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3-11【終焉】―シャルロットSIDE―


 その後の顛末はあっけなかった。

 意識を取り戻したカルロ・ミサ・シークリア枢機卿が、アンヌフォルトの推薦を取り下げたのだ。 彼は今でもアンヌフォルト・インドブルクスの神聖を疑ってはいなかったが、それよりも優先して守るべき何かに気づいたようだった。

 そしてあの時、白の間で起きた光景を目の当たりにした者は、誰一人としてシャルロットの聖座継承に反対することはなかった。 最後まで抵抗したのはゲティスに組した貴族連合だったが、それも長くは続かなかった。 シャルロットが初代教皇アグリウスタの血を引いている事実が明らかになると、教会法を盾にとる口実を失ったのだ。 端から新教皇の下で、甘い汁を啜ろうと打算的な腹積もりであったようで、手の平返しも見事なものだった。

 後日、シャルロットの即位式典はつつがなく執り行われた。


 「シャルロットさま、ご立派でした」


 ミルフィーナが感涙に咽んだ目で、聖宮の露台に佇む少女を見つめている。 新教皇のお披露目と宣誓を終えたシャルロットは、目下に広がる祈りの広場から伝わる歓声に包まれていた。 エレシアムの御子についてだけは伏せていたが、信徒を前に自分の生い立ちと共に、聖女の資質者ではないことを告げた。 しかし、祝福の歓声が止むことはなかった。 信徒が目にしているのは過去の聖女ではなく、アレシャイムに新たに誕生した聖女の姿だった。


「ありがとうフィーナ」


 シャルロットは背後を振り返ると、信頼する女騎士団長の相変わらずな様子に苦笑する。 本人は否定するだろうが、ミルフィーナが誰よりも感情家であることは、周囲の人間ならすぐに気づく。


「『不完全な価値観を持ち、変わることができるからこそ、ヒトはヒトである』、か確かにその通りだな」


 エドゥアルトが新教皇の式辞を引用して賛同する。 こちらも式典以来、着いて離れず状態である。


「首人さまは?」


「処刑人の面々と共に姿を消してしまったようだ」


 シャルロットの問いに、エドゥアルトは首を横に振った。 首人はいつの間にか姿を消していた。 まるで、自分の役目が終わったことを知らせるように、この舞台を降りていた。


「そうですか……もう一度会って一言お礼が言いたかった」


「生きてさえいれば、その機会もあるだろうさ」


 エドゥアルトは何処までも前向きだ。 一見、楽観思考にも思えるが、彼なりの流儀に従った芯の強さこそ、この青年の美徳だろう。


「それにしても、恩賞ぐらい要求しても罰は当たらなかっただろうに、見た目同様に風変わりな御仁だったな」


 そして、いつも一言多い。 こちらは悪癖の類だ。


「あの方は貴様とは違うからな」


 案の定、ミルフィーナに揚げ足を取られる。


「これは心外。 俺だって恩賞なんて無粋なものを要求するつもりはない。 こうして見目麗しいお二方の側に居られるだけで十分だ」


「まさか、まだ着いてくるつもりなのか?」


 ミルフィーナが呆れたように嘆息する。 ここは教皇庁でも、最も警備が厳重な聖宮セラフィムガードである。 素性のわからぬ者が出入りできる場所ではない。 確かめるまでもなく忍び込んだのであろう。


「無論、何処までも。 それに、また置いてきぼりでは堪らない」


 エドゥアルトは悪びれもせず答える。 どうやら先日、白の間に帯同できなかったことを、まだ根に持っているようだ。 もっとも、この青年が居ると、まとまる話もまとまらなくなるので、荒縄で縛り上げて強制的に留守番を任されたのだが。


「ならば、火に油を注ぐ、その悪癖をどうにかしろ」


「つれないな。 共に死線を潜り抜けてきた仲ではないか。 それに最後の最後で蚊帳の外では、流石のオレでも落ち込むぞ」


「……貴様の働きには、ほんの僅かだが感謝している」


 ミルフィーナは気恥ずかしくなったのか、ひとつ咳払いをしてエドゥルトから顔を背ける。 その頬が僅かに赤らんでいた。


「素直じゃないな。 まぁ、辛辣な言葉とは裏腹な本音が、すぐ顔にでてしまう所が、ミルフィーナ卿の可愛いとこ―――おっと」


 危険を察知したエドゥアルトが大きく背後に飛び退く。 抜刀したミルフィーナの長剣が空を切っていた。 まともに喰らっていたら、現世に別れを告げることになっていただろう。


「おいおい、聖宮内は帯剣を禁じている筈だぞ?」


「帯剣とは腰に剣を帯びることを指す。 故に衣服の内側に潜めておくことは帯剣には当たらない」


 ミルフィーナが得意気に返す。 人間頭が固すぎると、別の意味で融通が利かない例である。 規律にある文面を単語の意味だけで捉えていたらしい。


「屁理屈だぞ」


 エドゥアルトが額に冷や汗を垂らして抗議する。


「心配は無用だ。 抜刀しても見る者の死角になるように心掛けている」


 自分でも違和感はあったらしく、隠してはいたようだ。 そして、脱兎のごとく逃げ回る青年を追いかける女騎士団長。


「まったく、ふたりともいい加減にしなさい」


 シャルロットは心からの笑顔をみせて、ふたりの後を追う。

 神殿都市セラディムの街並みは、赤と白の祝旗を掲げて、リュズレイの聖女を祝福するように輝いていた。


シャルロットの物語はこれで完結です。

拙い書き手の物語を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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