第一話 バカが家にやって来た
BLに興味のない方、BLTサンドはウマイけどこれはマズイという方、
そういった考えのお客様各位は、今すぐにブラウザの戻るボタンを押して、
緊急撤退任務に就くことを、心よりオススメします。
※縦書きモード表示推奨
前略・・・・・
とはいっても、この言葉は、どこの誰に送ったらよいのだろうか?
ヨシトはデスクに向かい合っていて、その背中の少し離れたところでは、敷いた布団の上、気持ちよさそうに目を閉じて寝顔を晒し、口からはヨダレをだらしなくだらーりと垂らし、目も当てられないくらい悪い寝相の大の字で寝転がりながら・・・・
「んごごごごごごごごごご・・・・・ぐごごごごごごごご・・・・・」
一人の若い女性が、大口から高らかないびきをかいて、部屋の中心で眠りこけていた。
――――――――時はつい昨日にさかのぼる。
桜舞う春の季節、ミシマ ヨシトは、このたびめでたく、そこそこランクの良い高校に入学することに成功し、受験本番の全てが終わるまでの全日程で血反吐撒き散らしながら徹夜で必死こいた、その頑張りが報われたのだ。
そして今日が、その普通高校の入学式の日であって、式の最中にヨシトが緊張のあまり便所へと一時駆け込んだという個人的な一大事は、校長の、意気揚々で長々とした演説の邪魔にすらならず、式は滞りなく終わり、今現在は、廊下の振り分け表にしたがって、ヨシトは1年2組の教室で自席に着席しているところだった。
腹の調子が、大小と波打っている、次はいつ来るか分かったものではない、たかが2時間程度の緊張でお腹がゆるくなるとは、とても情けない話だった。
「鬱だ、死のう」
平らな机上に突っ伏してボソッとよく聞くセリフを漏らしてみても、誰一人として気に留めるものなどいなかった。
クラスメイトたちは皆、それぞれが今日始めて顔を合わせるばかりの面子のはずにもかかわらず、早速、小グループを作っている者たちまでが居た。
基が地味目なヨシトは見事なまでにハブられ、完璧にクラスから孤立すること、という事実の構築を本人の意思に反して成功させていた。
つまりぼっちだ。
かといって、目標も無い浅はかな高校デビューという安っぽいものを考えていたとしても、ヨシトの対人能力面を考慮すると、本人は気づかなくても、それは間違いなく無理な話と言えた。
ふと、突っ伏している頭上を、誰かしらが覗き込んでいるという気配が、感覚も無く <ピリッ> っと感じられた。
顔をのらりくらりと持ち上げて見上げてみると、そこには、ブレザーとスカートを着込み、クセのある茶髪ショートの整った顔立ちがメリハリのある活発な雰囲気の女子が、ヨシトを『じーっ』と硬く口を一文字に結んだ無表情でみつめていた。
視線が交差し、10秒も経たずにヨシトの根気が挫けた。
「あの、何か用ですか?」
すると茶髪女子は身を翻してから、軽口を一つもらした。
「べーつーにー?」
茶髪女子はつかつかと上履きを鳴らして離れてから向かった先はヨシトのすぐ隣の席、そこに着席した。
ヨシトは思わず絵に描いたマヌケのように口が開きそうになり、すぐに我に還って顎をしゃくって戻した。
「ええと、お隣さん、だったんですか?」
一歩を踏み出せるちっぽけな勇気が湧いていたのか、はたまた、ただのアホな無謀者か、話し相手を作るきっかけの一つとして挑戦してみた。
「だねー、キミはミシマ ヨシトくんだよね?」
「あ、は・・・・あれ?なんで僕の名前を・・・・?」
今度こそ顎がポカーンと外れ、アホの無謀者に変化したヨシトの様子を見て、茶髪女子はカラカラと笑った。
「んーとね、とりあえず下の名前だけ教えるから、こっちはイサミ、勇気の勇の字だよ、ヨシトくんは吉の人と書いて『吉人』だったよね?キチトとかヨシヒトとは絶対に読まない」
茶髪女子は、自分の席の机上に指で空文字を書いて見せた。
「あ、うん、そうです・・・・?」
「んじゃ、レクリエーション始まりそうだし、何か話したいことあったら、次の休み時間ね」
にっこりとした茶髪女子の笑顔を見たヨシトは、違和感よりも胸の奥が暖かくなったのを先行して感じていた。
そして、入学式のために午前上がりになったため、生徒達は12時30分頃の時点で校門をくぐり、下校路を歩いていたのだが、ここで奇妙な現象に直面していた。
歩く自分の後方から、もう一人分、別の足音が距離をとりつつピッタリと付いて来ているのだった。
それはもうピッタリと、ヨシトが止まれば、相手も止まり、進めば進む、なんとも不思議な感覚だった。
思い切って振り返り、相手を見定め・・・・ばつの悪そうな声がひょろひょろと口をついて、発声された。
「あの・・・・もしかして、通学路、一緒なんですかね?」
ヨシトの後ろに居たのは、教室で出会い、座席は隣、そして現在の通学路を利用するのも同じという、あの茶髪の女子だった。
背中には通学にとても不釣り合いなのではないかと思えるような、ギリギリ体格に合っている大きなリュックサックを背負っていた。
「んー、と、ヨシトくんの家ってどこなの?」
質問したのはヨシトのほうなのに、茶髪女子から、凛とした鈴の音色のような声色でヨシトは尋ねられた。
おかしい、何かがおかしい、自分の人生で今までこんな、PCのギャルゲーのフラグめいたことなど、一度も無かったのだ。
それがなぜ、今日?
