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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
82/336

二人の食卓2

「…………」

「…………」

「……………………」

「……………………」

……超珍しい光景だった。

麗華さんが、顔を青くして、冷や汗を流しながら目線を逸らしている。


な、なんなんだろう?

そんなに負い目を感じるようなことがあったんだろうか?

何はともあれ、麗華さんにこれ以上こんな顔はさせたくない。

気にはなるが、とりあえずこの話はもうやめようか。


「あの、麗華さん……?」

「そ、それは!!」

「へ?」

『次はパスタに挑戦してみようと思うんだけど』と、センスのまるでない会話で強引に話題を変えようとしたのだが、麗華さんがいきなり遮って来た。


テーブルに両手をついてしばらくの間挑むように睨みつけてきたかと思うと。

ふっと力を抜いて椅子に深く腰掛ける。


そして、スプーンを右手に取り、目線の高さまで持ち上げ、見つめながら横になにやらユラユラ揺らす。


そして、それをそのまま皿の上に置く。



「そ、それはね! 悠斗君……!」

「は、はい!」

え? 今の動作、何だったの?

「その……」

「そ、その?」



「悠斗君の! ……か、勘違い?」



「…………」

「…………」

「…………」

「勘違い……」

「は、はぁ」

勘違い……ということらしい。

どの部分を・どのようにして・何と・勘違いしたのかはさっぱり分からないが、麗華さんが勘違いだというなら、俺に異論は特にない。


「そうだな。うん、俺の勘違いだった」


「そ、そんな訳はない!」

「へ?」

「今の会話では、どの部分を・どのようにして・何と・勘違いしたのかがさっぱり分からない! 悠斗君は嘘を吐いている!」

「あ、い、いや……」

自分で言っておいて、何を言っているんだ、この天才少女は!?

とはいえ、美人に怒られたらとりあえず謝るチキンな俺だけど!


「ご、ごめん。麗華さん……」

「あ、謝らないで、悠斗君。自分でも混乱してるの、自分でも分かっている」

セリフにも若干の混乱を見せながら、落ち着け、とばかりに深呼吸をする麗華さん。


2・3回深呼吸して、また椅子に深く腰掛ける。


そして、もう一度深呼吸して、姿勢を正し俺の眼をまっすぐに見据え。


それから、気まずそうに僅かに視線を逸らす。


「お、おじい様に聞いたの……」

「おじい様? 剣首相に?」

「う、うん。日常会話の中で偶然に。おじい様凄く言いにくそうにしてたけど、とても気になったから強引に……ごめんなさい」

「へ、へぇ。そうだったのか……」

と言いながらも、俺の神経は耳ではなく、若干頬を染めながら気まずそうに目線を逸らす麗華さんの姿に釘づけだった。

どうなっているんだろうか、この生命体は? なんでこんなに可愛いんだろう?

とかアホなことを考えていると……。


「悠斗君。怒っている?」

「へ?」

予想外のセリフに、俺は返しができなかった。


「だ、だから……。悠斗君、怒っているの?」

「いや?」

? なんで怒るんだろう?

