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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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新キャララッシュ2

「という訳で、今日からこのクラスに編入してきた【アックスウエポン】小野倉太君です」

何が『という訳で』なのかは全くもって不明だが、緋色先生は言った。

先生の横には、二時限目の休み時間に屋上で会ったばかりの線の細い美少年。

そして、今は四時限目。


『早過ぎだ』と思った。

なにが「近いうちに」だ。めちゃくちゃ直後じゃないか!

と。


「倉太……?」

意外な所から声がかかる。峰だった。

「久しぶりだね、達哉」

小野も答える。

……知り合いか?


「入院中にちょっとな」

俺と同じ疑問を抱いたクラスメイツの視線に応える峰。

そういや、峰はしばらく入院してたんだったな。


「じゃ、みんな何か質問はないかな?」

緋色先生がクラスメイツに問いかける。

? 妙だな? 微妙にテンションが低い気がする。

「その前に、僕から自己紹介をさせてもらってもいいでしょうか?」

「ああ……。それもそうね。どうぞ」

緋色先生が、あっさり譲る。

確かにそれが普通の段取りだろうが、何か違和感がある。


「ご紹介にあずかりました【アックスウエポン】小野倉太です。BMP能力は『引斥自在ストレンジャー』。主に、物体を引きよせたり、引き離したりする能力です」

自然に自己紹介を始める小野。


「BMPは161です」


そのセリフで、クラスにざわめきが起こる。


俺や麗華さんが異常に高いだけで、たいていのBMPハンターはそれほど高いBMP値を持っていない。

いわゆる一流ハンターと言われる人たちの中でも、BMP140以下の人はざらにいる。

かいつまんで言うと。

BMP103:人類の平均

BMP110:BMP能力発動下限。

BMP120:幻影獣に有効な攻撃が加えられる。

BMP130:普通に強い。

BMP140:エリート。

BMP150:超エリート。

BMP160:伝説級。

BMP170:基本的に人類には不可能。

BMP180:異常。

こんな感じだ。

もちろんBMP能力値の高低だけで強さが決まる訳ではないが。


160以上のBMP値の持ち主なら、普通の人なら知っていて当然のはずなのだ。

だが、俺もクラスメイトも、この小野という少年のことを知らない。


「皆さんに馴染みが薄いのは当然です。僕は、つい最近まで能力が制御できなくて、BMP能力者関係の施設で過ごしていました。BMP管理局にハンター登録したのも先月のことです」

クラスメイツの疑問に答える小野。

……麗華さんと同じような境遇か?

「もちろん覚醒時衝動も経験済みなので、心配は要りません」

皆の意識が一斉に俺の方に向いた。

……ような気がした。


しかし、緋色先生が妙に大人しいな。

何か気になるぞ。

と。


「で、ここに来た目的は何なのかしら?」

緋色先生が急に口を挟む。

先生とはいえ、自己紹介の途中で口を挟むのはルール違反なのだが、誰もそれを指摘しなかった。


緋色先生が、ごつい眼帯を外し、深緑の右眼を全開にしていたからだ。


「賢崎一族が悠斗君に接近を始めたのとは逆に、色々と彼に思うところがある人達もいるそうね?」

深い瞳と深い声を出す、先生。

俺は思わず賢崎さんを見る。

……彼女は、浅い笑みを浮かべていた。


え、何これ?

今、シリアスパートだっけ?


「そういう人達がいるのは否定しませんね」

しれっとした顔で言う小野。

「そういう人たちとお友達という可能性は?」

「友達ではありませんね」

「へえ……」

緋色先生の【アイズオブエメラルド】の輝きが、目に見えて強くなったような気がした。


教室内に緊張が走る。


「小野君」

「はい」

「あなた」

「はい」



「実は男の子が好きってことはない?」



はい?


「? 僕は人間……あ、いや、そういう方面には疎いんですが……」

いきなりの超展開に、小野も困惑している。

……というか、これは……。


「えー。このタイミングで美少年系が登場ってことは、絶対ボーイズラブ展開だと思ったのにー」

何を言っているんだ、このこども先生は?