いやいや、時期尚早かもしれない、勘違いかもしれない、汗が吹き出て脈打つ心を落ち着かせて、肺に腹に空気を小さく吸い込んで、軽く笑いながら、ヨシトは応えた。
「が、学校から歩いて15分くらいだから、えーと、残りは5分くらいだと思います、古臭いアパートですけどね」
「そうなんだ」
と、言いながら、なぜか茶髪女子はスマートフォンをブレザーのポケットから取り出して、どこかへと電話を始めた。
「・・・・もしもし、野口不動産さんですか?お世話になってます、キサラギです、プライド王様本町のマンション、M-type 4LDKについてなんですけども、突然ですが、入居の取り消しをさせていただけないでしょうか?・・・・はい・・・・はい・・・・分かりました、お手数おかけしました」
ポチッ、と通話が終了し、名字はキサラギで、名はイサミのこのお方は、この一瞬で、マンションの入居契約を無かったことにした。
「・・・・というかちょっと待って、プライド王様本町ってここから逆方向ですよね?それに、確かあそこは、家賃がすごく高いと噂の高級マンションのはず・・・・」
ヨシトが考え込んでいると、キサラギ女子が近づいてきて追い抜きざまにヨシトの手を握りしめ、ずんずんと勝手にハイペースで歩き始めた。
慣性が働き、逆らうことが出来ずにヨシトの体はされるがままに引っ張られて、目に映る風景が快速電車の車窓風景のような誇張表現ともいえない速度で流れていった。
「ヨシトくんの古臭いアパートって、これ?」
急停車してからも、相変わらず手を離そうとしないキサラギ女子は、空いている方の手で、ボロっちぃ二階建てのトタン屋根アパート家屋を指差して見上げた。
「ええ、まぁ、二階の真ん中、202号室が僕の・・・・ちょっと!あんた!なに!?なんなの!?」
再び強引な慣性に引っ張られてヨシトは階段を引きずり上げられ、202号室のドアの前まで連行された。
キサラギ女子はしゃがみこみ、どこから取り出したのか、おもむろにドアノブの鍵穴に針金を突き刺した。
「なにやってんですか・・・・」
「なにって、開けるに決まってるじゃん?」
難しそうな顔をして、ガチャガチャと針金をかき混ぜる作業に集中しながらも、キサラギ女子は、さも当然であるかのようにさらりと言い返した。
「ちょ、不法侵入ですよ!やめてください、帰ってください!」
ヨシトの文句は空しいどころか全く通らず、<ガチャリ>と音がして、一分足らずの間に、針金程度の小細工で容易く鍵が開いてしまった。
キサラギ女子は続けざまにドアへとツッパリを繰り出して、<バタン>と勢いよく押し開け、ズカズカと上がりこんでいってしまった。
「ちょっとぉ!?待ってぇ!入らないでぇ!」
奥にある狭っ苦しくて、カーテンが締め切られて薄暗いメインワンルーム、その中心で先行していたキサラギ女子が腕を組み、複雑そうな顔をして部屋の内装を見渡していた。
「ふーん・・・・」
追いついたヨシトが反論しようと口を開いたところで、キサラギ女子は首だけ振り向いて、ざっくりとした感想を述べた。
「ヨシトよー、おめー、オレがいない間にオタクんなってたんだなー」
ヨシトの入居部屋である202号室の室内の壁際には、棚がたくさん置かれており、さらにその棚の中には、プラモデルやフィギュアが大量に飾られていて、他の壁面には、いわゆる萌えアニメのポスターがびっしりと張り巡らされていた。
一般人的な所有物なら床の畳の上にゲーム機が出しっぱなしではあったが、掛けてあったカレンダーもアニメキャラものだった。
が、今のヨシトには、女子に部屋のコレクションを見られてオタク呼ばわりされたことよりも、このキサラギ女子のセリフに、引っかかるものを感じた。
そんな不審感に構うことすらなく、キサラギ女子は前に向き直り、フィギュアを眺めてはしゃべり続ける。
「なんだろーなー、ネットのニュースでたまに見るたびに、日本のオタクって、こういうものなのかなー、とは常々思ってたけどさ、まさかヨシトがねー・・・・」
勝手に家に上がりこまれたとはいえ、さすがにヨシトも堪らなくなり、キサラギ女子に疑問をぶつけてみた。
「えーと、キサラギさん、なんで?というか、なんでとしか言えないけど、とにかくなんで?」
キサラギ女子は、制服のスカートを翻しながら体を対面させ、腰に両手を当ててから、呆れたような声を出した。
「おまえなー、オレのこと忘れたん?オレだよイサムだよ、キサラギ イサム、小4まで一緒だったじゃん?」
ぽかんとしたヨシトは、その名前を脳内のメモリーデータベースで検索してみた、すると自分のネットワークの深いところにヒットしたものがあり、それは小学校4年生時代の夏休み中間地点で終わっていた。
「イサム・・・・キサラギ イサム・・・・あっ!?えっ!?はぁっ!?」
記憶の中には、確かに該当するものがあった。
しかしそこには、現状とは根本的に違う情報もあった。
慌てふためきながらも、ヨシトは、小学4年生の過去と現在の現状の確認作業に移行した。
「いや、ないでしょ?人違いでしょ?」
「んーにゃ、人違いじゃないんだわ」
仁王立ちをするキサラギ女子は、ショートの茶髪毛先と、やたらと大きな胸をわずかに揺らして、ヨシトの目を見てきっぱりと否定した。
「いやいや、確かにイサムは小4でどこかに引っ越して行っちゃったけど、僕の知ってるイサムは正真正銘『男子』だったよ?女子じゃなかった」
変なキャッチボールが始まったため、キサラギ女子は後頭部を左手でかきむしると、背負っていたリュックサックを適当に放り投げて、床の上にどっかりと胡坐をかいて座り込み、ため息を小さく吐いてから、頬杖をついて面倒くさそうな顔をして説明を始めた。
「ヨシトよー、オレなー、あのときの引越し先が外国で、行き先はタイだったんだわ」
とりあえずヨシトも正座して、自分の古い知人の名を語り始めたキサラギさんの話に、大人しく聞き耳を立てることにした。
「んでなー、渡ってから一週間後くらいだったかな?面白そうなの見つけてな、それをやってみたのよ」
「やってみた?何を?」
「性転換」
薄暗い部屋の空気が、一気に冷たく静まり返った。
同時にヨシトの中で何かもおかしくなり、大脳が軽くオーバーロードをし始めた。
そして、ヨシトの次の発言が、これである。
「・・・・は?」
突拍子も無いキサラギ女子の爆弾発言に、思わずヨシトはものすごくマヌケな顔な顔を晒したが、キサラギ女子は、さきほどの続きを平気な顔をしてペラペラと、だんだん陽気なアップテンポになっていくマシンガントークで話し始めた。
「んー、とな、オレ、女になったんだわ、股に着いてたイチモツと袋を切り落として、そこに穴開けてな、それが終わったら、今度は顔の骨を少し削って、顔面の肉類は基が良かったからってあんまり弄ってなくて、のどのほうは、のど仏が出てこなかったからそのままにしてある」
なんとも信じがたい話だといえた。
昔別れた馴染み深い男友達が、外国に渡ってから性転換して、女の子になっちった?