「え? 嘘?」

「? 嘘じゃないけど?」

「煮えたぎった臓物でモツ鍋は?」

「しませぬ」

今、夏だし。


「そ、それはおかしい」

「お、おかしい?」

「怒らなくていいような話なら、教えてくれてても良かったはず」

「ま、まぁ、俺は構わなかったけど」

「? じゃあ、何がいけなかったの?」



「クリスタルランスのみなさんに迷惑がかかるだろ?」



「クリスタルランス?」

「そ」

ぽかんとした麗華さんの問いに応える俺。


10年前、クリスタルランスは覚醒時衝動を起こした俺の鎮圧・保護を命じられていたはず。

BMP管理局の規則にはまだそれほど詳しくないが、少なくとも虚偽報告はしているはずだし、ひょっとしたらそれ以上に重大な違反もあったかもしれない。

麗華さんのことはもちろん信頼しているが、だからといってわざわざ言うことでもないと思ったのだ。

まあ、一番知られちゃいけないこの国のトップがすでに知っていた(しかも自分からカミングアウトしおった)なら、とりあえず麗華さんに言っても問題はないんだろう。


ということを説明してみた。


すると。


「悠斗君がそんなに多角的に物事を考えていたなんて知らなかった」

「いや、そんなに多角的じゃないよ?」

あえて突っ込む。

と。


「悠斗君のこと、もっと知りたい」

「へ?」

「昔の話。問題がなければ教えて欲しい」

「いや、はっきり言って、普通に超普通だぞ」

「全然問題ない。聞きたい」

そ、そうっすか。


じゃあ、まず10年前首都橋での闘いが終わった後からでも。

「…………」

後からでも……。

…………。


「……悠斗君、どうかした?」

「…………」

俺、あの後、どうしたっけ?

「……」

落ち着いて思い出してみよう。

そもそも、どうして首都橋になんか居たんだろう?

旅行? 買い物?

いや、そもそも。



……俺、どこに住んでたっけ?



「悠斗君? どうかした?」

お、おちつけおちつけ。

中学の頃はもう首都に住んでいたはずだ。

中学の名前も、住んでいたところも思い出せる。

実家じゃなかった。一人暮らしだ。

一人暮らし……?

って。



……俺の両親って、一体いつから居なかったんだろう?



「ゆ、悠斗君? 顔真っ青……。私、また何かまずいこと聞いた? ねえ」

「麗華さん……。落ち着いて聞いてくれ」

「う……うん」

俺以上に取り乱し始めている麗華さんをとりあえず着席させてから、俺は切りだす。



「俺、小学校卒業するまでの記憶がない」



「え?」

「10年前の首都橋での闘いのことだけは思い出せたけど。それ以外が完全に……。なんなんだろ、これ?」

「え? え? え? ええ!?」

立ちあがって眼を見開く麗華さん。


「まいったな、これは……」

いや、まいった。

アイズオブクリムゾンは解けてるらしいし、記憶喪失ネタはもう打ちきりだと思ってたんだけど。

「いや、ほんとにまいった」

「え? え、えと、えと、え?」

今まで見たことがないような可愛らしい腕の動きをしながら、ひたすらうろたえる麗華さん。


「まあそれは置いておいて、とりあえず次はパスタに挑戦してみようと思うんだけど?」

「え? なぜパスタ? なぜ置いておくの?」

眼をきょろきょろさせながらも、超反応で付いてくる麗華さん。

さらっと流そうとしたのだが、さすがだ。


「麗華さん、落ち着いて聞いてくれ」

「う、うん」

と、とりあえず着席させながら俺は続ける。

「この話は三村には言ってはいけない」

「う、うん。絶対に言わない。……でも、なんで三村限定?」

「そんなの」

決まっているだろう。


三村に言えば。


あいつの耳に入れば。


あいつは。



「『てめぇ、記憶喪失とかふざけんな!! 美形主人公の代名詞じゃないか! 認めない。俺は絶対に認めないぞ! 記憶喪失になりたければ、俺を倒してからにしろー!』」

「!!」



「と言うに決まっているからだ」

あいつ最近情緒不安定だからな。

賢崎さんは、俺になんか興味ないって何度も言ってるのにな。

余計な刺激は与えないに限る。

うんうん。


が。


「ゆ、悠斗君。私はあんまり複雑な会話には慣れてなくて……。えと、今はジョークを言ったの? 笑えばいいのかな? えと、真剣な会話だったらごめんなさい。でも、三村が教室で突然訳の分からない癇癪起こすよりも、悠斗君の記憶喪失の方が重大な事件だと思う……」

