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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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新月学園体育祭開幕~敵首領の意外な素顔~

体育祭前夜。とある通話記録。



「け、賢崎社長。申し訳ありません!」

「と、いきなり謝られても……。どうしました、佐藤部長? あ、いえ、佐藤社長?」

「電話をするのは極力避けようと思っていたのですが。賢崎社長……あ、いや、藍華お嬢様に判断してもらわなければどうにもならない案件が! なにとぞお力を!!」

「とは言っても……。社長は佐藤さんなんですから、自由にやっていただいて結構ですよ?」

「いじめないでください、お嬢様! 私にはもう無理です! ここでお嬢様にまで見捨てられれば、胃酸で胃が溶ける前に腹を掻っ捌かなければなりません!!」

「そ、そこまで切羽詰まっていましたか……。では、どうぞ。私に答えられることであれば」

「あ、ありがとうございます! こら、おまえら! 賢崎社長が力を貸してくださる! 泡吹いてないで黙って聞け!」

「…………思った以上に深刻そうですね?」

「お、お恥ずかしい限りです。では、まず。…………(機密事項が混ざっているため公開不可)」

「ああ、それは。…………(機密事項が混ざっているため公開不可)」

「な、なるほど。では。…………(機密事項が多いので公開絶対不可)」

「それなら。…………(機密事項が多いので公開絶対不可)」

「賢崎社長はやはり天才です! では。…………(全部機密なので公開とか論外)」

「ふむ。それなら。…………(全部機密なので公開とか論外)」

「おおおお! これならいける! おまえら! 聞いていたな! とっとと散れ! 働け! これ以上、賢崎社長に無様なところを見せるな! …………(わーっ、と散り散りに去っていく気配がある)」

「……大丈夫ですか?」

「な、なんとかなりそうです。……申し訳ありません、賢崎社……藍華お嬢様。体育祭前夜の大事な時に……」

「おや、ご存知でしたか?」

「もちろんですとも。澄空悠斗君と剣麗華さんの顔出しNGのせいで放送中止にならなければ、明日は全社員で社員食堂集合の予定でした」

「いえ、仕事をしてください」

「まあ、もちろん冗談ですが。それよりお嬢様。澄空悠斗はどうですか? 本家の方では、候補女性の選抜が進んでいるようですが?」

「そうですね、問題ないと思います。潜在能力は文句なし。誠実で真面目な人柄ですし、努力家でもあるようです」

「? 気のせいでしょうか? その割には、お嬢様。不満げなご様子ですが? 何か問題でも?」

「いえ、澄空さんに問題があるわけではないのです。彼はとても強力で優秀なBMPハンターです」

「…………」

「私が少し冷静になって来ただけだという話です」

「お嬢様……」

「世界でたった一人の勇者など存在しない。賢崎の『あの力』はあくまで象徴的なもので、実際に使うようなものではない」

「…………」

「やはり、それが正しいのだと思うようになりました」

「……お嬢様。賢崎本家も、もちろんアドバンテック新月も、いつでもお嬢様のご帰還をお待ちしています。澄空悠斗は優秀なBMPハンター。お嬢様は、BMPハンターを社会的に守る存在。それでいいではありませんか」

「ありがとうございます。思えば、佐藤社長には、本当にご迷惑をおかけしています」

「いえ、そんな」

「明日」

「え?」



「明日の体育祭で、見極めます」



◇◆◇◆◇◆◇



本日、快晴。

絶好の体育祭日和。


体育祭チック(※ボキャ貧ですまぬ)に飾り付けられた新月学園も、どこか普段とは違う印象を受ける。


というか明らかに違う。

普段は、校門前に【五帝】が立ったりしていない。



「こ、こんにちは。二雲先輩」

「今日は【先輩】は結構よ」

新月学園五帝にして、KTI会長。

汎用装甲エンチャント二雲楓先輩は、俺のぎこちない挨拶に険のある声で返した。

この態度の理由も、普段、BMP課程であからさまに避けられている理由も今なら分かる。


麗華さんが美少女で、俺が『その美少女に与する者』だかららしい。


疑うまでもなく、とばっちりである。勘弁してほしい。

だから、俺と麗華さんの登校途中にたまたま会ったせいで、今現在二雲先輩に一緒に絡まれている三村君も、そう迷惑そうな顔しないで欲しい。


「KTI第2則」

「へ?」

「『美少女に挑む時は、必ず宣戦布告をすること』」

「立派な規則だと思います……」

げっそり返答しながらも、俺は微かな違和感を覚えていた。

何かがおかしい。


「我々KTIは、剣麗華を敵性美少女と断定し、今体育祭において、正々堂々種目別ルールに則り、合法的に恥をかかせることを宣言するわ」

「ル、ルールを守ることはいいことですね」

突っ込みどころ満載の二雲先輩のセリフに相槌を打ちながら、俺の中の違和感は増すばかりだった。

まあ、所属団体からして違和感の塊ではあるが、そうではなく。

敵性美少女ということは、味方性美少女もあるのかとかそんなことでもなく。

麗華さんと敵対しているはずなのに、なぜ俺を射殺さんばかりの視線で睨みつけてくるのかが疑問なのでもなく。



「なお、今回に限り第4則『美少女に与する者であれば、本人以外への攻撃も可とする。ただし、細心の注意を払うこと』を適用し、澄空悠斗をターゲットに設定するわ」

「や、やっぱりですか……」


意思の強そうな瞳。


「KTIは体育祭中、この金色の【Kバッジ】を身につけているから判別は容易なはずよ。あなたにとって、この体育祭は紅白チームでの勝敗を競うものではなく【Kバッジ】付きの女生徒との真剣勝負であると知りなさい」