ヨシトは両手で顔を覆い隠してから、未だに情報処理が追いつかない脳みそを、必死になって回転させた。
「いや、ホント待ってよ・・・・マジで?」
今目の前に座って会話している不法侵入茶髪少女は、間違いなく『女子』だ。
着ている服装も、学校帰りからそのままの女子が着ているブレザーとスカートだ。
そもそも、見た目からして、目がパッチリした、髪型もボーイッシュレディースなもので、身長のほうも、教室に居たときにあまり見比べては居なかったけども、他の女子とほとんど変わらず、むしろほんの少し高いという差異があるくらいだった。
おまけに、その胸には、ブレザー越しでも分かるくらいに、自己主張の強そうな大きなふくらみが二つ存在していた。
これを、元男性だと言われても、絶対に信じられない話だった。
「おうっ、大マジなっ」
キサラギ女子は、まぶしすぎる笑顔でキッパリと言い切った。
ヨシトはこめかみを強く押さえ、しばし熟考した後、キサラギ女子と視線を交差させた。
「んじゃあ、あんたが本当にイサムだって言うならさ、イサムしか知らないような僕の昔話してみてくれるかな?」
その切り出しに対して、相手は目を真ん丸くしたが、座りなおしてから、頬杖を解き顎に手を添えて、少し頭を捻りながらいくつかの出来事を口にして見せた。
「えー・・・・と、ヨシトの昔話は・・・・まず、幼稚園の頃にションベン漏らした、理由は運動会のリレー走行中にトイレに行きたくなったけど、間に合わなくてビリっけつのゴールと同時に思いっきり漏らした、次は小学校低学年の頃か、下校の時によく犬のウンコ踏んでたよな、確か10回くらい踏んで、そのうち3回がビチャビチャの下痢便だった挙句、踏まなかったオレにまですごく臭かった覚えがある、最後は中学年の3年生ぐらいの頃だな、バレンタインのときにミキちゃんからチョコもらったはいいけど、義理チョコだとは気づかず浮かれてたら、あとで本命がカズヤだったってこと知ってショック受けてた・・・・本当はもっとあるけど、特に目立ってたのはこれらだよな?」
羅列を早口に語り終わるのと同時に、ドヤ顔で左手の人差し指を、ヨシトの胸の中央に向けてビシッと突き出して来た。
今度はヨシトのほうが目を真ん丸く、いや、それを通り過ぎて点にするハメになった。
「・・・・本当にイサムなのか?」
とんでもなく震えた声を出しながら、ヨシトの方も左手の人差し指でイサムを語る女子の顔を、ガクガクと指差した。
「だーら、マジだってんじゃん」
呆れたような声で言われたその瞬間、ヨシトの体は残像が出るかと思うくらいの高速で飛び上がり、腹の底から、のどの奥から、口内から声にもならない奇声を張り上げて、コンクリート製の壁に何度も何度も額を打ちつけ始めた。
お隣さんの部屋から『うるせぇぞ!』という怒鳴り声が聞こえたが、それどころじゃないこの事態の前には、意味すら持ち合わせていなかった。
「ちょ、おい!ヨシト!逃避しようとするな!なんか文句も言われた!」
キサラギ女子も立ち上がってヨシトを後ろから羽交い絞めにして、壁から引き剥がそうとしたが、これが明らかな逆効果だった。
引っ張っぱられたヨシトの背中に、キサラギ女子の自己主張の強い両胸から弾力のある柔らかな感触が布越しでも伝わって、ヨシトの中にある現実を、分かりやすいくらいに完膚なきまでにダイレクト破壊した。
「ぅわあああああああああ!!!」
ヨシトは自分を押さえ込んでいた腕を振りほどくと、その場にガックリと崩れ落ち、後頭部を抱えながら首をぶんぶんと左右に振り回した。
なんとも理解しがたい、理解できない、理解することすら、というかそもそも理解ってなに、というスパイラルが脳内に展開され、奥深い坩堝にどんどん転落していった。
「にせものだ、にせものだ、にせものだ・・・・」
「ああ、スマン、転換手術した関係でホルモン打ったらな、ここまでふくらんだんだわ」
懸命に逃げようとしていたが、そこで『にせもの』という単語の意味を勘違いしたキサラギ女子の口からポロリと出た言葉、それを耳にしたヨシトは若干反応し、その脳裏に『天然果実』という言葉が一瞬過ぎったが、対象の姿が眼にチラリと映っただけでも体がブルブルと大地震を起こした。
「・・・・ほんもの?」
ついついと口が氷上スケートのように滑ってしまったが、確認せねばならない事項ともいえる、でも、どうやって確認したらよいのだ。
「シリコンとかじゃねーぞ?ちょっち待ってろ」
そういってキサラギ女子は、ヨシトの眼前でためらいも無くブレザーを脱ぎ始めた。
こんな無音の室内では、静かな衣擦れの音がなんともナマナマしく聞こえる。
「うっぎゃああああああ!やめてぇ!」
あのエドヴァルド・ムンクですら絵に描けなさそうな叫びの表情で、ヨシトは拒絶反応を起こした。
「なんだよー?モノホンのおっぱいだぞ、おっぱい、しかも、きょにゅーだべー?」
もしこれが漫画だったら<ぼいんっ>とかいう擬音が出ただろうくらいに、キサラギ女子は胸を張った挙句、両胸を自分の両手のひらで持ち上げて見せた。
しかも面白がってそのまま近寄ってくるではないか、それはもう、結局現れもしなかった恐怖の大王でもなく、当たりもしなかった古代文明の予言でもなく、起こるかどうかも分からない三回目の世界大戦でもなく、それでもどんなバッターでも打ち返せない反則過ぎる変化球が極々単純明快な方法を用いて、ヨシトに圧倒的な世界の終末を告げて来た。
ヨシトの頭の中で、なにかが焼け切れて真っ白になった。
「だいじょーぶかー?顔が真っ青だぞ?」
「・・・・うん うけいれる そうする もう ぼくには わけがわかんない」
かろうじて出てきた声すらも、意識していないのに完全な棒読みだった。
対するキサラギ女子は、ため息をつきながら、室内をぐるりと見渡した。
「ってもなー、逆にオレはなー、あれとかこれが分からん、お前がオタになってたなんてなー」
棚の一つに歩み寄り、その中に飾ってあった一つを見つめた。
「これ、なんてキャラなん?」
台座に周囲にマスケット銃を展開し、その中央に立つ、白い服を着たナイスバディの黄色い髪の美少女キャラが、その左右の手にもマスケット銃を構えてポーズを取っていた。
愕然と伏したままのヨシトは、その方向にゆらりと顔を向けて、ぽつりぽつりと語り始めた。
「・・・・『魔法少女まとま☆マギカ』の、モトエ ミマさん」
「魔法?昔やってた、ブレザームーンみたいなやつ?」
その言葉に、ヨシトは光の巨人が着地するときの効果音のような<ダダンッ!>という大きな音を立てて、立ち上がった。
「ブレザームーンなんかとは出来が違うわぁっ!!!」
キサラギ女子が思わず振り向いて眼に飛び込んできたその表情は、さっきまでの絶望と打って変わって、とても活き活きとしていた。
キサラギ女子は、その勢いの圧されて微妙にたじろいだ。
「・・・・えーと・・・・じゃあ、なんだっけ?ビューティーファニーなんか?」
すると、若干引きつる笑顔に、大砲のような怒声の応酬が反射されてきた。
「僕らの頃にやってたファニーは、ありゃリメイクだろう!?比べ物にすらならんわぁっ!!!」
