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砲兵より愛を込めて

作者: マクミラン
掲載日:2012/05/04

 アメリカ海兵隊に属している彼は相棒の側で筋トレをしていた。筋力が落ちると、まともに仕事ができなくなるので筋トレは欠かせない。

 七年前まで、彼は日雇いのライン工だったが、刺激のない日常と賃金の低さに飽きて海兵隊に志願した。初めは普通のライフル歩兵だったが、ライン工だった頃の単純作業の正確さを買われて砲兵になった。

 話を持ち掛けられた時、彼は喜んで兵科を砲兵に変更した。命の危険も少ないし、何より自身の手で人を殺さずに済む。今や彼はベテランの砲兵だ。

 寸分違わず同じ動きを繰り返し、次々と敵の頭上へ榴弾をお見舞いするから、彼を人間ロボットと部下は敬意を込めて呼ぶ。

 彼が腕立て伏せをしていると、弾道計算機を操作していた士官が突然叫んだ。来た当初は当てにならない士官だったが、最近一皮剥けたと彼は思った。

「砲撃任務! 装薬番号8S! M110発煙弾から初めてM107榴弾と交互に計十発! 座標42365632!」

 士官が叫び、射角を調整する係が復唱しつつハンドルを回すが、同時進行で弾の装填は行わない。装填はちょっとしたミスが大事故に繋がるから、士官が合図をするまで待つ規定になってる。

 彼は赤ちゃんでも抱っこするように50キログラムの砲弾を持ち、静かに号令を待った。彼らの相棒であるM198は装填補助装置も無いから、人員が多く要る。

 最近は海兵隊にも最新榴弾砲が導入されたが、まだまだこれは現役だろう。海兵隊の武器兵器の更新は陸軍より遅く、古い装備で陸軍より成果を出すのを誇りとしている。

「装填開始!」

 合図と共に真っ白な砲弾を穴に入れ、二人がかりで槊杖と呼ばれる棒で押し込む。白リンを使った発煙弾で、二次的に焼夷効果もある。ヒトに対して使ってはいけないと報道されているが、そんな事は無い。別にこれは発煙弾だ。

 彼が装薬を受け取ると、カバーを外してもらいながら薬室に入れた。あんまり奥まで入れると激発が遅くなるので、程良い位置に挿入しておくのがコツだ。

 最後に閉鎖機を閉め、雷管を挿入して発射準備完了である。士官の号令と共に引き金に引っ掛けた紐を引き、撃発させる。反動を軽減する駐退機が勢い良く後退し、風切り音とともに砲弾を射出した。

 速やかに閉鎖機を開放し、今度は火薬が詰まった緑色の砲弾を装填する。とんでもない威力を持った砲弾で、30メートルは危険範囲になる。よく盗難に遭ってIEDに化けやすいが、防ぐのは輸送科の仕事であって砲兵の仕事ではない。

 二十秒以内に次を準備し、また士官の掛け声で彼は紐を引く。お望みの着弾点とは違かったのか、前線から修正要求がやって来た。素早く士官は計算機に入力して読み上げる。

「変更! 右に25! 上に30!」

 また復唱しながら担当がハンドルを回し、砲塔を動かす。動作が終わると速やかに発煙弾を押し込んだ。彼はバトンでも受け取るように手を伸ばしたが、装薬が渡されなかった。

「どうしたんだ、装薬急げ!」

 怒鳴られ、驚いた新兵が彼に白い筒を渡した。速やかに中身だけを挿入し、合図で紐を引く。砂埃を巻き上げながら駐退機が後退し、汚い花火を打ち上げた。

 どうやらこの変更で命中したらしく、このままガンガン撃ち込む。後は同じ動作を繰り返せば良い。開けて、突っ込んで、入れて、閉めて、入れて、引く。誰かが違う動きをするだけで発射速度は遅くなる。

 十発全てを撃ち切り、ルーチンワークを終えた彼らは満足感でいっぱいだった。高エネルギーで何かを飛ばすのは実に気持ちがいい。特に彼の仕事量は多い。 

「次は装薬を忘れるなよ」

 新兵に忠告をした後、彼は仕事上がりの一杯を飲み干す。まだ仕事中なのでただの水だが、彼にとっては最高に美味い飲み物だった。

 新入りが砲身内を清掃している間、彼は榴弾砲のぶっとい脚に腰を掛け、大きな声で少尉に話しかけた。何を吹き飛ばしてやったのか知りたいのだ。

「ハリス少尉、目標は何だったんだ?」

「ん? 狙撃兵だったそうな。行軍中にバーンって」

 たった一人か二人のために砲弾を十発も使うなんて経済的ではないと彼は思った。狙撃検知システムという物を彼は知っていたが、一発食らってからではないと使えないのも知っていた。

「それにしても、遠くからコソコソ撃つなんて卑怯だな。爆死して当然だ」

「俺達も言えないと思いますよ、軍曹」

「まさか! 派手な音を立ててるだろ!」

 確かに狙撃手の射程よりも遠くから撃っているが、榴弾砲は目立つし音も大きい。どこも隠れてコソコソ撃っていない。

「また支援要請が来たぞ。砲撃任務!」

 彼はこの仕事に誇りを持っている。彼らは前線の兵士を救う救世主なのだ。近接航空支援なんて到着に時間が掛かるし誤爆もするが、砲兵は正確に直ぐに撃って成果を残す。

 彼は再び立ち上がり、大声で兵士らを鼓舞する。これだから軍隊は辞められないのだ。

どうも

名前のくせに軍隊物書いてないじゃんということで書いてみました

なろうの小説ではあまり出てこない(気がする)砲兵さん達のある日です

無慈悲にスナイパーをぶっ飛ばす砲兵△


さしてどうでもいい解説


・榴弾砲について

 使っている榴弾砲はM198と呼ばれる155mmの榴弾砲です。

 アメリカの最新榴弾砲はすっごい軽い榴弾砲M777ですが、陸軍より古い装備を使うイメージのある海兵隊なのでM198です。というかまだ辛うじて現役です。


・砲弾は二種類

 M107榴弾

 破片を飛ばして痛い目に遭わせます


 M110発煙弾

 白い煙モクモク。白リンだから化学火傷のおまけ付き。

 同様にM825っていう白リンを使う発煙弾もありますが、M110の方が焼夷効果が強いそうです。


気になったら調べてネ!

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