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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
73/336

緋色先生の個人授業(※女の子ヴァージョン)

「問題なし。もーほんとに、全然、問題なし。絶好調」


放課後。

突然、剣麗華が「BMP中毒症はたぶん治ったと思うけど、念のため診て欲しい」と職員室までやってきたので、エメラルドの瞳を持つ童顔教師は相手をしていた。

もちろん問題などあるはずがない。

ガルア・テトラとの闘いの後、みっちり精密検査はしていたし、あれからもう2週間も経っている。

今頃いきなり『念のため』とか言われても、言葉通りに取ることは難しい。

というか、はっきり言って口実なのは丸分かりだった。


「ところで、麗華さん。悠斗君と喧嘩でもした?」

「? なぜ? そんなことはない」

「でも、今日一日、様子が変だったじゃない? 麗華さんが相手をしてくれないから、悠斗君、陰でしっかり落ち込んでたわよ」

まあ、剣麗華だけが原因でもなかったろうが。

「それは困る。誤解を解かないといけない」

「うーん……。誤解を解く前にやることがあるんじゃないかしら?」

と、眼帯をしていない左目がキュッと細まる。

でも、いつ見ても武骨な眼帯である。もっとファンシーなのにすればいいのに。


と、剣麗華は神妙な顔をして。

「この間のBMP管理局籠城戦の時のことなら、もうちゃんと謝ったと思う」

「え? あ、いや、そうじゃなくてね……」

「違うの? 悠斗君が『緋色先生は、凄く根に持つ上にSだから、一度許してもらったからと言って油断してはいけない。きっと、間隔を開けて、チクチクチクチク嫌味を言ってくるに違いない』と言っていた」

「あのガキャア……」

小学生の外見を持つとはいえ、教師にあるまじきセリフを吐く香。

そして、決心した。

今度街中で、悠斗の腕にしがみ付きながら「ねぇ、お兄ちゃん。今度はどんないい所に連れて行ってくれるの? 私、こんどは縛られたりしないのがいいなぁ」と大声かつ猫撫で声で叫んでやろうと。


まぁ、それはともかく。


「籠城戦の時のことは、もう怒ってないって言ったでしょ? 麗華さんの気持ちは痛いほど分かったし、元はと言えば、私が未熟なのがいけないんだしね」

「でも、結果的に、BMP中毒症を起こして倒れてしまった。悠斗君が覚醒時衝動を起こしたのは私のせい」

「止めたのも貴方でしょ。麗華さんが頑張らなかったら、悠斗君が覚醒時衝動に打ち克つこともなかったと思うわ」

「そう……かな」

自信なさげに俯く麗華。


ちなみに、さきほどの香のセリフは、事情を知る関係者全員の共通認識である。

ただし、麗華以外。

剣麗華だけが、信じ切っていない。



「私は、悠斗君に迷惑ばかりかけている」



ふと、剣麗華の声の調子が変わる。

【アイズオブエメラルド】は、ここからが本題なのだと理解する。


「何か、あった? 麗華さん」

「うん」


そして、彼女は口を開く。


◇◆


話としては、こうだ。


昨日、悠斗と麗華は、BMP管理局の要請でBランク幻影獣『クラブ』と闘った。

意外に防御の固い強敵だったので、初めての連携攻撃を試みた。

……そして、豪快に失敗して、悠斗を殺しそうになってしまった。


「そ、そんなことがあったの……」

香の顎が落ちる。

悠斗と麗華がBランク幻影獣を相手に連携戦闘を行い、その最中に【ナックルウエポン】こと賢崎藍華が参入して、見事Bランク幻影獣を撃退したというのはテレビでやっていたが。

