第14話
里奈ちゃんおすすめの、おしゃれなのに安くて美味しいカフェでランチを食べ、満足して食後のデザートについてきたミニパフェを食べていると、ふと横に誰かが立つ気配がした。
「里奈じゃん。偶然だな! 居たの全然気付かんかったわ」
そこには他校の男子が2人いて、そのうちの1人が里奈ちゃんに話しかけてきた。
「え! 渉!? あんたもここで食べてたの? あれ?孝也も一緒?」
って、里奈ちゃん!……随分親しそうだけど、誰~!?
やっとクラスの男子の存在に慣れてきたばかりの私には、他校のちょっと今風な(東高にはほとんどいないチャラい感じの)男子たちの登場に、無意識のうちに固まってしまっていた。
「美希ちゃん、この2人、同中の同級生なんだ~。2人とも南高。で、こっちは東高で仲良くなった美希ちゃん。私立の女子中から来た子だよ」
2人の男の子は「ど~も!」「こんにちは!」ってにこやかに挨拶してくれて、ちょっとホッとする。
「こんにちは……」
おずおずと笑ってみると、2人ともなんだか目を見開いて、言葉に詰まっている。
その様子をやれやれって感じで見ていた里奈ちゃん。
「ねぇ、あんたたち、もう帰るところ?」
「あ……あぁ、今食い終わったとこ」
「あたしたちもデザートで終わりだけど、そこに立ってたら邪魔になるから、あたしたちが食べ終わるまで座らない?……せっかくこんなとこで会ったんだしさ」
そう言うと、4人掛けのテーブルの空いている席に2人が座った。
隣に知らない男の子が座るのって、すごい緊張するよ~!
も……もう、さっさとデザート食べて、この状態なんとかしよう!
「美希ちゃんって、私立の女子中出身ってことは、もしかしてお嬢?」
「うん、お嬢っぽい。なんか、大人しそうでピュアな感じ。 超かわいいよね!」
急いでデザートを食べて顔を上げると、渉くんと孝也くんにめちゃくちゃ見られてた!
どんどん顔が赤くなる~!
里奈ちゃん、助けて~!
「ふふっ。でしょう? かわいいでしょう? 東高でも超人気だもんね~。でも、残念~。この子には、とんでもない彼氏いるから。言い寄ったりしたら絶対後悔するから、止めときなね!」
里奈ちゃん! 何言い出すの~!?
悠ちゃんは本当の彼氏じゃないんだから、知らない人にまで言わないで~!
って、里奈ちゃんはそれ知らないんだっけ……。
それに……さっきからかわいい、かわいいってなに!?
『小さい=かわいい』っていう言語変換、誤解を生むからみんなやめて欲しい!
私の見た目が、かわいいわけじゃないって私はわかってるけど、知らない人が聞いたら期待してがっかりするっていう、私にとっていたたまれない状況になるんだから~!
「あ~……やっぱ彼氏いんのか~~」
「でも、なんだ? そのとんでもない彼氏って?」
渉くんも孝也くんも興味深々だ。
「そっちには噂、届いてない? 東高の~王子さ・ま」
「えっ? 東高の王子って……まさか、神木悠真!? 超進学校から東高に謎の編入をしたっていう!?」
「そうそう、その神木先輩よ~。それも、先輩の方がメロメロっていう……ね?」
「り……里奈ちゃん! そんなこと……!」
「すげっ! あの神木悠真にラブラブの彼女出来たって噂、本当だったんだな! あんだけモテるのに今まで全くそういう話なくって、まぁうまく隠してたんだろうけど、それがいきなり公表してラブラブっていうから、こっちでも女子が一時期大騒ぎだったんだよ」
え……? 悠ちゃんってそんな有名人なの!?
他校の人がフルネームで知ってる上に、そんな噂まで流れるような!?
「美希ちゃん、なんでそんな驚くの? あなたの彼氏はここいらの高校生の間じゃ、知らない人の方が少ないくらいの有名人よ? 特にこの2人は中学からテニスやってるから、全国大会行った神木先輩なんて憧れなんじゃないの?」
「テニスで、全国……?」
「えー。美希ちゃん、それも知らないとか言うの~? 幼馴染じゃなかったっけ?」
確かに、悠ちゃんはテニスやっててかなりの実力だって聞いてたけど、悠ちゃんが中学入ってからはほとんど交流なかったし、瑠奈ちゃんもそんなこと一言も言ってなかったから、全然知らなかった……。
「そうそう、俺らも試合してるの見たことあるけど、すげぇの一言だったよな」
「あんな超進学校だから、学校始まって以来の快挙とかって言ってたよな」
「で、高校でも去年まで2年連続インハイ出てたのに、今年は区内のエントリーにも名前なくてさぁ」
「あぁ、東高はテニス部、休部状態だしね~」
「えぇっ、マジか! ホントーにわかんねぇ。あの人、なんで東高に行ったんだ……?」
そこで3人がハッとした顔をして、同時に私を見る。
え……? な、何??
「まさか……な?」
「いやいや、それはないよな?」
「……ん~でも~、実際にあの人の態度見てたら、あながちないわけでもないかもよ……?」
そこで3人とも黙り込む。
男の子2人は、なんかちょっと呆然としてる……?
里奈ちゃんだけは面白そうな顔してるけど。
「そんな人だったのか……? 王子王子言われててみんなに優しいとは聞いてたけど、本命にはなりふり構わなくなるタイプ?」
「執着系?」
「プチストーカー?」
なんだかどんどん不穏な響きを伴いはじめた単語を耳にして、頭の中は疑問符でいっぱいだ。
……一体何の話?
私だけ、会話の流れについていけない。
「えっ……と、里奈ちゃん……?」
「あ、美希ちゃんは気にしなくていいからね~。――怖がらせたいわけじゃないし、私も先輩に恨まれたくないもんね」
途中からはボソボソとつぶやくように言ってて、よく聞き取れなかった。
なんだったんだろう??
「それより~」
里奈ちゃんは男の子2人に視線を向ける。
「渉たちって、この後なんかある? あたしたち今からカラオケ行くんだけど、一緒に行かない?」
り……里奈ちゃ~ん!? 勝手に何言ってるの~!!
「お、いいね! 俺らも久々の部活休みで、この後どうしようかって思ってたんだよ」
「部活ってやっぱテニスだよね?」
「そ、南高はそこそこ強いからさ。今はインハイに行けそうで行けないってレベルだけど、俺らが3年になる頃にはインハイ行くだけじゃなくて、優勝争いする予定なんだ!」
そう言う渉くんは目がキラキラしてて、最初のチャラい印象がちょっと軽減された。
何かに熱中してる姿って、やっぱ輝いてるよなぁ。
って思いながら里奈ちゃんを見ると、うっすら顔を赤らめて渉くんを見てる……?
――えっ?
すぐに俯いて、顔を上げた時には元に戻ってたけど……。
今のは……ひょっとして?
そんなことを考えていると、いつの間にかカフェを出ていて、4人でカラオケに行くことが決定していた!
ちょ……ちょっと待って~!!
どうしよう~~!!