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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
88/336

『射撃』の王子様

◇◆※『新月学園体育祭ダメージ無効化結界展開責任者二宮修一の報告書3:射撃について』


種目:射撃

条件:特になし。周りに迷惑をかけないように。


○主な結果

2位:峰達哉

1位:飯田謙治


〇観測者による所見

凄いものを見てしまった……。

これを感動と言わずしてなんと言うのだろう?

『射撃』についてご存じだろうか。

高速で打ち出される標的を撃ち落とす……、そうだな、クレー射撃をBMP能力で行う感じだ。

俺はこの競技が好きじゃない。

遠距離攻撃系自体好きじゃないし、火力を競う『砲撃』ならともかく、ちまちま命中率を競うなんて好みじゃない。



そう思っていた時期が、俺にもあった。



1位になったのは、銃剣士シェイプシフトの飯田謙治。

火力こそ足りないが、正確で早い射撃は高校レベルでは頭一つ抜けていた(※なんせ、銃だ)。

飯田少年のチャレンジ後、参加者達に諦めの空気が漂ったのを責めるのは酷というものだろう。

正直、俺も、もう決まりだと思っていた。


が。

『彼』は違った。


誰もが飯田少年の早撃ちに感激し、賞賛を送る中。

誰の注目を浴びずとも(※金髪の少女と澄空悠斗のツレが応援していたが)、その視線に一切の迷いはなかった。

その姿、まさに威風堂々!

引き締まってはいるが、遠距離攻撃系とは思えないほど、大柄な少年だった。

顔もいい。

ストイックに引き締まった顎のラインといい、形のいい高い鼻といい、噛みごたえのありそうな耳といい……。

なにより、あの強い意志を宿した目!

軽くイッてしまいそうになるほどだ。


競技中にも関わらず、ダメージ無効化結界そっちのけで見入ってしまい、他の結界能力者達から携帯電話で抗議された俺を誰が責められるだろうか?

責められる訳がない。あいつらがおかしいのだ。


残念ながら、達哉君は2位だった。

まあ、仕方がない。彼の砲撃城砦ガンキャッスルは、どちらかというと『砲撃』向きだ。

だが……、ああ、俺は自分が恥ずかしい。

彼は『ちまちま命中率』なんて考えていなかった。

まるで散弾銃のように荒れ狂う自身のBMP能力を、その一発一発に至るまで完璧に制御しようとしていた。

出力を抑えるでもなく、しかし散漫になるでもなく。

この競技の勝ち負けだけを見据えて挑んでいるのでないことは明白だった。


強い輝きを宿す瞳が煌めき、鍛え抜かれた二の腕が舞い、優雅な曲線を残す指が標的を指差す。

偶然、その指先が俺の方を向いた時。



俺の心もまた、射抜かれてしまったかのようだ。



ステップを刻むたびに震える彼の筋肉と尻が俺の理性を奪う。

だめだ、野性に還ってしまいそうだ。

俺の心は、剛様一人に捧げると決めたはずなのに。


まさか、こんな出会いがあるなんて。

ああ、俺はどうすればいい!