ヨシトはズカズカと部屋の隅にあるテレビの前にまで移動すると電源を入れ、次にテレビ台の下に収納されていたブルーレイデッキの電源を起動し、二つのリモコンを器用に弄り始めた。
画面に映った表示とカーソルがピコピコと操作されていき、再生の項目から、ある一つのタイトルが再生された。
テレビの画面内に、いかにも魔法少女というようなフワフワした服装でピンク色のツインテールヘアーの小柄な少女の後姿が映り、スピーカーからはピアノと、デュエットによる女性ボーカルのキレイな歌声のAメロが流れてきた。
「なにこれ・・・・?」
「実際に見てもらったほうが、僕も手間が省ける」
正座と胡坐でテレビの前に座る二人の眼前に、『魔法少女まとま☆マギカ』というアニメタイトルが表示された。
オープニングソングの出だしは『交えた契約~♪ 覚えてるよ~♪ 瞳で確かめる~♪』という歌詞から始まり、オープニングアニメーション内では主人公らしきさっきのピンクの髪の少女が、魔法発動失敗やら電柱にぶつかるやらのドジを連発していた。
「なんだっけ・・・・いわゆる、もえ?とかいうやつなん?」
チラッとキサラギ女子が横を向いて尋ねると、ヨシトの方はテレビに釘付けで、さっきまでの動揺っぷりが嘘であるとでもいうが如く、視聴開始したとたんまったくブレる様子がみられなかった。
「黙って見るべし」
キサラギ女子も、おずおずとテレビ画面のほうに向き直る。
映像はピンク髪の少女が不思議な空間の廊下を走り、その向こうは荒廃した世紀末のような光景に切り替わって、どこか邪悪で壮大な感じのするBGMが流れ、荒廃世紀末世界に嫌悪感を示しているピンク髪の少女が、謎の白い生物に『ボクと約束して魔法少女になってよ』と言われていた。
その明らかに怪しそうな雰囲気の冒頭は、今までの一般的な魔法少女ものアニメのイメージとは、大きくかけ離れたものを醸し出している。
「・・・・もしかして、スゲーんじゃねーの、これ?」
オタク感性を持っていなさそうなキサラギ女子も、何かを感じ取ったらしい、しかし、ヨシトは眼をくれもせず、返事も何一つしなかった。
その回の最後は、バーベきゅーという名前らしい冒頭でも出てきた白い謎の生物が、ピンク髪の少女まとま、そしてその親友である、青い髪をした少女さよという二人の少女に『頼みごとがある、ボクと約束して魔法少女になってよ』と、笑顔で言うセリフで締めくくられた。
「どうだね?」
ヨシトは誇りきった声とドヤ顔で、隣に座っているキサラギ女子を見て尋ねた。
「・・・・これ、どーなんの?」
キサラギ女子は暫し、ぼーっとしてから、電源が切れて黒くなった画面を見つめたまま、ハッと我に還って、そうつぶやいた。
「見ていけば分かるよ、次の第二話も視聴するかね?」
キサラギ女子の顔が、ばっ、と勢い良くヨシトの方に向けられ、その表情からは『まとま☆マギカ』に対する興味のワクワクがにじみ溢れているのが見て取れた。
が、キサラギ女子は、もう一度、ハッ、となり、縦にした左手を顔の前で左右に振り、その手後ろの呆れ顔も左右に振った。
「いやいや、確かに続きは気になるぜ?でもよー、今話し合わにゃならんのは『まとま☆マギカ』のことじゃなくて、この現状じゃねーの?」
現状・・・・ヨシトがキサラギ女子の首の下に視線を落とすと、やっぱり信じがたい存在である、自己主張の強いふくらみが、ブレザーに二つ山を作っていた。
「・・・・おっぱいのことじゃねーぞ?そこまで気になるなら、触らせてやってもいいけど?」
「ち、ち、ち、ち、違うわっ!誰が触りたいなんて・・・・ああもう、とりあえずそれは置いといて、イサムはこれからどうするつもりなのさ?王様本町のマンションの契約蹴ったじゃん?」
首を高速で振りながら赤面を誤魔化しつつ、顔面の熱が引いた後にキサラギ女子の顔を見て、現状整理に取り掛かることにした。
「んー?ここに住むわ、学校にも近いしなー」
「え?このアパート、ボロいクセに、今はどこの部屋も満室だよ?」
キサラギ女子は、ヒビの亀裂が入った天井を見上げてから、ぐでーっと畳の床に突っ伏して、ごろごろと寝転がり、ぼけーっとした表情でヌケヌケとこんなことを言い出した。
「だーらー、ここー、この部屋に一緒に住むんだわー、いいだろー、一人くらい増えてもよー」
「はあっ!?よくない!転換手術したんだろ?オマエもう女子じゃん、同居するわけにはいかんよ!」
ヨシトは困り苦情を言うも、キサラギ女子は、伏したその場から動かずに両手両足をバタバタ、わしゃわしゃと動かして、ダダをこね始めた。
「いーやーだー、もう決めたー・・・・あ、じゃあ、こうするべ」
もそもそと起き上がって胡坐をかき、カラカラと笑いながら左手の人差し指を上向きに立てた。
「この部屋の家賃、オレも払うわ、それでいいだろー?」
「・・・・オマエな、そうは言っても・・・・」
キサラギ女子は鞄の中の財布からあるものを取り出し、ヨシトの目の前に突き出してきた。
両目のまぶたをぱちくりさせながら、それをまじまじと見つめる。
「・・・・なにこれ?」
一面全てが漆黒の色彩で、中央には騎士のエンブレムが刻印された、珍妙な板状の物体だった。
「『アメリカイザー・エクスプレッソ・ハイペリオン・カード』、クレジットカードの一種なんだけどさ、細かい話は分かんねーけど、こっから家賃の半額払うぜ」
変に名称が長い上に、ハイペリオンだのとどこかのモビルスーツにありそうな名前を出されても、クレジットカードを一枚も持っていない故に、知識が疎いヨシトには全然ピンと来る代物ではなかった。
「そのカード、オモチャ銀行券じゃないだろうな?」
「だーら、細かいことは分からんって言ったろー、アメリカに残った親父に持たされてなー、とりあえず、なんでもできるらしいんだわ」
検めて見ると、漆黒のカードのエンブレムやらなんやら、その他諸々は、地味目は見た目とは裏腹にとても奥深しい精巧なデザインだった。
「・・・・なんでもできるって、どういうこと?」
冷や汗が若干額ににじむ、今、目の前にある漆黒のカードは、もしかしたら、底にあるはずの災厄が真っ先に飛び出して来かねないパンドラの箱なのかもしれないのだ。
「めんどくせーよ、親父に聞いてみる、どーせヒマしてるだろうし・・・・もしもーし、あっ、パパー♪うん、イサミだよー♪お仕事大丈夫ー?・・・・うん、ええと、あのねー?」
スマホでの通話時間は約3分強、その間だけのキサラギ女子の表情や声質は、明らかに『ぱぱだいすきー』とか言い出しそうなくらい、ある意味危ない幼女のようなものだったものだから、ヨシトはキサラギ女子の現在の家庭環境がどうなっているのか、少しだけ心配になってしまった。
ポチッと通話が終了すると、電話を仕掛けたほうの表情がガラリと豹変して、一気にダルいオーラを撒き散らした。
「あー、ぶりっこキャラやるのもめんどくせーわ・・・・」
スマホをブレザーのポケットの中に滑り込ませながら、思いっくそ毒を吐き始めた。
ヨシトは3分間だけのキサラギ女子の豹変振りに、複雑な顔をして黙ったまま困惑していた。
