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第1話

物心ついた頃から、絵本に出てくる王子様に憧れていた。

そんな王子様みたいな人が現実にいると知ったのは、2歳年上の彼に出会った幼稚園の時だった。


彼の名前は、神木悠真(かみきゆうま)

超難関の有名私立進学校に中等部から通っていて、現在高等部2年生。


彼のモテ方はそれはもうハンパない。


男子校だっていうのに、毎日校門で複数の他校の女生徒が「出待ち」をしているらしい。

そしてそれを鮮やかに撒いて帰るのが、いつもの光景らしい。


英国の血を4分の1受け継いでいるその容姿は本当に美しい。

スラリとした長身に長い手足。モデルでもなかなかいない完璧なスタイルに美しく整った顔。

色素の薄いライトブラウンのサラサラな前髪からのぞく目は、これまた色素の薄いきれいなアッシュブラウン。

小さい頃は天使様のようだった彫りの深いお顔も、成長とともに精悍さを増し、今では恐ろしい程のイケメンと言っていい。

以前は、長期休みになると英国の親戚(爵位持ちだそう)のところに滞在することも多く、そのため立ち居振る舞いも流暢なキングスイングリッシュも完璧。

もちろん、レディファーストも自然体で身についている。

どんなスポーツでも難なくこなし、中でもテニスはかなりの腕前だ。

加えて裕福な家庭に育ち、さらに全国模試トップ10常連の頭脳をお持ちであるのだ。


――ここまで揃えば、周りから王子様認定されるのは至極当然の事となるわけで。



こんなすごい人と、一般人である私、早瀬美希(はやせみき)(中3)のどこに接点があるのかといえば。

いわゆる、幼馴染。

加えて彼の妹である、神木瑠奈(かみきるな)(同じく中3)が私の親友である…ということだけ。


ただし、彼、悠ちゃんが中学生になった時に神木家は家を新築して引越し、そんなに遠くではないけど悠ちゃんとは毎日のように顔を合わすことはなくなった。


でも瑠奈ちゃんとは、ずっと同じ学校の同級生だったから、悠ちゃんの話はしょっちゅう耳に入ってきたし、たまに神木家の豪邸に遊びに行くと、かなりの確率で悠ちゃんがいたので、月に一度は顔を拝ませてもらっていた。


それが会うたびにイケメンぶり、王子様ぶりに磨きがかかるもんだから、段々と腰が引けていって会話もあまり返せなくなり、最近では挨拶してリビングでお茶を飲むくらいで、すぐに瑠奈ちゃんの部屋に逃げてしまっている。


だって、なんていうか、あの綺麗な顔で見つめられると妙に緊張して居心地悪くて…!

大体、なんでいつも不必要に距離を詰めて、じぃっと見つめながら話しかけてくるかな。

誰にでも優しくて人当たりのいいリアル王子様なのはわかるけど、昔、近所に住んでた妹の友達ってだけの私にも、そんな風に丁寧にもてなそうとしてくれなくたっていいんだよ?

