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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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新キャララッシュ3

それは不思議な光景だった。


保健室の前で、あーだこーだとやっていた俺を迎え入れてくれた女性は。

……えーと、何と言うんだろう?

ゴスロリ……じゃなくて、あー。

まるで、これから舞踏会にでも出かけるような……。

黒いイブニングドレス? とか、そんな感じの服を着ていた。


しかも、年配のおばさんではなく、妙齢の美女。

黒いドレスの上から白衣を羽織っているから、保健医さんなのは間違いないと思うのだが(※人の良さそうで無害な、おばさん保健医さんはどこいった、三村!?)。

そんな美女と、保健室の中で向かい合って座っている俺。


疑う余地もなく、異常事態だった。

よし、帰ろう、帰って寝よう。

と、席を立とうとした時。


「で、なにか悩みごと?」

いきなり声をかけられて、驚いた。


「な、なんで悩みごとだと?」

「だって、どう見ても怪我してるようには見えないし。でも、すっきりしない顔しているし」

という保健医さん。

その洞察自体は不思議でもなんでもないのだが……。


「ひょっとして、保健医さんはBMP能力者ですか?」

それも、精神系の。

「あら、どうして」

それは。

「……いや、俺の担任の緋色先生に感じが似てるもんですから」

心の底を見透かすような感覚が。


「ふーん……」

面白がるように、薄く細められる目。

真っ黒のイブニングドレスに浮かぶ真っ白の顔は、意外なことに化粧っけがない。


と、彼女は、すっと立ち上がり。

道標センスレスのミーシャ・ラインアウトです。以後、お見知りおきを」

まるで、貴族の令嬢のように。

豪奢で芝居がかった仕草で、保健医さん……ミーシャ・ラインアウトさんは、自己紹介をした。

「あ、澄空悠斗です。よろしくお願いします!」

席を立って、お時儀をしながら自己紹介をする俺。

……まあ、優雅さの欠片もないことは認めよう。


それはともかく。

「カウンセラーみたいなことができる能力なんですか?」

お互いに席に付きながら、俺は聞く。

「ううん。得意なのは外科。医療系のBMP能力ね」

「おお!」

感嘆する俺。


医療系のBMP能力は、レアだ。

RPGをやったことのある人なら回復役の重要性は嫌になるほど分かっているだろうが、回復のできる能力者は少ない。

ウエポンの属性持ちよりもレアだ。

……ウエポンテイマーほどじゃないけど。


「腕くらいなら付け直せるわよ」

それは、頼もしいです。

「でも、もちろん悩みを聞くことだってできるわよ」

「え?」

「話してみなさいな」


◇◆


俺は話した。


突然、癖のある美少女と美少年が転校してきて面喰っていること。

美少女は、賢崎という凄い一族の人で、俺に何らかの興味を持っているらしいこと。

美少年は、とにかくミステリアスだが、俺に何らかの興味を持っているような気がしないでもないこと。

麗華さんの機嫌が、微妙に悪いこと。

クラスメイトに、意味深な視線や怪しげな視線を向けられている気がして、若干居心地が悪いこと。


そして、話してみて思う。


「気にし過ぎじゃない?」

ですよね。


イベントが立て続けに起きたから(※このファンタジーな保健医さんとの出会いを含めて)混乱してたけど、良く考えるとそんな大したことはないような気がしてきた。

賢崎一族は、BMP能力者に危害を加えるようなことはないらしいし、小野はミステリアスなだけで、害がありそうには見えない。

クラスメイトが俺に悪い感情を持っていないのは、確信しているし。

麗華さんの機嫌が悪いのは気になるが、これ単体なら、単なる日常の喧嘩レベルの話だ。


なんだろう?

話しているうちに、くだらないことで悩んでいた気になって来た。


「漠然とした予感……じゃないかしら」

「え?」

「四聖獣ガルア・テトラを倒して、流されるままだったBMPハンター体験期間も終わり。本格的にこっちの世界に足を踏み込もうとした矢先の、ミステリアスで重要そうな美少女。しかも、立て続けに怪しそうな新キャラが二人も」

その片方が自分だってことは分かっているらしい。

インパクトある外見に反して、なかなかの常識人なのかもしれない。

……ちなみに俺は規定訓練も試験もなしにBMPハンターになってしまった(※城守さんあたりが適当に押し込んだらしい)から、体験期間どころか、未だに自分がBMPハンターという自覚すら乏しかったりする。


「ちょっと不安になっているだけよ。というか、あなたの調書を読ませてもらったけど、少しくらい情緒不安定にならないほうがおかしいくらいよ。特に、ここ数カ月のイベントは」

「そ、そうですよね!」

それまで何不自由なく(※金銭面以外で)一般人を満喫していたのに、突然世界最高のBMP能力値とか言われて、麗華さん達と出会って、教科書でしか見たことがないBランク幻影獣や、挙句の果てに、都市伝説だとばかり思っていたAランク幻影獣と闘って……。

「家に帰って寝ることをお勧めするわ。眠れそうになかったら、お薬も出すけど?」

「いえ、大丈夫です。俺もなんだか、気にし過ぎだった気になって来ました」

なんとなく声が弾む。

ほんの5分足らずの間に、朝から感じていた漠然とした不安が綺麗に消えていた。

カウンセラーって、凄いな!