「俺、体育祭とか普通に楽しみにしてる子なんですけど……」


さらさらの髪。


「では、これで失礼するわ。明日以降も、剣麗華ファンクラブなんてものが地上に存在するとは思わないことね」

「って、そんなもん、あったんですか!?」


そして、俺の質問には耳も貸さずにさっそうと去る後ろ姿を見て。



ようやく、違和感の正体に気づいた。



「三村」

「ん? なんだ、澄空?」

「あの人……」

「ん」



「普通に美人じゃないか?」



「……BMP課程で何度も会ってるだろ? 何をいまさら」

「いや、避けられまくってたから、あんまりじっくり顔見る機会がなくて」

「ちらっと見りゃ気づくだろ? 澄空、本当に女嫌いじゃないんだろうな?」

「いやいやいやいや。そんなことはない……じゃなく、そんなことはどうでも良くて……。おかしいだろ!!」

俺は声を上げる。


そう、おかしい。

KTIは、『Kawaikunakutemo Tsuyokereba Iinjanai』の略だ。

つまり、美人が所属していてはおかしいはず!


「じゃあ聞くけど。剣とどっちが美人だ?」

「え?」

と、俺は麗華さんの方を振り向く。

展開に理解が追い付いていないのかポカンとした表情をしているが、それがまた可愛い。

というか、骨格から可愛い。


「いや、さすがに相手が悪過ぎるだろ」

三村に向き直って言う。

「そういうことだろ。二雲先輩にとっては、剣は間違いなく、えーと【敵性美少女】だったか? そういう存在なんだろ。ひょっとしたら、先輩自身、自分が美人だってことに気付いてない可能性があるし」

「んなわけあるか。どう見ても美人だろ」

「だったら、本人に言ってくればどうだ?」

「む。なるほど」

言われて考える。

確かに本人が美人だと認識してくれれば、麗華さんを敵視しないかもしれない。


少し想像してみよう。


◇◆想像◇◆


俺:たったったった。「待ってくれ、KTI会長・二雲楓先輩」

二雲先輩:くるり。「何、BMPヴァンガード・澄空悠斗」

俺:「二雲先輩はとても美人だ。ソードウエポン・剣麗華さんと闘う必要なんてどこにもないんだよ」キラキラ


◇◆想像終わり◇◆


「…………」

凄い光景だ。

「一体どんなプレイボーイだ……。リア充ってやつか?」

「リア充はそんな奇行はしないと思うぞ……」

「確かに、そうだな」

すみません。リア充さん。


いや、それはともかく。


「つまり、どこからが美人かって問題なのか?」

「そうだな。俺なんかはどちらかというと『女の子はみんな魅力的』思考な方なんだが」

と、少し格好いい三村。

「思ったより難しい問題なんだな」

「ああ。おそらくこの闘いは避けられない。相互理解はあまりにも遠い」

三村が悔しそうに言う。

そうやって馬鹿二人で無駄に悲壮感を高めていると。


「ねえ。悠斗君?」

麗華さんが話しかけてきた。

そうだ、肝心な人に話を聞いていなかった。

美人論を語るには、やはり頂点に立つ美少女の意見が必要だ。


「……という訳で、麗華さんの美人論を聞かせて欲しい」

「……美人論は良く分からないけど……。どうして、私と悠斗君は二雲先輩に闘いを挑まれているの? KTIって何?」

「「あ」」

三村とハモる。

そういや、麗華さんには何も言ってなかった。


はっきりとKTIに宣戦布告された今となっては、隠す意味もない。

俺は、麗華さんにカクカクシカジカと説明した。


と。


「悠斗君は、ずるい」

いきなり拗ねられた。

「ず、ずるいって?」

「昨日私が隠し事した時にはたくさんいじめたのに、おかしい」

お、おかしいと言われても……。


「いじめたのか?」

「いじめてない」

何を想像したのか若干顔を赤くしている三村を一言でスルーし、俺は麗華さんに向き直る。

「別に隠していた訳じゃないよ、麗華さん。最近時間が合わなくて、タイミングがなかっただけだ」

「昨日はしっかりお話しできたはず」

「昨日は話題盛りだくさんで……」

そんな会話する暇なかったと思うんですが。


「まあ、それもそうか……」

あっさり納得する麗華さん。

「そんな訳で、どうも俺を負けさせて麗華さんに恥を掻かせるのが今回のKTIの基本戦略らしい」

どこまで効果があるのかは知らないが、麗華さんに迷惑をかける可能性がゼロとはいえない。


「だから、その。その時は……」

「構わない」

「え?」

毅然とした表情で断定する麗華さん。



「恥なんて思わない。悠斗君の闘いは私の闘いでもある」

「麗華さん……」

凄く格好いい麗華さん。



しかし、今回元々『麗華さんの闘い』のはずなのだが、いつの間に『俺の闘い』みたくなっているんだろう?

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