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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
87/336

腕相撲の女神3

最初は全くの互角のように見えた。


「ぐっ……く!」

「は……あっ!」

開始地点から、二人の手は全く動かない。

「や、やっぱりさすがね、剣麗華。とってつけた設定、って言ったのは、取り消すわ」

「河合先輩こそ……。正直、びっくりした」

麗華さんの顔にも余裕がない。

BMP能力の出力自体は拳銃と戦艦の主砲くらいの差があるが、アームレスリングに使っているのは、あくまで『反動を殺すための身体能力強化分』である。

必ず劣化する俺の時よりはましかもしれないが、有利とも思えない。

「はっ!」

さらに気合を入れる麗華さん。

身体能力増強は、あくまで幻想剣の付随作用だからして、パワーを上げようとすると、当然レーヴァテインの炎が大きくなる。

そして、審判である俺は、炎剣レーヴァテインのそばに立っている訳で。


けつろんとして、おれはとてもあつい。



「あんな至近距離でレーヴァテインが燃えてるのに涼しい顔してやがる……」

「何物をも恐れぬ勇気と、それ以上のパートナーへの信頼……。BMPヴァンガードは、力だけじゃ名乗れないのね」

「悠斗君、テラ格好いい……」

そして、勝負と関係ないところで、俺の株が回復していた。


と。


「やるわね。じゃあ、ちょっと本気だそうかしら?」


メリッと音がしたような気がした。

小さくてほっそりした河合先輩の腕が震動したような錯覚を覚える。

「う……あ」

麗華さんがわずかに驚きの声を挙げる。

「はぁああああああ!」

「う……」

自分より一回り小さい河合先輩の裂帛の気合に、額に汗を浮かべながら対抗する麗華さん。

ま、まだ本気じゃなかったのか、河合先輩!?


俺の驚きもそこそこに。


「私は、負けない……!」

呟くような……、あるいは独白するかのような河合先輩の声。


「初めて会った時の貴方のことを、今でも覚えてる。無気力で、どうでもいいようなことで機嫌を悪くして……」

「…………」

「でも、何より許せなかったのは……!」

「!」

「何も欲しがってないような顔をしてたこと! 美少女なのはもちろん、才能も、お金も、家柄も、名誉も、BMPの力も、何もかも持っているからって! ここにあるもの! 何も欲しがっていないような顔をしてたこと!」

「う……!」

苦しそうな麗華さん。

ヤバイ。もう、机がすぐそこだ!


「絶対に負けない! 天才に凡人は勝てない? 違う! 美少女はKTIに勝てない! 神様に選ばれようがなんだろうが、何も欲しがってない人間に私は負けない!」

河合先輩のラストスパート!

もう駄目だ……!


俺は思わず目を閉じた。

が。



「ちょっとだけ違う」



え?

「え?」

勝利を確信していた河合先輩の驚いた声。

麗華さんの手の甲は、机に付かず。

少しずつ。

押し返してきた。


「何かを持ってたなんて思ってなかったけど、確かに何も欲しくはなかった」

「う……!」

「けど」

レーヴァテインの炎がさらに増す。

ほとんど戦闘状態だ。



「今は違う」



「こ……この!」

河合先輩が焦り始める。

二人の手の位置は、開始地点にまで戻って来ていた。

「河合先輩がこの力を手に入れるまで、どれだけのことをしてきたのか、私には分からない。だから、別に私の方が優れているなんて言う気はないの」

「う……動かない……」

「ただ」

「な、なによ!」



「今日は負けない。私は、澄空悠斗のパートナーだから」



「れ……」

麗華さん……。


と。

「上等よ……!」

河合先輩の目に、それまでとは違う光が宿る。

空いた左手で、机の端を掴み。

「そこまで言うなら、私を倒してみなさいっ!」

机だけでなく、空気が震えたような気がした。

いや、震えた。

BMP能力によるプレッシャーが、肌にまで感じられる!



『キャー! 渚先輩ー! 素敵すぎー! まさしく、悪神賜う雷神の槌(サンダートール)ー!』

そして、ディレイドマッスルズの応援が、もう何が何やら!

「腕相撲と雷神の槌と、何の関係が……?」

さらに、どこからかクール美女っぽい声が、余計な突っ込みまで入れる!

イメージ的にオープンフィンガーグローブと眼鏡を装備していそうな声だ!



「ぶっ潰れなさい、剣麗華ぁーーーー! 集積筋力ディレイドマッスル、全開!」

「爆ぜろ炎剣。レーヴァテイン、解放」

河合先輩の闘気に応える麗華さん!

左手に持つ炎剣から、攻撃時にも匹敵する炎が発生する!

