3-08【魂牢】―シャルロットSIDE―
短くてすいません。
区切る位置を間違えました。
「それにしても、あんな化け物が巣食っているとはね。 お陰で、都の王室御用達の仕立て屋に特注した一張羅が台無しだ」
エドゥアルトが衣服にこびり付いた煤を鬱陶しそうに払いのける。
「首人さまも、こういった事態を予期なさっていたからこそ、我々を同行させたのでしょう」
立ち上がったミルフィーナが首人へと顔を向ける。 口調こそ穏やかであったが、その両眼には釈然としない苛立ちにも似た感情が色濃く滲んでいた。 首人―――アルフォンヌの助力が得難いものであることは確かだ。 しかし、その遣り様はシャルロットを進んで危険へと誘っているように思えてならなかったのだろう。
「ミルフィーナ卿がそう思做すならば、そうなのやも知れぬな」
「まだ、何か隠していることがあるのならば、手遅れにならない内にお教え願いたい」
首人の歯切れの悪い応答に、ミルフィーナが憮然とした表情で詰問する。
「フィーナ、おやめなさい!」
シャルロットが驚きの声をあげて、ミルフィーナを制止する。
「御身に及ぶ災いを事前にくい止めることが叶うのならば、どのような非難や汚名も、甘んじて受け入れる覚悟です」
だが、ミルフィーナも後には引けなかった。 聖女の血脈を守護することが、守護騎士団の矜持であることを強く主張する。
「妾は力に溺れ償いきれぬ過ちを犯した。 その贖罪の為にここにおる」
首人が投掛けられた視線を受けて答える。
「どうやら、お二人は似たもの同士であるようだな」
そこに意外な人物が意外な言葉と共に割って入る。 エドゥアルトであった。
「貴様、このような時に世迷言など―――」
「似ているさ。 何の得にもならない厄介事にこうして首を突っ込んでおられるのだからな。 それは偏にシャルロット姫の為だ。 違うかな?」
ミルフィーナの苦言など何処吹く風、エドゥアルトは素直な感慨を洩らす。
「そ、それは……」
ミルフィーナが気勢を削がれたように言い淀む。
「ここは、そんなお人好し共に、嫌々つき合わされている俺の顔を立てて欲しいものだな」
などと斜に構えて傍観者気取りのエドゥアルトだったが、
「口ではそう仰っていますが―――」
「エドゥアルトさまも十分にお人好しですけどね」
シーラとノーラに突っ込まれる始末だ。
「お二人ともまだまだ人生経験が足りないようだな。 敢えて口にはせず、相手だけを持ち上げておいた方が、俺の善良さが一層際立つだろう。 それに、時には真実よりも大切なことがあるものさ。 信仰を遵守ることに固執するあまり、その本来に意味を見失う狂信者に成り下がりたくなければな」
双子に向けられたエドゥアルトの視線が、一瞬だけミルフィーナへと移る。
「くっ、まぁいい。 今は貴様の戯言に構っている暇はないからな。 シャルロットさま、先を急ぎましょう」
ミルフィーナは僅かに頬を赤らめて舌鋒を収める。 そのまま、抜き身の長剣を片手に下層へと歩を進めてしまう。
「やれやれ、素直じゃないな」
エドゥアルトは苦笑して歩き出した。