたり……!
肩に手を置かれて顔を近づけられたときは、びっくりして思わずそっちを見てしまい、出来上がったプリのその画像は、私と孝也くんの顔が超至近距離で、キスする直前としか思えないような仕上がりになっていた……。
さらに、みんな面白がって顔と顔の間にハートマークとか書いちゃうし!
色んな恥ずかしい落書きもされちゃうし!
その場のノリってヤツだろうけど、こんなの誰にも見せられない!
なので、里奈ちゃんに頼み込んで、プリを分ける時に例のハートマークの画像は全部、私がもらうことにしてもらった。
渉くんと孝也くんも、出来上がったプリを見てやっと我に返り「ちょっとヤバイ」と思ったようで……。
「そういえば、美希ちゃんって神木悠真の彼女だっけ……」
「俺らめったにこういうところ来ないから、ちょっとハイになって調子乗ったかもな……」
里奈ちゃんも出来上がりを見て、これはマズイと思ったのか、
「う~~ん、さすがにこれは神木先輩に見せられないよね。美希ちゃんにこの分は全部あげるから、処分しちゃっていいよ」
って言って、ハサミで切って渡してくれた。
もう、見るのも恥ずかしいので、慌ててカバンの外ポケットにまとめて突っ込んだ。
あとの画像は普通に4人で写ってるんだけど、持って帰ってもあのプリを思い出して、結局一緒に処分しちゃいそうだったので、3人で分けてもらった。
――やっぱりこれは、悠ちゃんには内緒にしといた方がいいのかな……。
私が他の男の子とこんなプリ撮っても悠ちゃんは気にしないだろうけど、それを誰かに見られて、私とは本当は付き合ってないんじゃないかって疑われるのはきっと困るよね?
それに、悠ちゃんが本当の彼氏じゃないってみんなは知らないんだから、こういう他の男の子との誤解されそうな状況もきっと嫌がるよね?
うん、今日里奈ちゃんの友達と偶然会ったことは、わざわざ言わないようにしよう。
その時の私は、黙っていれば大丈夫だと思っていたし、そもそも悠ちゃんはそこまで気にしない(私に関心はない)だろうなと、かる~く考えていたんだけど。
その考えが甘かったことを知るのは、ほんの数時間後のことだった。