その姿は、まさに、紅蓮の片翼を持ちて降臨した漆黒の堕天使(あ、俺も訳わからなくなってきた……)!


「はぁああああああ!」

「はっ!」

裂帛の気合が交錯する。


そして。



☆☆☆☆☆☆☆



◇◆

『アームレスリング』真ラストバトル:○白組・剣麗華-×紅組・河合渚。


※『新月学園体育祭ダメージ無効化結界展開責任者二宮修一の報告書2:アームレスリングについて』


美しい闘いだった。

自分より遥かに強大な相手に立ち向かった少女にも、敢えて不利な闘いから逃げなかった少女にも拍手を送りたい。

まぁ、澄空悠斗の情けなさには若干引いたが。


BMP能力は、ある意味で心の力。

『逃げない』者は、やはり強い。

剣麗華はもちろん、相手の少女もまだまだ強くなる。


しかし、ひとつだけ納得がいかないこともある。

筋力は、やはり男のものだ。


◇◆



☆☆☆☆☆☆☆



アームレスリング……、見事な闘いだった。

今年全国各地で行われている体育祭の中でも、トップクラスに熱い闘いではなかったろうか(※実際、物理的にも熱かった。あと、3分続けられたら火傷してたな)。

もう、あの種目で体育祭終わりにしてもいいくらいのベストバウトだった。


「……」

というか、終わりにして欲しかった。


「…………帰りたい」

普通に思う。

だって、おかしいだろう?

KTIの企みは、俺を負かすことを通じて麗華さんに恥を掻かせることなのに。

俺が単独で恥を掻いている。

麗華さんは、徹頭徹尾格好いいし。


そもそも俺は注目されるのが苦手なんだ。

クラスメイトくらいしか見ていない競技で、地味に2位とか3位とか取って、そこそこ褒められるのを楽しみにしている、無害で健気な小市民なんだ。

何が悲しくて、会場中の視線を浴びながら、あんな熟練したBMP能力を使う先輩達のやつあたりに付き合わなければならないんだ?


「なぁ……」

みんな、と言おうとして気がついた。

麗華さんしか居ない。


「? みんなは?」

「峰の応援に行ったけど」

あれだけの激闘を制したにも関わらず、相変わらず表情の変わらない麗華さん。

昨日は俺に『寂しいも悲しいもないのか?』と聞いてきたけど、麗華さんこそ『嬉しい』はないのだろうか?


いや、それはともかく。

「次って、射撃……?」

射撃である。

明らかに体育祭の種目とは思えないが、とりあえず射撃だ。

まさしく峰のためにあるような競技である。


「って、俺も行くよ応援! なんで、誘ってくれなかったの?」

「落ち込んでるみたいだから、そっとしておこうってみんなが」

「ま、まじで?」

そんなに落ち込んで見えたのか俺?

軽いギャグのつもりだったんだが。

「麗華さんは? 行かないの?」

「悠斗君が行く気になったのなら、一緒に行くけど」

どうも、待っていてくれたらしい。

声かけてくれたら良かったのに。


とりあえず、急いで向かおう。


と。

「聞いていい、悠斗君?」

歩き始めた俺に、麗華さんが声を掛けてきた。


「ん?」

「どうして、悠斗君は落ち込んでいるの?」

「……と申されますと?」

「悠斗君が一時的に負けたけど、最終的に私達が勝った。何人残して勝とうとポイントは変わらないし、落ち込む理由が分からない」

「…………う」

そう来たか。


一緒に暮らし始めてずいぶん経つけど、未だに麗華さんの感性とのギャップは感じる。


「ええと……。じゃあ、ちょっと想像してみて欲しいんだけど」

「?」

「さっきのアームレスリング勝負、俺と麗華さんの役どころが逆だったとしたら、どうだった?」

「? 同じだと思う。誰が残っても、白組の勝ちだったのは変わらないし」

…………駄目か。

本当にそう思ってるのかもしれないし、ひょっとしたら自分が負けるところが想像できないのかもしれない。


しゃあないか、どう見ても負けそうに見えないし。


「……ひょっとして、私。また、余計なことした?」

身長同じくらいなのに、心持ち上目遣いの麗華さん。

「あ、いやいやいやいや! そんなことはない、そんなことない」

そう。そんなことはない。

麗華さんが来てくれてほっとしたし、仇を取ってくれて嬉しかったのも確かだ。


ただ……。


「悠斗君?」

「ん?」

「今の悠斗君の悩みは、私に理解できる悩み?」

「ん……あー」


無理かもしれない。


「どっちかというと、俺個人の問題だから……」

というか、凡人ならではの問題だから。


「そう。それは……残念」

麗華さんはしゅんとしてしまった。

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