キサラギ女子も、自分に向けられているその痛々しいものを見る目に気づいた。
「あー!ちげーんだわ、好きでやってんじゃなくてな、転換してホルモン打ったら、巨乳になったって言ったろ?あの親父、オレの乳妄想したいがために『離れていても、せめて親子で話をするときだけでもいいから、ぶりっこやってください』とか言ってきたんだわ」
「なら、やらなきゃいいじゃん・・・・」
その最もな指摘に、父親との電話で肩をすくめていたキサラギ女子は、漆黒のカードを財布の中に厳重にしまいこみながら、やり場の無い困惑を紛らわすかのようにため息を深く吐いた。
「もしやめたら、このカードの契約解除するとか言ってんだぜ?だから、やらなきゃいけねーんだけど、冗談じゃねーわ」
「なんか不憫だな、で、あのカード・・・・なんだって?」
「んー、となー、とりあえず限度額が無限らしい」
ぽんっ、と平全に簡単に相手の口から出てきた単語に、ヨシトの時間が一瞬、とても長い一瞬、あたり一面真っ白空間な精神の間に一週間入るくらい長い一瞬だったかもしれないが、とにかく解析不能な情報に全感覚がまっさらにフリーズした。
「・・・・っ!?いや、え?アレ?」
混乱しているヨシトに、キサラギ女子はどこから話すべきかと考えた後、サラサラと解説を始めた。
「んーとな、性転換したじゃん?そしたらまぁ、お袋はともかくとして、親父が落ち込んでな、一ヶ月もしないうちに次にアメリカに渡って、ベガス行ったんだわ、やめたほうがいいってオレもお袋も言ったんだけど、ありえねーのよ、親父のやつイカサマ抜きでチップ五枚を5000億ドルに換金しちまってな、カジノからは追い出されたものの、その金で親父立ち直って、ブルジョワ丸出しでカイザー・エクスプレッソって会社のクレカ契約して使いまくったら、VIP会員になっちまってな、そしたらオレもコネでこのカードもらえたのよ、親父のほうは今じゃ一代で大手の会長のイスに座ってる、オレをぶりっこにしようとしてきたのは、会長になってからだな」
「ありえねぇ・・・・」
「だなー、最初の頃なんか、メイド服とか着せ・・・・」
ヨシトは先ほどの、小声でもらした『ありえねぇ』から、一気に声のトーンのヒューズを振り切れそうなくらい捩じ上げた。
「違うわぁ!オマエんち、普通の中級家庭だったじゃん!?それがいきなり5000億ドルの大金持ちとかありえないだろ!それだけ儲けて、なんでおじさんギネスに載らないの!?」
「なんでだろうなー、オレにも分かんねーわ・・・・んー・・・・」
対するキサラギ女子のほうは顎に手を当てて真剣に考え始めたが、30秒しないうちに思考が<ぷすん>とオーバーヒートしたのか、首がカックリと前に傾いた。
ヨシトは顔に片手を宛がって、あーあ、と声を漏らしてから、片付けなければいけない他の疑問を投げかけた。
「・・・・今はもういいよ、んで、ここに同居するとしてどうすんの?オマエの分の荷物置く場所なんて正直無いよ?」
そう言われたキサラギ女子は室内を見回してから、負荷がかからない程度にまた少し考え込み、数秒後に手をぽんっと叩いた。
「んー・・・・いや、着替え以外の荷物はいいわー、ちょっち待ってろ・・・・もしもし?引越しのシロネコさんですか?お世話になってます、キサラギですけども・・・・」
再びスマホを取り出して業者に連絡、王様本町のマンションに当初届ける予定だった荷物のうち、衣類関係のものだけを、ヨシトの住居であるこの部屋へ運搬先を変更するようにし、残りの荷物は海外にいるというイサムの父親の元に送りつけるように言い渡した。
引越し荷物は早くて明日には届くのだそうだ。
「・・・・というか、そういうのは一度に片付けたほうが良かったんじゃないか?」
呆れた感じの声でヨシトが言うと、イサムは両手を後頭部に回してから、畳の上に仰向けになって寝転がり、軽くボヤいた。
「まー、メンドくさかったわな、とりあえず、これでオレもこの部屋で一緒に住むことになったわけだ」
「本当に居候するのか・・・・」
ヨシトも感じている迷惑を言葉に乗せてボヤキ返すが、対するイサムはカラカラと陽気に笑い返した。
「いいじゃん、家賃半分払うのはホントよ?いくらすんのかは分かんねーけど、ヨシトも減った負担額分でフィギュアなりゲームなり買えるじゃん?」
冷静に考えてみればヨシトにしてみると、確かにこれは美味しい交換条件であった。
ボロアパートとはいえ、この部屋の賃貸費用は光熱費を除外した場合で5万円、その半額を軽減できれば、今まで手が出せなかったアレやコレを買えるのだ。
突然、図々しく押しかけてきて居候宣言をしたことはともかくとして、家賃半額負担宣言もしたイサムに対して、かこつけようというような悪気が湧くことも特に無かった。
何か拭えない問題があるとすれば、やはり、女子と同居するという点だけだといえる。
「・・・・分かったよ、でも他の生活費用は普通に僕が払うからな」
セッティングが完了し、その上、あんなふうに言われてしまえば、往生際の悪いことなどもう言い返すことも出来ず、この取引を受理する。
イサムの腹の内側が、ぐきゅーるるるるるるる、という大きな音を品性のカケラも無いくらいに出して鳴った。
「腹減った、晩飯食おうぜー」
敷きっ放しな布団の横に置いてあるデジタル時計の表示を確認してみる。
「オマエな・・・・まだ4時半だぞ?」
とはいえど、高校初日の学校が午前上がりで、更にこんな珍客が家に押しかけてきたこともあったせいで、今日は二人とも今の今まで昼ごはんを米一粒分すらも食べていなかった。
腹が減るのも当然だ。
中途半端な時間に晩御飯を食べるのは気が進まないのだが、正直なことを言えばヨシトも空腹だったため、仕方が無く、よっこらせと立ち上がって台所にある冷蔵庫に向かうことにした。
「あー、せっかくだし、オレが作るわ」
振り向けば、ごろごろとイサムがうつ伏せ姿勢に移行し、そのままイモムシのようにもぞもぞと放り投げられていた大きなリュックサックの元まで移動し、中身をごそごそと漁り始めた。
「・・・・何を作るつもりなの?」
よく分からない謎の物体が、次々にぽいぽい床に散らばっていき、やがて荷物を漁るイサムの手が止まって、ヨシトの方に顔を向けた。
「まー、楽しみにしてな?」
カラカラと笑い、取り出されたその手にあった物体は、怪しい缶詰だった。
数十分後―――――― 四角いちゃぶ台の上には、なんとも色とりどりで鮮やかな料理が陳列していた。
そのにわかに信じがたい光景に、ヨシトはポカーンと、顎が落ちていた。
「どーよ?」
ニヤリと八重歯をむき出しにしながら、イサムは両手の親指を立てて人差し指を突き出すという、現在ではパッタリと姿を見なくなった、黄色いタキシード着用のお笑い芸人の持ちネタである古臭い一発芸をしてみせた。
「いや、すごい・・・・っていうか、中華だよね?」
「見りゃー分かるだろー?おめー、コンビニのエセ酢豚ばかり食べて目が腐ったか?」
正座しながら、食い入るように湯気昇る料理を見つめていたヨシトは、イサムが左手の親指で指す後方、台所の片隅に置かれている大きなゴミ袋が視線に映った瞬間、ビクッと肩を跳ね上げて苦笑いした。
