第13話
夏休みの課外が始まって10日ほど経った金曜日、里奈ちゃんに放課後遊ぼうと誘われた。
その日は選択科目の関係で3時間目で終わるので、ランチ→カラオケ→ゲーセンでプリ→ブラブラお店を見て帰宅……というよくある流れの予定とのこと。
生徒会の仕事も急ぐものはもうなかったはずだと思い、LINEで悠ちゃんに連絡した。
『今日は友達とランチして遊びに行くから、生徒会の仕事はお休みして先に帰るね~!』
すぐに既読が付いたのに、一向に返事が来ない。
まぁ、見たならいいかと帰り支度をしていると――
なんだか廊下が騒がしくなって、振り向くと悠ちゃんが教室のドアのところに立って手招きしていた……。
「げっ!」
自然に出た言葉がこれ。
だって、いきなり現れるから……!
悠ちゃんが1年の教室に来たのはこれが初めてで、当然のように女子のキャアキャア言う声と、熱い視線を集めまくっている。
「美希ちゃん! 神木先輩来てるじゃん! やっぱ、超かっこいい~!」
里奈ちゃんの目がハートになっている……。
「うん……先に帰るって連絡したんだけど、なんか用事あったのかも。ちょっと聞いてくるから、待っててくれる?」
頷きながらも、うっとりと悠ちゃんを見ている里奈ちゃんを残し、悠ちゃんの方へ歩いて行くと……。
なんか走って来たのか、額に汗が浮かんでいる。
どんなに暑い日でも涼しい顔してる悠ちゃんにしては、珍しい。
さすがに廊下ではみんなの視線が気になるので、すぐ近くの屋上へ続く非常階段のところまで移動した。
「どうしたの? LINE見てくれたんだよね?」
「うん、返事してる間に帰っちゃいそうだったから」
「え? 帰っちゃダメだった? 何か急ぎの仕事あったっけ?」
悠ちゃんは一瞬言葉を途切れさせてから……
「……いや、そうじゃないけど。遊びに行くって誰とどこに行くのかなと思ってね」
いやいや、悠ちゃん……。私、小学生じゃないんで、そんな心配性のお父さんみたいなこと言われても困るんですけど!!
「えっと……。さっき一緒にいた里奈ちゃんと行くんだけど、ランチはどこかまだ決めてないよ」
「さっきの女の子のお友達と?」
「うん。ずっと行こうねって言ってたんだけど、生徒会があったでしょ? でも仕事も一段落したし、いつも断ってたから今日は行きたいと思って」
行きたい!って気持ちが私の顔に現れていたんだろう。
悠ちゃんはジッと私を見つめてから、諦めたように長いため息を漏らした。
「わかったよ。お友達との付き合いも大切だから。でも、くれぐれも言っておくけど、誰かに声をかけられても絶対ついて行っちゃだめだよ? 美希ちゃんには僕という彼氏がいるってこと、忘れちゃだめだからね?」
ジッと見つめられたままそんなこと言われると、まるで本当の彼女のような気分になってしまう……。
いや、違うから! 悠ちゃんはそんな意味で言ってないから!
悠ちゃんは、今更本当は付き合ってないってバレると面倒だからこうやって釘を刺すんだろうけど、心配しなくても私に声をかけたり、興味持ったりする人なんていないってば。
ようやく悠ちゃんから解放されて教室に戻ると、里奈ちゃんがそわそわしながら待っていた。
「あれ? 神木先輩、もう行っちゃったの? あ~あの綺麗なお顔、もうちょっと見ていたかった~」
里奈ちゃんは思ったことがすぐに顔に、言葉に、態度に出る。
そのせいで誤解されたりすることもあるけど、裏表がなくて付き合いやすい。
「里奈ちゃん、ほんと悠ちゃんの顔、好きだよね~」
「ちょっと! 顔だけじゃなくて、あのスタイルも雰囲気もルックス全てよ! これまでの人生で初めて出会ったリアル王子なんだから! ……でもまぁ、鑑賞用だけどね~。 はっきり言って本当はよくわかんない人って感じ。なんか、底知れないし。美希ちゃんは付き合っててそう思わないの?」
「え? そう?? 悠ちゃんは昔から変わらないよ~。誰にでも優しくって、気遣いが出来て、本当に王子様みたいだよ」
「……う~ん、さすが美希ちゃんというか……。長い付き合いらしいのに、あの隠しきれない黒さに全く気付いてないのか……。まぁ、ほとんどみんな気付いてないみたいだけど」
里奈ちゃんが小声でつぶやいていたけど、よく意味がわからなかった。