その過程で、悠斗が麗華のカラドボルグに輪切りにされそうになっていたとは、初耳だった。

大人の事情というやつだろう。昨日のゴールデンタイムの放送では、その辺カットされていたのだ。

それでも無理なく番組を構成するあたり、大人のテクニックというやつだろう。


「ま、まぁ、結果オーライということでいいんじゃないかしら。悠斗君も無事だったし、幻影獣は倒したし!」

努めて明るく言う香。

自分の断層剣で悠斗を殺してしまいそうになった時の、麗華の絶望と恐怖は、一瞬とはいえ、想像を絶するものだったに違いない。

そして、BMP能力者の誤射は、ついうっかり、で済ませられるほど軽い問題ではない。

が、それでも、これ以上麗華が自分を責める必要はないと思うのだ。


「まぁ、悠斗君も麗華さんも連携戦闘は初めてだったんでしょ? これから、じっくり合わせていけばいいんじゃないかしら?」

「悠斗君は、連携戦闘の訓練に付き合ってくれるかな?」

「当たり前でしょうが!」

自信なさげな麗華の姿に、若干萌えてしまいそうになる自分を抑えながら、香は言う。

そう。問題などない。

剣麗華は天才だ。できないことなどない。

それは連携戦闘でも同じ。

落ち着いてしっかり、悠斗の動きに合わせれば、ミスなど起こるはずもないのだ。

そして悠斗も、麗華に追い付こうと努力すれば、お互い望ましい成長が……。



「うん。今度は、悠斗君の足を引っ張らないようにする」



…………。

「…………え?」

思わず、聞き返す、香。

「悠斗君『の』? 『が』じゃなくて?」

「? なぜ、悠斗君が、私の足を引っ張るの?」

キョトンとした仕草で、香の顔を見返してくる麗華。


香は、思わず眼帯を取って、アイズオブエメラルドを解放した。


「緋色先生?」

「麗華さん、一つ質問するわ」

深緑の瞳で見据えたまま、口を開く緋色香。


「どうして、昨日の連携戦闘では失敗したの?」


麗華は応える。


「私が悠斗君の動きを誤解したから。悠斗君の闘い方に付いて行けなかったから」


…………。

「…………」

……これは参った。

天才肌の人間は、どちらかというと、これとは逆の誤解をするのだが。

そして、本当の天才は誤解などしないのだが。

本当の天才である剣麗華は誤解している。


三段論法が成立しない理由は、おそらく……。


「急成長した悠斗君の戦闘には、麗華さんでも付いて行くのが大変ということ?」

「うん。悠斗君の成長速度は、ほんとに凄いと思う」

真面目な顔で言う麗華。

そう、確かに澄空悠斗の成長速度と潜在能力は凄い。

が、客観的に見て、少なくとも今の時点では、剣麗華の戦闘能力とでは、大きな差がある。

アイズオブエメラルドがなくても、天才でなくても、誰にでも見えるほどの大きな差だ。



自分で、それから目をそらさない限りは。



「あ、あのね、麗華さん」

緋色教授は語りかける。

誤解の原因となっている感情は、決して悪いものではない。

だからこそ、取り除くのも容易でない。


「なに、緋色先生?」

「連携戦闘を悠斗君とするのは、もう少し後にした方がいいんじゃないかしら?」

「……どうして?」

わずかに暗い顔をする麗華。


「い、いや、麗華さんがいくら天才だとしても、連携戦闘は初めてでしょ? 悠斗君ももちろんそうだし。もう少しうまくなってからの方がいいかなーなんて……」

「別の人と練習して、うまくなってから、悠斗君と練習するということ?」

「そ、そう、そういうこと!」

わずかな胸の痛みを感じながら、それでも言いきる香。


「なるほど。悠斗君以外の人となら、私も全力を出さなくても合わせられる。危険も少ないし、悠斗君の負担も少なくなる。さすがは、緋色先生」

「そ、そうでしょ。そうでしょ。あっはっはっは……!」

「うん。うまくなって、悠斗君をびっくりさせる」

「そうしなさい、そうしなさい。うんうん」


天才であるソードウエポンの微笑ましい決意を聞きながら。


アイズオブエメラルドは、一人、頭を悩ませるのであった。

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