「・・・・明日にでも弁当の空き箱は捨てるよ」
「んじゃ、食うべ」
ゴールデンタイムには2時間ほど早い夕食をとり始める。
炊き立ての白ご飯の他に、中華のおかずが三品皿に盛られていた。
真紅の液体に浸かった具材を箸で一つ摘み上げたヨシトの顔が、ふと、疑問に染まった。
「・・・・エビチリって、こんなのだったっけ?」
口に運んで租借してみると、それは普通にエビであり、チリソースは見た目も味も確かに中華の体を成していたが、しかし、肝心のエビが一般的なエビチリに見られる丸まった小エビとは明らかに違い、やたらとまっすぐな姿勢で胴長な見た目や、衣のボリボリとしたこの食感は、どちらかといえば和風な感じがした。
「エビチリって小麦粉使うじゃん?」
エビを飲み込んでから、おかしな点をおかしな点だとまったく気づいておらず、平然としているイサムに、ヨシトは軽く指摘した。
「・・・・それだと海老天になるんじゃ」
次の皿に視線を移す、そこにあったのは茶色いオイスターソース以外は面白みが全く無い、緑色一色の料理だった。
ヨシトはこれによく似たものを、10年以上も昔に、テレビのセル画で見たことがあった。
「・・・・ねぇ、宇宙のカウボーイのアニメ、面白かったよね」
ピーマンをいくらかき分けても、肉が一切れさえも出てくることは無かった。
「ん?ああ、最終回のラストシーン、すっげーカッコ良かったよなー」
表情が暗い場所から浮かばないヨシトとは対照的に、今は無き幼少時のことを思い出したのか、イサムはとても楽しそうに浮かれていた。
「まったく・・・・ん?これはもしかして・・・・?」
最後の一皿には、表面が綺麗な飴の琥珀色に染め上げられた肉料理が載せられている。
「おうっ、北京なアレだわ」
「マジでかっ!?」
本来ならば薄餅の皮に包んで食べるものなのだろうが、こちらの肉の形状は鳥の皮ではなく手羽先みたいな感じではあるが、ヨシトはこれについては実物を目にするのは初めてだった。
先ほどのチリ海老天、肉無しチンジャオと違い、おかしなところが見られないものとして存在している。
早速かぶりつくと、味のほうも問題は無く、表面に塗られたパリパリとした食感の水飴や、ジューシーな肉汁が口の中いっぱいに広がっていき、初めて食べるそれによって、ヨシトは天にも昇りそうな気分になった。
「うん、でも、さすがにダックじゃないよね」
「おう、いくら残高無限のクレカあっても、あっち使うと高いしなー」
「小さい頃に、名古屋の親戚からもらった手羽先を思い出したよ」
「あー、でもチキンでもないぞ?」
満面で肉を味わっていたヨシトの動きが、ビデオリモコンの一時停止ボタンで操られたかのように、ピタッと止まった。
もう一度だけ肉を奥歯で噛み潰してみるが、染み出てきた肉の汁の味は、舌の上でどう転がしてみても、鶏肉のものだと脳が認識している、しかしイサムはチキンではないと今しがた言い切った。
「・・・・なんの肉使ったの?」
両目の瞳孔がゆっくりと開いていく感覚がして、発声はわなわなと力が無く、背筋もゾクゾクと微振動をする。
「ウシ」
白黒の模様が思い浮かぶが、そっちはホルスタインな乳牛だ。
一瞬でイメージにバッテンを張り付けて遠くへと押しやり、早口で追求する。
「コレ、明らかに牛じゃないよね?」
「ガエル」
当然の文字を絵に描いたような真顔で言い放たれた接続単語を耳に入れたのと同時に、つばを飲むつもりで動作させたのどがウシガエルの肉を、ヨシトの胃の中にするりと落とし込んだ。
ヨシトが感じている空気だけが、一気に真っ白な静寂の世界に落ちていく、その光景はまるで、世間に流通した人気週刊少年誌漫画の内容が終始適当なネームだったときような惨状だった。
「あああああああああああ!!!!!!!」
錯乱してもちゃぶ台をひっくり返さなかった点は褒められる箇所かもしれないが、どうしようもない、本当にどうしようもない現実だと思う、別に勝手にした期待を裏切られたわけではない、むしろホイホイと騙されたほうが悪かったともいえる。
「んおっ!?どうした!?」
突然の絶叫に驚いたイサムを尻目に、ヨシトは側頭部に両手を当てて首を激しく左右に振った後、立ち上がって脱兎のごとく台所に向かってコップに水を汲み、ぐびぐびと飲み始めた。
水が気管に入り込んだのか、盛大にむせてから呼吸を落ち着かせ、涙目でイサムのほうに振り返った。
「おまっ!カエルとかないわ!戦時食か!」
鬼気迫った怒号を吐き散らすも、言われた当の本人はさも当然と言い返したそうな、至って普通の表情をしていた。
「おめー、さっきまで手羽先がどうだのって美味そうにしてたじゃん?」
そう言いつつ、イサムは自分の分の北京ダック風味ウシガエルを、一つ摘まんで、もっしもっしと食べ始めた。
「うん、味付けも失敗してねーな、なにがいかんの?」
きょとんと首を傾げて、丸い目をぱちくりさせる様だけは、やはり普通に女子だった。
美味い料理を作れるという点も、そういうスキルを持っているということだけは文句は無い、なのになぜ作品はあまりにも残念なのか、考えるまでも無い、イサムは身体を女性に改造しても、どこまでモードチェンジしているのかは未知数だが、精神思考の方は男性、しかも小学生当時のままといっても過言ではないものだったからだ。
「このエビチリも、アメリカに居た頃に作ったときは、あっちのクラスメイトにウケたんだけどなー」
真っ赤な海老天を、ぼりぼりと軽快な音を鳴らして尻尾まで頬張る。
と、飲み込んだところで何かを思い出したようで、あっ、という声をもらした。
「そーいやー、あのとき誰かが『オゥ! テンプーラ!』とか言ってたわ、忘れてた」
そして何事も無かったかのように、白ご飯の茶碗を持ってかき込んでいる。
無邪気に唯我独尊を体現しているようなイサムの振る舞いを、呆然と見ていたヨシトには、『もう諦める』しか選択肢がなく、その強制ルートに直行することになった。
気を落ち着かせてからちゃぶ台に着席し直したヨシトは、味や食感だけは普通の代物ということだけが救いの肉無しチンジャオを白ご飯に載せて、米と一緒に口の中に入れた。
「おー、そういうのもあるのか、オレもやってみよう」
能天気にサルマネを始めたイサムは、チリ海老天を一尾白ご飯の上に載っけてから、思いっきり『天丼かんせーい』と、得意げに言い切ってみせた。
エビチリはどこに行った。
残りの北京風味ウシガエルだけはイサムに全部譲り、後は時折カラカラと笑いながら話しかけてくるイサムにヨシトはうざったそうに適当に相槌を打つを繰り返して、約一時間後に問題だらけの食事を終えた。
なんだかんだでも、洗い物係りはヨシトが買って出て、食器をすべて片付けた。
「えー!?ウソだろー!?なんでイカスミパスタが56位なんだよー」
ヨシトが居間スペースに戻ると、イサムはテレビのバラエティ番組を見て野次を飛ばしていた。
現在視聴しているのは、ゴールデンタイムにやっている番組で、飲食店のメニュー人気TOP10を全て当てなければ帰宅させてもらえないというものだ。
