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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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借り物競走の魔女2

おかしい。



劣化複写イレギュラーコピー! 超加速システムアクセル!」

超加速移動で迫る。

俊足ライトステップは、どちらかというと継続移動向きの移動系BMP能力だ。

最高速なら、こちらにアドバンテージがある!


が。


ひょいっとかわされる。


「~~~! またか!」

超加速システムアクセルが曲がれないのは理解している。

俺は頭は悪いが、そこまで馬鹿じゃない。

それを計算に入れて、捕まえようとしているんだ。

なのに、まるで氷上を滑るかのように動く前田先輩がどうしても捕まえられない。


自分で言うのもなんだが、BMP能力の相性だけの問題じゃない。

高速移動系BMP能力者として、完全に上を行かれている。


……いっそのこと、本当に幻想剣でっ!


などと考えたのがまずかったのかもしれない。

前田先輩に再度ひょいっとかわされた俺は。



校舎の壁に激突していた。


☆★


ひょっとしたら、一瞬意識が飛んだかもしれない。


痛い。

とても痛い。


以前三村と『一番怖いもの』の話で盛り上がったことを思い出す。


俺は、怒った時の麗華さんだった。

そして三村は、キレた時の麗華さんだった。



……いや、一番目はどうでもいいんだ。



その次に怖いものは、『衝突』とのことだった。



「これは、確かに、勘弁だな……」

痛みよりも、頭がくらくらする方がきつい。

しっかりガードはしたつもりだが、軽く脳震盪を起こしたのかもしれない。

ついでに言うと、ガードした腕も結構痛い。折れてなきゃいいんだけど。


すぐに立てそうにない。

俺は、そのまま、大の字になって寝転んだ。



しかし、かなりの激突っぷりだった。



朝……というか、ここ最近のもやもやとか、不安とか、不満とか。

そんなものが全部消し飛んでしまうくらいに。

客席のため息とか嘲笑とか、そんなものがどうでも良くなってくるくらいに。


確かにKTIは勘違いをしている。


俺に恥をかかせることで、麗華さんに一矢報いる?

こちとら、恥をかくのなんて当たり前の、素人かつ凡人だっての。


俺も勘違いをしていた。


負けたっていいし。

恥をかいたっていいし。

麗華さんだけが格好いいのは仕様だし。

麗華さんに迷惑をかけたなら、後で謝ればいい。


と。

「だ、大丈夫?」


前田先輩が覗き込んでくる。

麗華さんが河合先輩に言っていたように、俺はこの先輩がどれほどの努力をしてきたのか分からない。

ただ一つ確かなのは、俺より遥かに長い時間をかけて、自分の力を磨き続けて来ていたということ。

出力なら勝てる……なんて思いあがっていたのが、今ではとても恥ずかしい。


そして。

そんな先輩が、いや先輩方が、俺を倒すために本気になっていることが。

とても光栄で。



とても嬉しい。



「大丈夫です。前田先輩」

テンションあがって来ました。


「近づき過ぎですよ。早く逃げてください」

せっかく楽しくなってきたんですから。



「じゃないと、捕まえちゃいますよ」



☆☆☆☆☆☆☆



「ひゃっ!」

すれすれのところを追跡者の手が通り過ぎ、前田朱音は声を上げた。


「ちょ、ちょっと油断したかな!?」

「じゃ、気を付けてください、先輩!」

さきほどまでとは打って変わって余裕のある笑みで答える澄空悠斗。

さきほどまでの、速いが直線的でカクカクした動きとは違う。

これは……?


俊足ライトステップ……?」

思わず呟く。

最高速こそ出ないが、旋回性に優れ、継続使用に適したあの動きは、確かに自分の俊足ライトステップだ。


だが、澄空悠斗の劣化複写イレギュラーコピーは、必ず劣化して複写する能力。

同じ俊足ライトステップなら捕まるはずはないのだが。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

「ひょわ!」

奇声を発しながら、なんとかかわす朱音。

俊足ライトステップで引き離して安心していると、超加速システムアクセルが飛んでくる。

BMP能力の切り替えが、恐ろしいほど早い。


とはいえ、この機動はさきほどまでとは難易度がまるで違う。

おまけに、今、朱音が逃げているのは、さきほどまでの開けた運動場ではない。中庭だ。

ダメージ無効化結界のおかげで外傷こそないが、あちこちぶつけたり、転んだり、悠斗はとても痛そうである。



だが。



「い、一体、何がおかしいの!?」

「いや、おかしくないですよ! めちゃくちゃきついです! さっきから酸欠気味の症状らしきものが!?」

「どこがよ! ニコニコしてるじゃないの!」

叫ぶ朱音。

言っておいてなんだが、ニコニコという表現は少し違う。

この眼は。



あの時と、第5次首都防衛戦の時と同じ眼だ。

腕に覚えのあった新月学園生も、駆けつけたBMPハンター達もまるで手も足も出なかったBランク幻影獣を、一刀のもとに切り裂いた時と同じ眼だ。



「恥ずかしくないの! Aランク幻影獣まで倒した救世主様が! ルーキーとも呼べないような女子高生にいいようにやられて!」

「いや、全く!」

「笑われてたわよ!」

「しんみりするよりいいでしょう!」

「お客さん、結構偉い人達も居たのに、結構帰っちゃったよ!」

「忙しかったんですよ! たぶん!」

「学園の評価も、世間の評価もがた落ちよ!」

「せっかくの楽しい体育祭に、そんなもん持ち込む方がおかしいんですよ!」

「ひゃぁ!」

今度は近い。転びそうになった。



敵意とも諦めとも怒りとも違う瞳の色。

まるで死神のように君臨する幻影獣の前に出ることすらできなかった自分の前で。

死力を尽くす金髪の少女を背に庇い、生まれて初めての実戦でBランク幻影獣を撃破した時の、少年の瞳。

まるでお伽噺の王子様が現実に降臨したかのような、あり得ない奇跡の光景。


あの時と同じ眼で。

自分に迫ってくる。


正直、ちょっと捕まってもいいかな、と思ってしまった。

というか、一瞬、どさくさまぎれに抱きつきそうになった。


◇◆


「楽しそうですね」

高速で鬼ごっこを繰り広げる二人を見つめながら、賢崎藍華は呟いた。

開始五分で金剛腕ダイアモンドアーム大岡忍をノックアウトした女傑は、その後、ずっと澄空悠斗の追跡劇を監視していたのだ。



「愉しむことはいいことです。努力を楽しめる人は必ず伸びる」

褒めながらも、その表情は少し硬い。

「でも、それだけじゃ、間に合わないこともあるんですよ?」

その手には、なぜか3個のボール。



「まあ、いいですけど。少し、邪魔しますね」

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