「あ、あの、先生?」

クラス全体が唖然とする中、三村が口を開く。

「い、今の、シリアスっぽい会話は……」

「あー。最近ほら、学園に刺激がなくてみんな退屈してるかなと思って。先生からのドッキリサプライズ」

コロコロと笑いながら言う、緋色先生。

「そ、倉太は?」

峰も聞く。

「いや。……ビックリしたよ」

と答えるところを見ると、どうやら小野も聞いていなかったらしい。


「いや、先生もびっくり。打ち合わせなしで、あれだけ完璧に対応するなんて。一瞬、本当に悠斗君を狙う悪の組織の手先かと思ったわよ」

嬉しそうな、緋色先生。


「と言う訳で、後藤さん」

「は、はい」

返事をしたのは、俺の前の席に座っている女子高生・後藤さん。

なかなかの美人なのだが、両斜め後ろに反則級の美人が二人もいるので、色々と損をしている(※と三村が言っている)気の毒な女性である。

まあ、それはともかく、そんな後藤さんに向けて、緋色先生は言った。



「席開けて。そこに、小野君に座ってもらうから」

無茶苦茶だ。この人、今日は特に無茶苦茶だ。



◇◆◇◆◇◆◇



結局のところ、小野は俺を狙う黒幕の手先でも、男の子が好きな男でもなかった訳だが、それでもかなりミステリアスなクラスメイトには違いなかった。

161という高BMPや、麗華さんと似たような経歴はもちろん、もうとにかく雰囲気がミステリアスだった。

おまけに美少年。

クラスの女の子達が集まるのは当然と言えた。

それ自体は問題ないのだが……。


5回に1回くらいの割合で、俺の方をちらっと見るのが気になる。

仮にもBMP能力者であれば、【BMP187】に興味を持つのはおかしいことではないと思うけど……。

何か、気になる。

これが俺の前の席の話。


そして右隣りは、小野に『賢崎藍華は澄空悠斗に一族の優秀な女性達を紹介するつもり』と与太話を聞いて以来、ますます分かりづらくなった賢崎さん。

左隣は、まだちょっと機嫌が悪い(※んだと思うんだけど、実際のところは良く分からない)麗華さん。



まあ、とにかく、今は教室には、あんまり戻りたくない気分と言う訳だ。

なので、いくらお気に入りのささみチーズフライとはいえ、がっついたのはまずかった。


食堂を出たものの、昼休みが終わるまで、まだあと30分はある。


「うーん……」

どうしよう。

できたら、もう少し時間を潰したい。


と。

「ん?」

【保健室】と書かれたプレートが目に入った。


「保健室か……」

そういえば、これだけデンジャラスな生活を送っているのに、この学園の保健室には入ったことがなかった。

「…………」

ちょっといいことを思いついた。

午後の授業が始まるまで、ここで寝るというのはどうだろう?


別に仮病と言う訳じゃない。

俺は昨日、Bランク幻影獣を激闘のすえ倒した3人組のうちの一人。

しかも、今日は朝から二人も新キャラを迎えて、精神的にちょっと疲れている。

ベッドに空きさえあれば、30分くらい寝かせてもらっても、バチは当たらないはずだ。


わずかな後ろめたさを覚えながらも、保健室の扉に手を掛ける。

「大丈夫……」

保健室の先生は、人の良さそうな年配のおばさんだと三村が(※悔しそうに)言っていた。

きっと、今の俺の微妙な気持ちを踏まえて、ベッドを貸してくれるはず!


俺は意を決して、扉を開いた。


「……!」


そして、閉めた。


「…………」

どうも俺は、自分で思っているよりも疲れているらしい。

あり得ないものが見えてしまった。


「……帰ろうか」

もう今日は帰ろう。

保健室でちょっと寝るよりも、家に帰って明日の朝まで眠りこけたい。

というか、もう一度この扉を開けて、中身を確かめたくない。


「よし、帰ろう」

俺が決心して、踵を返したところで。


「さっきから何をやってるの?」

扉が開いた。

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