◇◆



「…………誰ですか、二宮さんに報告書を書かせているのは?」


携帯の画面を見ながら、苦虫を噛み潰したような顔をしているのは、城守蓮。

歴代最強ブレードウエポンにして、BMP管理局長の重責を担う重要キャラである。

そんな重要キャラだが、今日は非番だった。

ちょっとした約束もあり、母校である新月学園体育祭の応援に駆け付けたという訳である。


まぁ、完全に遊びという訳でもない。

新月学園の中には、将来のBMP管理局を背負って立つような人材も眠っているし、ちょっとしたスカウト活動のようなものでもある。

そして、仕事熱心な蓮は、空いた時間でちらちら管理局からのリアルタイム報告を携帯で確認していたという訳だ。


『誰っていうか……。二宮さんが警備責任者なんですから、普通だと思うんですけど?』

通話相手は、志藤美琴。

優秀なのだが、色々と問題のある娘だ。

「まぁ、そうなんですが……」

そんなことくらい、もちろん蓮も分かっていて言っている。

「真面目に書け、と言って、書くと思いますか?」

『二宮さん、大真面目ですよ、たぶん』

そんなことくらい、もちろん蓮も分かっていて言っている。


「要旨だけ抜き出して、まともな報告書にしておいてください……」

『お任せください♪』

妙に嬉しそうな志藤。

蓮には分かる。この娘、原文の方をプライベートで(※腐的に)楽しむつもりだ。

だが、蓮には止められない。

下手に彼女の機嫌を悪くすれば、明日、自分がこのカオスな報告書をロウに変えなければならない。


ついでに二・三ほど指示をして、蓮は携帯を切った。


と。

「っと、来ましたか」

ちょうど、右眼にごつい眼帯をつけた小さい少女が駆け寄って来ているところだった。



☆☆☆☆☆☆☆



「おっ。来たか、澄空」

「悪い、遅れた……って、ほんとに遅かったみたいだな」

屈託なく挨拶してくる三村に応えながら、軽く悔やむ。

峰の出ている『射撃』競技はどうやら終わってしまったらしく、今は表彰式らしきものをしていた。


「峰は……2位!? 凄いじゃないか!」

オリンピックの表彰台のようなものの2番目に高い所に、俺のクラスメイトは立っていた。

「うん。達哉のBMP能力はどっちかというと、精密射撃には向いてないんだけどね。大したものだよ」

「デスね! デスね! 峰さん、格好良かったデスー!」

素直に感心しているっぽい小野の横で、エリカが自分のことのように嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねている。

……盛り上がっているようだし、『どうしてこの競技だけ表彰式があるんだ?』といった類の無粋な質問はやめよう。



「1位は……、飯田先輩か」

峰より高い場所に立つのは、飯田先輩。

BMP能力は、確か『銃剣士シェイプシフト』。具現化した二丁拳銃と剣を形態変化で切り替えて闘う能力だ。

基本、銃だからなぁ。『射撃』は強い。もちろん、本人の技術も凄いんだろうけど。

「峰さんも頑張ったんデスけど……」

エリカがしゅんとする。

「仕方ないさ。新月学園五帝・飯田謙治。対人タイマンなら、五帝最強の天竜院先輩より強いかもって言われてるからな」

三村も応じる。

なるほど。『五帝最強』が麗華さんでないってことは、五帝とやらには麗華さんは入ってないんだな。

少し五帝なるシステムに興味がわいた。

まあ、五帝はともかく、天竜院先輩ならBMP課程で顔を合わせているから知ってる。

なぜか麗華さんが微妙に避けているみたいなんで、俺もあんまり話したことはないけど。


と。


「ん……?」

「どうした、澄空?」

「いや、なんか、俺。飯田先輩に睨まれているような気がして……」

表彰台の方を見たまま、三村に答える。


気のせいかそうでないか微妙な距離と雰囲気だが……。


「確かに、そんな気もするな」

「言われテ見れバ……」

三村とエリカも同意する。


「なんだろ? 俺、あんまり飯田先輩と接点ないけど……?」

「体育祭でライバルになりそうダカらじゃ、ないデスか?」

そうかな?

なんというか、あまりそういう爽やか系の視線じゃないぞ?


と。


「ったく、分かってないな」

三村が言う。

「? 何が?」

「おまえ、今誰と同棲してるのか忘れてるんじゃないのか? 学園最強の美少女と一つ屋根の下で暮らしてれば、他の生徒の嫉妬なんてデフォだろ?」

当然のように言われる。

「ア、確かニ」

エリカも納得した。

いや、しかし。

「それはそうかもしれないけど、今までそんな雰囲気はなかったぞ。少なくとも学園内では」

麗華さんは、パーフェクトすぎて落ち着かないのは俺だけではないということだろう。

あんまりそういう浮ついた雰囲気はなかったような気がする。



「そりゃ、ちょっと前までの話だろ?」



「え?」

予想外のセリフに聞き返す。

「お前は知らないだろうけどな……。ちょっと前までの剣は、なんというか……無気力だったんだよ。他人に興味がないというか。ただでさえ、あの容姿と才能だからな。どうしたって浮いてしまって……」

「しかモ麗華さん、武勇伝にハ事欠きませんカラ、みんな近づかないようになったんデス」

「今でも、近づきやすいかというと微妙だけど」

「『近づき難イ』と『近づきたくナイ』は、全然違うんデスよねー」

ねー、と仕草を合わせる三村とエリカ。

美男美女のコンビは何をしても絵になるから、若干羨ましい。弱ナンパ風味のせいで、時々三村がイケメンだということを忘れそうになるが。


「今は、『近づき難いけど近づきたい』になったってことか?」

「そういうこと。一体、何があったんだろうなー」

「何があったんデショウねー」

何があったんだろう?

小野と一緒に首を捻る。


まあ、それはともかく。


「やっぱり、睨んできてる気がするな……」

「ま、全然関係ない理由で恨まれている可能性もあるけどな」

あっさりと第2の可能性を提示する三村。


が。

三村のセリフが続く。


「覚えておいた方がいいぞ。これから、たぶん、そういう連中増えていくと思うから」

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