つくづく罪作りな人だよね、悠ちゃんは。

ろくに会話もせずに逃げ出すのは失礼かもしれないけど、向こうがそんなことを気にしているとは思えないしね。

そもそも私のことなんて妹の友達のひとりってだけで、昔近所に住んでたとか、同じ幼稚園に通ってたとかそんな細かいことまで覚えてないんじゃないかな。

私の方はもちろん昔から完璧王子様だった悠ちゃんのことは、断片的ながらちゃんと記憶にあるんだけどな~。

子供の頃から悲しいことに顔はほとんど変わってないけど、あれだけたくさんの(それも綺麗な)女の子に常に熱い視線を向けられているんだもの。

たまに顔を合わせるだけの幼馴染のことなんて、そんなに気にしているとも思えないよね。





そんなある日の夕食時。

お父さんからいきなりびっくりな宣言をされた。


「美希には黙ってたんだけど……実は父さん、今月いっぱいで会社を辞めることにしたんだ」


「…え?」


唐揚げをつかみかけた箸が空中で止まる。

言葉もなくお父さんを見つめていると、横からお母さんのため息が聞こえてきた。


「お父さんね、しばらく前から考えてたのよ。今の会社は一流企業だし、このまま定年まで勤めれば安泰かもしれないけど…」


その後、両親から受けた説明の内容はこうだ。


お父さんが就職した時代は売り手市場で、一流大を出ていなくともなんとか今の企業に就職できた。

出世コースから外れても、希望の職種じゃなくても、家族を養うことができればそれでいいと思っていた。


それが1年ほど前、会社関係のセミナーでたまたま以前の上司と再会した。

彼は数年前に会社を退職し、起業して成功していた。

そして、自分の仕事を手伝って欲しいと言われたそうだ。

成功しているとはいえ、まだまだ中小企業。

今と同じ収入は望めないけど、お父さんがずっとやりたかった職種だった。


散々悩んで、お母さんとも話し合い、お父さんは転職する決心をしたとの事。

そっか~、子供にはよくわからないけど、色々あるんだね…。

2人とも、私を動揺させないようにって、はっきり決まるまで隠していたらしい。


「でも何で私が動揺するの? 転職するんなら、会社を辞めても無職になるわけじゃないでしょう?」


「あらだって、会社を辞めるってことは、ここを出て行かないといけないでしょ? それから、今の学校は収入的に厳しくなるから、高校は都立を受験してもらわないといけないのよ。」


「……えっ??  あっ!」


――そうだった。

今住んでるマンションは「借り上げ社宅」なのだ。

今時珍しく、好立地のマンションを借り上げて、社宅として規定の役職以下の社員に格安で貸しているのだ。

瑠奈ちゃんのお父さんも同じ会社で、5年前までここ(の最上階)に住んでいた。

まぁ、あちらはかなり上の方の役職付きで、本当なら社宅になんて縁がなかったんだろうけど、管理者として最上階のすんごいお部屋に住んでいたそうだ。

そして、さらに出世され豪邸を建てて出て行かれたのだ。

どこまで出世したのかは、子供には関係ないしなんか怖くて聞いてないんだけどね。


そういうわけで、私と瑠奈ちゃんは幼稚園からずっと一緒だ。2つ上の悠ちゃんも小学校までは。


小学校は近くの公立に通ったが、中学は瑠奈ちゃんに強く誘われ、両親も賛成してくれたので大学まである私立のお嬢様学校を受験した。

そこそこ高い偏差値を誇る学校だったけど、私も瑠奈ちゃんも無事合格した。

これで、高校には内部試験だけで行けるはずだった、、んだけど。



そうだよねぇ。

かなり歴史のあるお嬢様学校。

学費だけでなく、施設利用料や寄付金、後援会費、修学旅行は海外。制服も高額なブランドもので高等部になると全て変わるし、小物に至るまで指定されてて何もかも一流品。色々な行事にかかる金額も都立の比ではない。


正直、これまでもお父さんの収入だけでは厳しくて、私が中学に入ると同時にお母さんも働き出した。

それが、転職でメインのお父さんの収入がかなり減るとなると…。

都立高校受験はもちろん、私もバイトとかして家計を助けるべきよね!

今のお嬢様学校じゃ、高等部に上がってもバイトは禁止されてるし。


瑠奈ちゃんと違う高校になるのはすごくさみしいけど、正直お嬢様学校のあの雰囲気に馴染めてるとは3年目の今でもとても思えない。

美少女で正真正銘のお嬢様の瑠奈ちゃんと違って、本当にフツーの子だしね~。


そうとなったら、高校受験まであと半年。

受験勉強、始めないと!!





次の日。

学校で瑠奈ちゃんに事の次第を淡々と伝えた、、んだけど。


あまりの彼女の動揺ぶりに唖然とした。

もちろん、ずっと一緒にいた幼馴染で親友だ。

ある程度の反応は予想していたけど、予定では引越し先は近くで探すと決めているし、会おうと思えばいつでも会えるはずだ。


そう言ってるのに、なのに、瑠奈ちゃんの反応は動揺と言うよりはむしろ錯乱?

普段とは明らかに違う。

初めは「なんで?! どうして?! そんなの困るよ!! いやよ~~!!」

って感じだったんだけど、だんだん私の言葉も耳に入らなくなり、何やらブツブツつぶやきだした。


「ヤバい…マズい…あいつがこれ聞いたらどうなるの…? また色々八つ当たりされたり、なんかやらされたりするに決まってる…。美希パパなに余計なことしてくれてんのよ~。 あの魔王がそんなの許すわけないじゃん…。またきっと色々と巻き込まれるんだぁ~」



――――う~~ん。

なんか言ってる事よくわからないんだけど。

どうも私の言葉も今は耳に入らないみたいだし。


瑠奈ちゃんはその日ずっと思い出したかのようにブツブツつぶやき始めて、放課後には

「何とか都立高校行くことだけでも、回避できないのぉ~~?」と、涙目で訴えてきた。


「ごめんね。うちはほら、元々庶民だし。今までが身の丈に合ってなかったんだよ」

それを聞いた瑠奈ちゃんはがっくりと崩れ落ちた。


そこまで私と離れたくないなんて…!!

瑠奈ちゃんの友情に感動していた私はまだ知らない。

彼女のその態度には、もっと他の大きな理由があった事を。





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