『レオ』との出会い
なんとなく、近くの小さな公園に移動した後。
金髪碧眼なのに、この国の言葉を流暢に話す大学生は、レオと名乗った。
どこかでお会いしたことはなかったらしいが、俺のことは良く知っているらしい。
一応顔出しNGにしているはずの俺のことを良く知っているとなると……。
「ひょっとしてBMP能力者ですか?」
聞いてみる。
というのも、どう見ても『できる男』の雰囲気がぷんぷん漂っているのに、なぜかBMP能力によるプレッシャーを感じないからだ。
「ああ。君ほど有名ではないが、それなりに場数は踏んでいるつもりだ」
あっさり認めるレオ氏。
俺は『プレッシャーが全然ない系』の仲間ができて、若干嬉しい。
しかし。
「レオさんは、どうして『幻想剣手加減攻撃』が感心しないと思うんですか?」
KTIに対する俺のアドバンテージを最大限利用する、なかなかいい作戦だと思うのだが。
「君は、手加減ができるほど熟練者なのか?」
「……っ」
痛いところを突かれた……。
確かに大出力系BMP能力は手加減が難しい。
麗華さん本人でも、ひょっとしたら手こずるかもしれない。
まして俺では、ひょっとすると限界以上の全力を絞り出すより、手加減の方が難易度が高いかもしれない。
ダメージ無効化結界は万能ではない。万が一にでも事故の危険がある以上、やはり幻想剣は使わないほうがいいかもしれない。
「そんなことを言ってるんじゃない」
へ?
「断層剣にしろ炎剣にしろ、高校生レベルでは強力すぎるだろう。使えばそれだけで終わってしまう。それはもったいないとは思わないか?」
「もったいない?」
なんのこっちゃ。
「君が敵対しているKTIという連中。なかなかバラエティに富んだBMP能力を使うようだが、幻想剣なしで彼女らと渡り合えれば、それなりに学ぶものもあるとは思わないか?」
「学ぶもの?」
幻想剣でごり押しするだけじゃない細やかな戦略とか、そういうものだろうか?
と、俺が頭を悩ませていると、レオさんはふっと表情を崩す。
「君は、実際に会って見ると、想像とは印象がずいぶん違うな。とても慎重で合理的だ」
「??」
慎重? 合理的?
『慎重』は『ビビリ』の類義語と考えればまだ分かるが、『合理的』は、俺のイメージとずいぶん違う気がするけど……。
「体育祭で勝つには幻想剣が一番確実だと思ったんだろう? その通りだ。自分や剣麗華が出ることで、BMP結界能力者が増員されるから、事故の危険性も極めて少ないという読みもあるはずだ。そしてそれもおそらく間違ってない。『勝つ』だけなら、君の思考はとても安定して確実だ」
そ、そうなのか?
俺はそんな深いことを考えていたのか……。
「だが、それではもったいない」
「へ?」
「『幻想剣を使えば勝てる』ということは、裏を返せば『幻想剣を使わなければ勝てない』ということだ。君はこう思っていないか? 『BMP値が高いのはどうしようもない。けれど、ぽっと出の自分が先輩方に技術の面でも勝ってしまうことはないはずだし、そんなことがあってはおかしい』と」
「……そ、そんなことは……」
ない……と思うんだけど。
「学べ、澄空悠斗。君の劣化複写は間違いなく最強のBMP能力だ。すべての人間が君の糧となる。幻想剣で蹴散らすだけでは、あまりにも無意味だ」
「…………」
つまり、KTIのBMP能力を片っ端から複写しろ、ということだろうか?
確かに、それは無駄にはならないだろうけど……。
などと考えていると。
レオさんがふいっと身をひるがえした。
何を思ったか、公園唯一の遊具であるブランコの前まで移動する。
「まぁ、『学習』は君だけの専売特許という訳でもないだろうが。この最強の能力をどうにも無駄遣いしているな、人間は?」
言った瞬間。
それまでの好青年っぽい雰囲気は一転。
まったく感じなかったプレッシャーも一転。
まるで、レオさんを中心に暴風が吹き荒れているかのような、猛烈なプレッシャーがばら撒かれる。
な、なんだ、これ!?
と。
「『至高の咆哮』」
ブランコに向かって無造作に突き出された右腕。
その掌から、突風のようなものが噴き出されたような気がした。
衝撃波というか、圧縮された空間の歪みというか……。
だが、それは一瞬。
そして、一瞬後、ブランコは綺麗さっぱり消失していた。
あとには、何もない。まるで最初からブランコなんかなかったかのように、残骸さえ残っていない。
何事もなかったかのように右腕を戻したレオさんは、やはり何事もなかったかのように、すたすたと歩き出す。
「ちょっ! レオさん!」
もう用は済んだ、とばかりに歩き去るレオ氏に向かって叫ぶ。
レオさんは、一度だけ振りかえり。
「餞別だ。このBMP能力も使えるようになってくれると嬉しい」
◇◆◇◆◇◆◇
それから数日が過ぎた。
小野とは挨拶しかしてないし、保健室に行ってないので、ミーシャ先生には会ってすらいない。
だが、賢崎さんとは、授業中以外にも結構会った。
あまり脈絡のない変な場所で会ったり、妙なタイミングで後ろを歩いているのを偶然発見したり、良く分からない状況で良く分からない質問をされて微妙に落胆されたりと、さすがの俺でも『あ、やっぱ、俺にも少しは興味あるのかな』と思うくらいのレベルではあったが。
だんだん興味を失くされてきたらしい。
今日は一度も会わなかった。
それはともかく。
レオさんのアドバイスに従い、幻想剣ではなく、他の能力の研磨に努めた。
特別なことはしていない。幻想剣を使わないだけの普段どおりの訓練だ。
あと、レオさんのBMP能力『至高の咆哮』は複写できなかった。
これで、俺が複写できないBMP能力は6つになった。
内訳は、
怪力無双。
電速。
一騎討ち。
天閃。
アイズオブクリムゾン。
そして、至高の咆哮。
…………。
うむ。見事に系統がバラバラである。
訳が分からない。
再生された俺の記憶を信じるなら、少なくとも、一騎討ちと至高の咆哮以外は、10年前に使ってたはずなんだが……。
なぜ、使えなくなってるんだろ?
あと、レオというBMP能力者について城守さんに聞いてみたが、そんなBMP能力者は居ないし至高の咆哮なんてBMP能力も聞いたことがない、とのことだった。
あれほどのBMP能力者が無名だなんてあり得ないとは思うのだが……。謎な大学生(※くらいに見える男性)である。
まあ、使えない至高の咆哮よりも、今は明日に迫った新月学園体育祭の方が大問題である。
幻影獣との戦闘ではないとはいえ、もちろん手を抜く気などない。
この決戦前夜を有意義に過ごし、明日の英気を養おうと心に決めていた所で。
俺は思った。
料理は火力だと。