情報戦2
~KTI会議『対案提出』~
「『美少女に与する者であれば、本人以外への攻撃も可とする。ただし、細心の注意を払うこと』」
「! だ、第4則……」
「そう来たか」
「澄空悠斗のBMP能力は複写系。あらゆる種目に出る可能性があるわ」
「棒倒しと騎馬戦以外なら、十分に勝機はあるわね」
「で、でもパートナーをやったところで、剣麗華にはそれほどのダメージは……」
「甘いわね。朱音。あの二人が、ただのパートナーだと思っているの?」
「ど、どういうこと、渚ちゃん?」
「あの二人、もう4カ月も同居してるのよ。何かない方がおかしいでしょ?」
「で、でも、それは、澄空君が覚醒時衝動を起こすといけないから……」
「覚醒時衝動なら、澄空悠斗は、BMP管理局籠城戦で完全に克服したらしいじゃない。あれだけの高給取りなら、もうとっくに新しい部屋くらい見つかってるはずよ。探す気があれば」
「あの顔とスタイルだからねー。美少女のくせに無防備そうだし」
「『ビーストイーター』という能力を使えるほどの男よ。草食系なんてありえないわ!」
◇◆
「捕食行動ですがな……」
あまりの超展開に、げっそりする俺。
わざとか本気かは知らないが、この間違いは酷いと思う。
ちなみに捕食行動というのは、四聖獣ガルア・テトラから複写した時空系BMP能力で、召喚した巨大な口に敵を放りこんで、異次元だか亜空間だかに追放するBMP能力だ。
断じて、野獣化(※戦闘的に)したり、野獣化(※恋愛的に)したりする能力ではない。
「ビーストイーター……。うちの国の登録名をつけるとすると、『肉食男子』ってところか?」
「強いのか弱いのか、分かりにくい能力名だな……」
三村と峰が討論している。
「『月狂』とかどうデスか? 狼男っぽくテ、格好いいと思いマス」
エリカが眼をキラキラさせている。
どっちも嫌だ。
そんな名前付けられるくらいなら、草食でいい。
と。
「草食だけでも困りますね……」
賢崎さんが困っている。
結婚カウンセラーか、この人は?
◇◆
~KTI会議『問題点検証』~
「中学が同じだった人は、思い出してみて。以前の剣麗華の様子を」
「……確かに、あれは凄かったわね」
「滅多に学校来なかったけど、来たら来たでメチャクチャ無気力だったし」
「機嫌が悪くなった時は凄かったわね。触れる者皆切り裂くというか、あの子自体が断層剣というか……」
「いくら美少女でも、トリッキー過ぎて誰も近づかなかったものね……」
「今でも、近寄りがたいほどの美少女なのは変わらないけど」
「近づきたくないと、近づけないとでは大違いなのよね」
「剣麗華ファンクラブが出来たとか何とか……」
「!」
「!!」
「!!!」
「し、新月学園で、美少女ファンクラブ……!」
「KTIを嘗めてんのかしら……!」
「リーダー! 即刻、殲滅作戦の決行を!」
「…………後にしなさい。今は、澄空悠斗の話をしてるはずよ」
「だから! 男ができて丸くなった、典型的な症状だって言ってるの!」
「そういえば、この間、学食で……」
「な、何々、朱音?」
「カウンターで剣さんと注文が被っちゃって。最後の料理だったから私が譲ろうとしたんだけど……」
「美少女にご飯を譲るなんて、前田さん、あなたそれでもKTI四天王!?」
「いいから! 先を!」
「う、うん。そしたら、剣さんが『悠斗君のささみチーズフライは確保できたから、いい。私は、うどんを食べる』って譲ってくれたの、ささみチーズフライ」
◇◆
「…………」
みんなの視線が生温かい。
確かに、学食で麗華さんが料理を取りに行ってくれて、ささみチーズフライとうどんを持って帰って来たことはあったが。
それはともかく、KTI四天王ってなんだろう?