「そうよ。ほんとに気にしなければいけないのは、最初の一つだけ」

「ですよねー……。って、え?」

最初の一つ?

疑問符を浮かべる俺に、保健医……ミーシャさんは、真剣な表情を見せ。


「賢崎藍華には気をつけなさい」

言った。


「……な、なんで、でしょうか?」

「あの子は、あまり貴方に良い感情を持ってない」

ドレスに白衣と言う、非日常的な格好をした保健医が迫ってくる。

「利害が一致しないと分かると、即座に敵に回る可能性があるわ」

「け、賢崎一族は幻影獣を倒すことが唯一の目標だって聞きました。俺と利害が一致しないなんてことがあるんでしょうか?」

というか、なぜに俺は嫌われているのだろうか?

「仲間割れは、人間の得意技じゃない」

と言って、プイっと背を向けるミーシャさん。


「あ、あの……」


「可能性の話よ。基本的には、賢崎藍華は貴方の味方よ。ただ、貴方は今まで仲間に恵まれ過ぎてた。麗華さんと藍華さんが根本的に違うことを理解しておくことをお勧めするわ」


◇◆


ますます混乱した顔で澄空悠斗が出て行った後の保健室。


「もういいわよ」


カーテンの向こうのベッドに呼びかけるミーシャ。

と、カーテンが開いて、一人の男子生徒が姿を現す。


「隠れる必要はあったのかな?」

小野倉太だった。


「自分で勝手に隠れたんじゃなかった?」

「焦ったんだよ」

若干、小馬鹿にした口調で言ってくるミーシャの前に、当然のように腰を下ろす小野。

「それより、話の続きをしよう」

「なんだったかしら?」

「緋色教授の件だよ」

本当に忘れているらしいミーシャに、別に怒った様子もなく先を促す小野。


「ああ、思い出したわ。なかなか素敵な歓迎をされたみたいね」

「君はこの学園の支配は完璧だと言ってたと思うんだけど? それとも、あれは君の趣味かな。本気で焦ったよ、実際」

「失礼な。私の支配は完璧よ。もちろん、緋色香に対してもね。そして、今更あなたをからかって遊ぶような趣味はないわ」

と言い切られた為に、恐ろしい想像をしてしまう小野。

「……では、あれは……」

「本人が言ったんでしょ。『先生からのドッキリサプライズ』って。可愛い転校生が入って来たから、からかいたくなったんでしょ。別に正体に気づかれた訳じゃないわ」

「恐ろしい人間だ……」

戦慄の表情を浮かべる小野。


「それより、剣麗華の方に気を付けた方がいいわ」

「? 彼女のBMP能力は戦闘系だろう?」

「前回のこと、もう忘れたの?」

「……あぁ、そっか。『アイズオブエメラルドには無理でも』……か」

何やら納得したような顔で、うんうんと頷く小野。


と。


「そういえば、さっきの澄空悠斗との話なんだけど」

「うん?」

「賢崎藍華が危険と言うのは、何?」

「何って、言葉通りの意味だけど?」

「何かの作戦とかじゃなくて?」

「純粋な忠告よ。澄空悠斗にもしものことがあったら、私達も困るでしょう?」

ミーシャが小野に嘘をつくはずがない。

ということは、賢崎藍華は、澄空悠斗にとって危険人物の可能性があるということで間違いないらしい。


「じゃあ、排除しておこうか?」

「ああ。それは駄目。というか、彼女にもしものことがないように注意してなさいな」

「?」

「彼女は、私達にとっても重要な存在よ」

顔中に疑問符を浮かべる小野に応えるミーシャ。


その表情で、小野が気づく。


「ひょっとして、あのBMP能力……、本当に存在するのかい?」

「少なくとも、賢崎藍華本人は使えると自覚してるみたいよ」

「それは……凄いな。このゲーム、勝ちの目が出てきたかな……?」

「どうかしら……。さっきも言ったように、賢崎藍華自身は澄空悠斗の仲間であるとは限らないし……」

と、思案するように言葉を切り。


「にしても……ねぇ。偶然にしては、でき過ぎなのよね」

今度は、年齢不詳の笑みでコロコロ笑う保健医。

「まるで、彼、運命の女神様に溺愛されてるみたい。もしくは、嫌われてるか」

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