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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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腕相撲の女神2

「お、おかしいって何がよ!」

「まだアームレスリングは決着が付いていない」

怯んだ河合先輩に、麗華さんが答える。

「よって白組は負けてない。悠斗君と私も、まだ敗北した訳じゃない」

「何ふざけたことを言ってるの! 確かに全員……」

と、そこで河合先輩の動きが止まった。

何かを考えるような仕草をして。

少しいやらしい感じの笑みを浮かべた。


「そうね。確かにあと一人残っている」

「思い出してくれて嬉しい」

「でも、本当にアームレスリングに出るの? ソードウエポン・剣麗華!」

な!

俺は驚いて体育祭プログラムを見直す。


剣麗華剣麗華。

剣……。


「居た……」

アームレスリングのところに……。

確かに麗華さんの名前がある!


「ごめん、遅くなった」

「麗華さん……」

あ、ちょっと惚れそう。


「ふん。今更出てくるということは、最初はサボるつもりだったんでしょう! あなたの幻想剣イリュージョンソードじゃ、アームレスリングはできないものね! それでもパートナーの窮地に飛び込んで来るなんて、妬けるじゃない!」

俺の時とは桁の違う敵意を向けてくる河合先輩。

でも確かにそうだ。

麗華さんは俺以上にアームレスリングに向いていない。


なのに。


「悠斗君。私は大丈夫」

麗華さんは毅然としていた。



☆☆☆☆☆☆☆



「なあ、峰」

「なんだ、三村?」

「ここで『いや、剣のやつ、騎士戦と棒倒しだけチェックして、どうせ今年の体育祭は出番がないってボーとしてたら、賢崎さんに指摘されて慌てて駆けつけたから今のタイミングで出てきたんだ』って言った方がいいと思う?」

「それは……難しい問題だな。ただ、言いやすいか言いにくいかで考えれば、圧倒的に後者だな」

「そうか、そういう視点で見ればそうだな」

以上、事情解説終わり。



☆☆☆☆☆☆☆



「いや、麗華さん。あの河合先輩、ほんとに強いんだって。出力ならダンチで麗華さんだろうけど、幻想剣じゃ腕相撲は無理だって!」

「ううん。大丈夫、悠斗君。見て」

と。

舞台俳優のような美しい仕草で水平に伸ばされた左腕から。

ゴッ、という音とともに。

炎が生えた。


「…………」

…………。

……って、ちょっと待て!


「れ、麗華さん麗華さんレイカサン! 待った待った待ったー!」


幻想剣の一つ『炎剣レーヴァテイン』なる長大な地獄の炎剣を掲げる麗華さんを、俺は大慌てで羽交い絞めにした。

同時に、ずささー、という感じで周りのみんなが引いて行く。


「ゆ、悠斗君、放して」

放せるかっての!

「いや、無理無理無理。麗華さんこそ、それ消して!」

『麗華さんに幻想剣を使わせたくない体育祭』がテーマだったのに、いきなり失敗した。

しかも、最悪の展開で!



「す、凄ぇ……。レーヴァテイン装備のソードウエポンを丸腰で羽交い絞めしてやがる……」

「さすがは、ウエポンテイマー……」

「悠斗君、テラ格好いい……」

とかなんとか言ってる暇があったら、早く避難してください、皆さん!



「放してってば、悠斗君」

「麗華さんがそれ消すのが先だってば!」

じたばたする麗華さん。

体重は軽いけど、身長が同じくらいなので、意外に抑えにくい。

というか、さっきから腕がぽよぽよ胸に当たっているのに、頬を染めたり恥じらったりという展開が全然ない!

麗華さん、美人度は文句ないけど、ヒロイン度に重大な欠陥があるのではなかろうか?


などとアホなことを考えていると、ぴたりと麗華さんの動きが止まった。

「分かった悠斗君。いきなりでちょっと焦ったけど、私も落ち着くから、悠斗君も落ち着いて」

「お、おう」

同意しつつも、すぐには腕を放さない安全志向な俺。

「心配しなくても、私はレーヴァテインでKTIを消し炭にしようなんて考えてない」

炎剣を左腕で高々と掲げながら言う麗華さん。

そもそも『消し炭』なんて言っている時点で、心配度マックスなんですが。


「なら消そうよ麗華さん。腕相撲にレーヴァテインは要らないだろ?」

「そんなことない。レーヴァテイン使用中は身体能力が向上する」

「…………へ?」

「レーヴァテインは反動が凄いから、そう『設定』して幻創したんだけど。……悠斗君、ひょっとして今まで気付かなかった?」

「…………」

はい。気づきませんでした。

というか、『炎剣レーヴァテイン』を実際に見たのはこれが初めてのような気がする。

とりあえず、俺は麗華さんを放した。


「理屈は分かったけど、そんな付随効果で大丈夫か? さっきも言ったけど、河合先輩、ほんとに強いぞ」

「簡単にはいかないと思うけど……、私も負けるつもりはない」


頼もしい言葉を残して、グラウンド中央の対戦机に向かう麗華さん。


そんな麗華さんの姿を後ろから眺める俺。


正直に言おう。

メチャクチャ迫力がある。

燃え盛る炎剣を片手に美少女がゆらりゆらりと歩いている様は、『結構人が死んでしまう系』映画のクライマックスシーンのようだ。

実際に使うつもりがないのが分かっていても、今の麗華さんと机一つ挟んで対峙するのは相当の度胸がいる。

が。


「ふん。そんな取って付けたような設定で挑もうなんて、ソードウエポン様もやきが回ったかしら」

河合先輩は怯まなかった。

「取って付けたかどうかは、すぐに分かる」

麗華さんも応戦する。

美少女二人の腕相撲対決に、会場(=新月学園運動場)のボルテージは上がって行った。


それはともかく、気がかりなことが一つある。


レフェリーだ。

麗華さんからそれなりに距離を取って観戦できるギャラリーと違って、レフェリーは至近距離に居なければいけない。

そして、会場の構造上、麗華さんがレーヴァテインを持っている側(※そういや麗華さん右利きなのに最初から左手で具現化してたな、気付かなかった)に立つ必要がある。

麗華さんと河合先輩に位置を入れ替えてもらえばいい話ではあるのだが、すでにスタンバっている二人に声を掛けるのは非常に難しそうだし、たとえレーヴァテインを持っていない側で審判できたとしても、やっぱり嫌なものは嫌だろう。

しばらく青い顔で逡巡していたレフェリー(※上級生の女生徒だ)は、突然何かを決意したように顔を上げた。

そして、俺の方に近寄って来て。


「澄空君。あの二人の闘いの審判に相応しいのは、貴方しかいないと思うの」


あ。なんとなく、そんな気がしてました。

今日とても諦めのいい俺は、先輩とハイタッチして、対戦机に向かった。


「と言う訳で俺がレフェリーするけど、いいかな?」

「もちろん。問題ない」

「結構よ。特等席で、愛するパートナーが地べたに這いつくばる様を鑑賞するがいいわ」

『愛する』とか言うな。

ほんとに、この先輩(※ディレイドマッスルズを含む)は、演技過剰である。


何はともあれ、俺は重ねられた二人の手の上に、さらに自分の手を重ねる。

体育祭本部の方を見る。役員の人が腕で大きく丸印。

この二人の対決も、俺が代役レフェリーをするのもOKという意味だろう。


では。



「レディ・ゴー!」

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