◇◆
~KTI会議『議論迷走』~
「つ、剣麗華が料理を譲った……?」
「し、信じられない……。カラドボルグはともかく、フラガラックくらいは『邪魔。どいて』とか言いながら、出てきそうな状況よ!」
「干渉剣は外傷を残さないからって……。なんて女なの」
「だから、出て来なかったんだって……」
「だいぶ躾けられてるわね。さすが、調教の能力者」
◇◆
「調教できるの?」
「調律です……」
分かっているくせに聞いてくる委員長。
KTIは、本気で勘違いしているような気がしてきた。
ちなみに、調律は、今日の授業でもあったように、便利で危険で悩ましい能力だ。
危険で悩ましいのは同じだが、調教とは明らかに別物である。
もちろん、躾けてもない。
◇◆
~KTI会議『信念解放』~
「決まりね。澄空悠斗をやろう」
「雰囲気作りが大事ね。澄空悠斗の敗北=剣麗華の敗北という共通認識を、体育祭までに作り上げるのよ」
「分析班も戦術をしっかり練って。澄空悠斗はキャリアは浅いけど、強敵よ。棒倒しと騎馬戦では、まず歯が立たないわ。それまでの競技で、インパクトのある負け方をさせるのよ」
「救世主様だものね」
「……や、やっぱり、BMPヴァンガードを敵に回すのは、ちょっとまずいんじゃないかな……?」
「相変わらず、分かってないわね。朱音」
「渚ちゃん?」
「美少女を敵に回すということは、即ち、世界を敵に回すということよ! BMPヴァンガードくらいでビビっててどうするの!?」
「おおー!」
「さすがは、KTI四天王!」
◇◆
「…………」
たぶん、違うと思う。
三村は、うんうんとメチャクチャ頷いているが、それはたぶん違うと思う。
小野は、そうなんだ人間って不思議な考え方をするね、とか納得しているが、明らかに違う。
というか、ビビるとかビビらないとかいう話の以前に、俺とか実行委員の人とかの迷惑とかは勘定に入っていないんだろうか?
◇◆
~KTI会議『総決起』~
「私達は、美少女ではないかもしれない!」
「でも、私達にはBMPがある!」
「BMPは、境界を溶かしてなくす心の力!」
「幻影獣と、そして世界と戦うための幻想の刃!」
「美少女に、屈辱と残念を!」
「それ以外の女の子に、栄光とチヤホヤを!」
「魔の弾丸で世間の壁を撃ち貫く!」
「KTI! KTI! KTI!」
「Kawaikunakutemo Tsuyokereba Iinjanai!!」
◇◆
そこで、携帯電話の音声は途絶えた。
「…………」
なんてリズム感だ。
ちょっと、KTIに入りたくなったぞ。
「KTIは、男子禁制だ」
俺のテンションを読んだのか、三村がツッコム。それは、残念。
いや、それはともかく。
「最悪の展開だ……」
俺は頭を抱える。
まさか、KTIの矛先が俺に向くとは。
俺は別に運動が得意な訳でもないが、体育祭はそれなりに楽しみにしている健気で普通の少年なのに。
「そうでしょうか?」
と、異議を挟むのは賢崎さん。
「さきほどの会議で、KTIという人たちが何らかの反社会的な行動を起こす気がないのは分かりました」
と続ける。まぁ、それは確かに俺も納得する。
「ソードウエポンを直接狙うのであれば、彼女のBMP能力からして何らかの事故が起きる可能性がありましたが、澄空さんなら安心です。大出力系BMP能力を使わなければいいんですから」
とさらに続ける。ま、まぁ、それもそうかもしれないけど。
「それに、エリカや賢崎さんをターゲットにするなら俺達も黙ってないけど、澄空なら問題ない」
と言う三村。問題ないかなぁ……。
「ああ。BMPヴァンガードの力を存分に見せてやるといい」
満足げな峰。いや、ちょっと待て。
「俺が負けると麗華さんが恥をかくんだぞ! まずいだろ!」
「それをソードウエポンが気にすると思いますか?」
「え?」
唐突な賢崎さんの一言に、俺の気勢がそがれる。
そういえば……。
「KTIの人たちは、ちょっと勘違いしてるのよ。『美少女』ってところだけが独り歩きして。暴走さえしなければ、好きにやらせてあげるといいんじゃないかしら?」
そしてそれを私が面白おかしく記事にする、と委員長(※マスコミヴァージョン)の眼が告げていた。
しかし、なるほどな。
みんなは、KTIの暴走と麗華さんの手加減ミスを心配していたのか。
確かに、この展開なら、どちらも起きそうにない。
あとは……。
「俺が頑張ればいいだけか……?」
若干、自信なく言った俺の言葉に。
クラスメイツは、大きく(※しかもタイミングを合わせて)頷くのだった。