「あ、ああ」

いかん、麗華さんが本格的に混乱してきた。

さすがに少しトリッキーすぎたか……。


「大丈夫だよ、麗華さん」

「え?」

「明日体育祭が終わったら、上条博士に相談するから。あ、もちろん緋色瞳さんにも」

あまり期待はできないが、現状ではそのくらいしかやることないだろう。

「それは的確な行動だと思うけど……。なんというか、その、大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫大丈夫。今の今まで全然気にならなかったくらいだし」

俺は美形主人公でもなし。


ということで、麗華さんもあんまり気にしないでいいよ、と諭してはみたのだが。


「ん……」

明らかに納得していない。

臥せ目がちにした眼を、時々ちらちらと上げて俺の顔色を伺ってくる。

しかし、今日の麗華さん、可愛いポーズのバーゲンセールみたいだな。

デレ期というやつだろうか?


「いや」

麗華さんは別に普段ツンツンはしていないな。

ツンデレではない。

何と言ってたっけ?

三村が何たらデレと言っていたのだが……。


とかあほなことを考えていると。

「悠斗君」

「ん?」

「悠斗君は、家族がいなかったから、食事時が寂しかったんだよね?」

「ん? ああ」

そんな話を前にしたよね。


「今はもう寂しいとか、辛いとかは、平気になったの?」

「へ?」

何を言っているんだろうか、麗華さんは。

めちゃめちゃ寂しがりだっちゅうの。


「どっちも現在進行形で凄い苦手」

「え?」

「苦手だから」

寂しいも辛いも、もうたくさんだから。


「麗華さんとの食事が楽しいんだろ?」

「!!」



ウサギのような勢いで頭を撥ね上げた麗華さん。

そのまま、そっぽを向いてしまう。

あれ、結構いいセリフを言ったつもりだったんだけど。

まずいな、失敗したか?


「あ、えと、麗華さん……?」

「ゆ、悠斗君はっ!」

「は、はい!」

フォローしようとしたところに声を重ねられて、慌てて返事をする俺。


「悠斗君はLCCを知ってる?」

「? LHC?」

「LCC。ロジックキャンセルキャンセラー」

「??」

『惜しいけど違う』とかいう突っ込みもなしで、淡々と訂正する麗華さん。

しかし、ロジックキャンセルキャンセラー? 早口言葉か?


「概念能力が持つ特性がLC……ロジックキャンセル。他の全ての法則を無視する上位特性。人知の及ばない領域。……そして、ロジックキャンセルを無効化するのがロジックキャンセルキャンセラー。概念能力自体が証明不可能だから、LCCも観測は不可能」

なんだか照れ隠しのように早口で言う麗華さん。

まあゆっくり言われても何言ってるのかさっぱりである自信には事欠かないが。

というか、麗華さんも人のこと言えないくらい会話が飛びまくりだが。

さっきまで、俺の寂しいと辛いの話をしてなかったか?


「第5次首都防衛戦の時の映像を見て、エリカにはあるかなと思ったの。だから、今、個人でこっそりLCCの研究もしてる」

「は、はぁ」

良くわからんが、真剣な表情の麗華さん。

「そ、それでね、悠斗君!」

「は、はい!」

思わず背筋を正してしまう。


「LCC属性持ちの条件なんだけど……」

「う、うん」



「悠斗君にもあるかな、と思うの」




「…………」

「…………」

「……え、えと、それはどうして?」

LCCの意味も、それを持ってるのが凄いのかどうかも分からないが、なんとか話について行こうと返答する健気な俺。


「そ、それは……秘密」

が、麗華さんがあっさり話を切ってしまう。

しかも、顔が赤い。今度は間違いなく赤い。


「な、なぜ?」

「その……なんというか、悠斗君に言うのがとても恥ずかしいの。なんでだろ? 悠斗君、分かる?」

「…………」


分かるかい。


「そっか、悠斗君にも分からないんだ」

と、

「でも」

とても真剣で、しかし少し嬉しそうな声音に、俺の耳は引き寄せられる。



「悠斗君にもあるといいな、LCC。ラプラスの悪魔にも負けない力が」

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