元々は『もしも○○だったら』というものをシミュレーションする番組だったのだが、いつからか、もっぱら、前述した飲食店メニュー人気TOP10当てに挑戦する番組になっていて、今回の舞台は全国チェーンのイタリアンファミレスだった。
「あそこのイカスミパスタ、すごくマズイって聞いたけど、アレ好きなの?」
ヨシトもイサムの隣に座り込んで、テレビの画面に注視する。
画面の中では、イカスミパスタを注文してランク入りを外したのだろう、若手の芸人が他の参加者達に必死で頭を下げているが、相方芸人や、周りを取り囲んでいる先輩芸人、二人居る司会者からはブーイングの嵐模様だった。
「んー、食ったこと無いからわかんねー、そんなにマズイのか?」
「食べたこと無いのに不平言ってたのか、でも、味に特徴が無いってコメントを前にネットのどこかで見たよ」
ヨシトがそう言うと、イサムは後ろの方に首だけ振り向いて、ヨシトのフィギュアコレクション棚の隣に設置してあったデスクの上の機械を顎で指した。
「ふーん、アレか」
首を元に戻し、テレビに視線を戻す、が、その30秒ほど後のことだ。
おもむろにイサムは突如体の向きを反転させると、移動方法は四つん這いにもかかわらず素早い身のこなしで、先ほど視界に入れたデスクの方にザザザッと四つん這いで近づき始めた。
「え・・・・?」
あまりにも唐突な出来事だったせいで、ヨシトは完全に出遅れてしまい、オフにしていた機械の電源の作動スイッチの起動をイサムに許してしまった。
「ちょ、ちょ、ちょ!?何やってんの!?」
ヨシトの問い掛けにはまるで構うことも無く『ポチッとな』というかなり古臭い定番のセリフを吐きながらスイッチを押したイサムの顔は、まんま面白いオモチャを見つけた子供で、それでいて心底意地の悪そうなイタズラ心丸出しのものだった。
口元から白い八重歯をチラリと覗かせて、イサムはニヤニヤと笑った。
機械がブィーンという音を出して起動し、パソコンのモニターにメーカーのロゴマークが浮かび上がった。
「いやー、なんだろーな、イカスミパスタの話も確かめてみたいけどよー、もっと面白いものが見つかりそうな気がすんだわ、ハードディスクの中身とか」
ヨシトは自分の心臓の筋肉にキュッと縮むような圧力が掛かり、脳の中で変な冷たい物質が分泌されて全身にゾワゾワと伝わっていくのを感じ取った。
心なしか、両目の視界感覚までもが、ちかちかと、ぐるぐると、なんだかもう分からない大変なことになっている。
「あ、いや、な、は、ハード・・・・ハードディスクとかをユーザーが自分で分解すると、メーカーの保証が効かなくなるんだじょ?」
「いやー、バラすとまでは言ってねーべ?データのほう見して?」
表示がロゴマークから切り替わるが、次に現れたこれはデスクトップメニューではないようだ。
そこには青い背景と、中心にはさきほど話題になっていた『まとま☆マギカ』の黄色い娘ミマさんのアイコンが、プリクラのようにペタリと張り付けられていて、アイコンの下に空白のバーが一本設置されていた。
「お願いだからやめて、本当にやめて、それ不正アクセスだから、プライバシーの侵害になるから」
真顔で必死な懇願を無視してイサムはイスにどっかりと腰掛け、いざキーボードを弄ろうとしたところで手を止めた。
短くうなってから、後ろでぐらぐらと体を揺するヨシトのほうに振り向き、平然とこの一言を発した。
「パスワードなに?」
「教えるわけないだろぉ!」
一人でこの一室に住んでいるとはいえ、絶対に起こり得ないとも言い切れない他者からのイタズラを防止するためのログイン用パスワードを設定しておいたことが幸いし、ヨシトは心底ホッとしていた。
セキュリティシステムに門前から払われたことで興ざめしたのか、イサムは面白く無さそうな顔をして、電源をつけたパソコンを放置して再びテレビの視聴に戻った。
結果的にヨシトが電源を落とす役割を請け負うハメになり、ため息を漏らしつつ、モニター内右下のシャットダウンをマウスで操作した。
「もう疲れた・・・・ただでさえ入学式が散々だったのに、こうなるなんて・・・・風呂入って寝ることにするよ、テレビ見終わったら消しといて」
「おーう」
画面に見入ったまま平返事をするイサムの後ろで、振り向かれないかを気にしながらもずっと着っ放しだった制服の上下とワイシャツを脱いでから通り過ぎ、小部屋アパートゆえのトイレと風呂場が兼用されたスペースに入ると、残りの肌シャツとパンツを脱いで、洋式便器の少し離れた横に設置された小さい浴槽の中、夕食後の洗い物をする前に起動しておいた給湯器で張られた湯に体を浸からせた。
未だに温度の微調整が出来ていないため、若干熱めの湯の温度が肌に心地よくヒリリと突き刺さる。
入浴は命の洗濯、今度は気分の良い息が口から自然と漏れてきて、両手で湯をすくって顔面に浴びせかけると、湯に浸かっていない部分もヒリリとしてきた。
「なんでイサムは今頃になって、こっちに戻ってきたんだろう」
湯気で水気が滲む天井を見上げながら、ぽつりとつぶやく、話を聞く限りの様子では、親父さんも変になったしまったようだけども一緒に来ているワケではなさそうだ。
だとすれば、これは家庭の事情なのだろうか、親子ゲンカで勘当だの縁切りだのをされているのならば、あのキャッシュカードだって無いだろうから、これも多分違うんじゃないかと思えた。
単身で突然帰国、そしてここまで押しかけてきた。
高校への留学目的での一時帰国なのか、ヨシトはあの高校に入るために血反吐吐き散らすくらいの勉強をした、でもそれほど偏差値の高い進学高校でもない、探せばもっと良質な学校はまだまだある。
ただ久しぶりに会いに来ただけという簡単な答案は在り得ない、それだけなら入学する必要すら無いからだ。
「だから名前の読み間違いとか知ってたのか・・・・本当に女子になっちゃったんだな・・・・」
どうしてなのかと頭を捻っていると、ふと、耳にしゅるりという衣擦れの音がこのスペースと隔てるドアの向こう側から聞こえてきた。
明らかに嫌な予感がして、恐る恐るドアのほうを見たのと同時に、ドアがバゴンと大きな音を立てて撥ね開けられた。
「テレビ飽きたわー、オレも風呂入るー」
挿絵無し映像無しの文字だけメディアだからこそ、これが許されたといえる。
不自然な光も、過剰な湯気も一切無い、ついでにいえば布切れだとか手前に何かが置いてある等の障害物も全部無い、ヨシト側のビジョンが見えればアニメのディスク版編集なんてちゃちともいえる大サービスが広がっていた。
「――――――――――――」
最初に夕張メロンとか言い出したやつは、どこの誰だ。
「よっこらー、ぅおぅっ!?少し熱くね?」
イサムのほうは何も気にする事無く、腰を屈ませて洗面器で湯船からお湯を洗面器にすくって浴び、湯の想定外の温度に驚いただけで、それ以外は威風堂々とし過ぎていた。
ここでヨシトの様子がおかしいことに、イサムも気づいた。
「んー?どうしたー?また目が点になってるぞー?」
ヨシトの喉がわなわなと震えだし、ありったけの声を絞り出した。
「定番とか言う気すらない!あとタオルすら巻いてない!」
10数年生きてきて初めて目にした現物の全裸の女性体が、まさか性転換した男友達になるなんて、誰が欠片一つでも思えるだろうか、見た目が上から下まで完全に女子であるといわれようが、これは無いとハッキリ言い返せる。
サイコロの賭け事に負けた地下強制労働施設の班長みたいに、『ノーカウントッ!』とか声高々にほざける話ではなかった。
大口開けて右手で指差してくるヨシトを、イサムは両目をぱちくりさせながら見返した後、腰に両手を当てて体を若干反す、覆い隠す布切れ一つ無い丸出しな二つの大きな天然果実が無駄に揺れていた。
「別によくね?待つのも暇だからオレも風呂入りたかったし、おめーはいろいろ見れてる、代金としてならこっちがお釣り貰いたいくらいだぞー?」
体の表面を軽く流してから、イサムは狭っ苦しい湯船の中、ヨシトの左側にズカズカと無理やり入り込んだ。
返品不可能とでも言いたいのだろうか、これは悪質すぎる、とても消費者生活相談センターに持ち込めるレベルではなかった。
「まー、定番やったほうがいいかなー、とも思ってなー?」
ニヤリと八重歯を見せながら意地悪く笑い、してやったりなドヤ顔をしてから『ふー・・・・』という気分が良さそうなため息をついて見せるも、やはり窮屈になってしまったため、イサムの右腕がヨシトの左腕にベターっと張り付いてくる。
ヨシトにはこれがとても気分が悪かった。
対照的にイサムのほうは何から何までまるで気にしてないのも、余計に拍車をかけてきている。
もう嫌とかダメだとかの問題ではなくなってしまい、ヨシトは湯船から腰を上げた。
「んー?もう出るのか・・・・んぉ?」
ヨシトの腰元がちょうどイサムの目線の高さ辺りになり、見せ付けるつもりも無いのに、宙ぶらりんになっている物体に視線が集中する感じになってしまった。
「おおっ?なんか懐かしいものが・・・・」
イサムがただその一点だけを興味津々にまじまじと覗き込むものだから、風呂場なんていう場所にこれ以上一緒にいるのはマズイと判断し、ヨシトは考えることを放棄して、まだ体も頭も洗ってないのにさっさと退室することにした。
「なー、ヨシトー」
仕切りドアに手を変えたところでヨシトは声を掛けられ、どれほど面倒くさくとも一応として視線は向けずに一瞬だけ立ち止まった。
「世界で一番風呂入るの好きなのって、どこの人だと思う?」
心底うんざりするくらいどうでもいい話な上に、向こうはこれを楽しそうな顔をして言ってくるのだからまた腹が立った。
その30分後にイサムが風呂から出てくる頃には、ヨシトはもうパジャマへの着替えと洗顔を済ませて、畳の上でゴロゴロとふて寝していた。
「ふー・・・・さっきのなぞなぞ、答えは古代ローマ人なー、そういう映画をこの前見たのよ」
イサムが得意げに話すその映画とは、多分最近テレビでCMやってるアレのことだろう、面白そうなのだが見に行っているヒマが無かった。
ヨシトが顔を上げてみると、その目の先では再び制服姿に戻ったイサムが冷蔵庫の中身を勝手に漁っていた。
顔をうつ伏せに視線を背けて、再びふて寝に移行する。
「牛乳飲みたいー、一杯もらうべー」
コップにパックの牛乳を注ぎ、それを一気飲みしたイサムは口の周りにカルシウムの色を着けて上機嫌に一息ついてから、地に伏せるヨシトに視線をやった。
「んー、どーしたんー?あー、もしかしてそれが土下寝ってやつ?」
どうしてこの流れでイサムに土下寝などしなければならないのか、ヨシトは畳の藁に接地していた顔面を右横に向けた。
先ほどまで鼻についていた乾燥草のクシャクシャとした感触が左ほっぺたに移る。
「・・・・僕はもう寝る、心底疲れた」
「布団で寝りゃいーじゃん?」
顔が横を向いたことで頭上の照明の光が目に入ってきてうっとおしいのだが、こうするしかなかった。
「・・・・布団はイサムに貸すよ、風邪引かれたら困るし、あと電気消して」
間が空いてから照明のヒモを引っ張る音がして電光が途切れ、カーテンの閉め切られた狭っ苦しい部屋は、一筋の月光も差し込まないまっ暗闇になり、寝転がるヨシトの後頭部から少し離れた場所で、数秒後にバサッと音がした。
そしてさらに数秒後のことである。
「・・・・なーんか、くっせーなコレ」
暗い中でヨシトが聞いたそれは、嫌悪してるような感じではなく、どこか楽しんでいるような感じの、呆けた苦笑だった。
―――――――― 数時間後のことだ。
「ぅごほっ!?」
季節は春になったとはいえまだまだ肌寒い空気の中、屋外の空に青が混じってきた頃にようやく眠りかけてきたヨシトの横腰を、突如として猛烈な打撃が襲った。
変な方向に曲がりそうな一撃を受けた腰を押さえつつ、すぐに体を起こそうとしたところ、それよりも一手早く今度は側頭部に重い連撃が叩き込まれる。
三度目の襲撃は無いようで、染み渡る鈍痛に呻きながら頭に載せられた物体を退けて、のそのそと起き上がる。
立ち上がって振り返った先、敷布団の上ではイサムが掛け布団を跳ね飛ばして手足を目いっぱい伸ばしており、それは見事なまでに形の悪い大の字だった。
「んごごごごごごごごごご・・・・・ぐごごごごごごごご・・・・・」
大口からは高らかないびきをかき、口元からはヨダレが垂れ流しにされ、にも関わらずとても気持よさそうな寝顔を晒していた。
これが女子だと、否、やはり男子なのだ。
眠気で意識が朦朧とするヨシトは、拳や蹴りが飛んでこない安全地帯を求めて、ひとまずパソコンの前の椅子に腰かけた。
どうしようもない苛立ちが湧きあがり、しかしどうすることの出来なさから、せめてのものとしてそれが溜息となって長い空気の尾を引いて漏れていった。
黒一色のモニターには項垂れる自分の姿が写りこんでいた。
首を回して、部屋の中心部を眺める。
「どうしてこうなった?」
その後、鳩のさえずる声が聞こえてくるようになった頃、ヨシトの意識はいつの間にか寝入っていた。
書き始めてから2カ月が経ちましたか・・・・
やっと第一話が完成しました。
読者さんの中には、これを読んでいて『何かいろいろ間違ってるうえに作者は何がしたいのかまったく分からない』という方がいらっしゃると思いますでしょうが、現在あとがきを書いている私自身も何一つ分かっちゃいません。
『男の娘』というものをヒロインに据えるにあたって、イサムが性転換男の娘という、変な反則キャラになったことの中に、男の娘キャラがよく言う「オレは男だ!」的なテンプレートセリフを使いたくないがためにこうした、という反抗的な思想があります。
ある場所でこれを発表した際、『そういうキャラクターは売れない』と知り合いには言われましたが、こういう場所で同人作家として細々とやっていく分なら問題はないんですよ。
ではなぜ、あえて売れなさそうなキャラクターでやるのか?
売れるものは常識的であり、非常識なものは売れない、この二択にした場合、私は非常識を選択する。
つまりそういうことです。
ちなみに作中においてどこぞの魔法少女のパロディをやりましたが、作者は黄色い娘よりも、青い娘×赤い娘が好きです。