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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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幻影戦闘【Bランク幻影獣クラブ】

ナックルウエポンと言うくらいだから、接近戦に強い能力なんだろうな、とは思っていた。

だが、身長こそ高いが、まるでモデルのようにほっそりとした体格からして、まさか怪力無双ドラゴンバスターの臥淵さんのような純粋なパワータイプではないだろう、とも思っていた。


だから、その光景を見た時は、心底驚いた。


「れ、れれれ、麗華さん?」

「うん、良い打撃だと私も思う」

俺の言いたいことを完全に誤解したまま返事をしてくる麗華さん。

だってそうだろう。

高校生くらいの女の子に、全長10メートル近くはある怪物が吹っ飛ばされ、5メートルは先にあったビルに叩きつけられたのだ。


ビルに突っ込んだ頭を引っこ抜きながら咆哮を上げるクラブ。


さきほど大ジャンプを見せた時と同じく、巨体からは信じられないくらい素早い動きで賢崎さんに迫る。

そして、あのハサミでなぎ倒すように横薙ぎを繰り出す。


「あ、危な……」


思わず呻く。

僅かに身を逸らした賢崎さんの身体すれすれを、空間断層ですら防ぐハサミが通り過ぎていく。

そのまま、まるで暴風雨のように二つのハサミを振りまわすクラブ。

対して、賢崎さんのかわし方は、あまりに危なっかしい。


「れ、麗華さん、麗華さん。やばいって、やっぱり。なんとか援護を!」

麗華さんの指示で!

「良く見て、悠斗君。ナックルウエポンは、危なくなんかない」

いや、危ないって、あれ!

どう見ても、ギリギリで!

……ギリギリで?

「ギリギリで……。わざと?」

「あれが、ナックルウエポンの【アイズオブフォアサイト】と【自律機動ブースト】。敵の動きを完全に読み切って、最適化した動きで対処する。一撃が当てられないなら、何度攻撃しても当てることはできない」


賢崎さんの動きそのものは、三村の超加速システムアクセルのように人間離れしたスピードじゃない。

けど、まったく当たらない。

自分の身体より大きいハサミを高速で振りまわすクラブの攻撃を、まるで脚本通りに進行する舞台のような自然な動きで軽やかにかわしていく。


それはまさに舞踏のようで。

状況も忘れて、思わず見入ってしまう俺。


と、鮮やかな舞踏に、わずかに異質な動きが混じる。

それまでの横の動きに対して、縦の動き。

例えるなら、サマーソルトキック。

…………。


「って、サマソ!?」

「うん。いい斬れ味だと思う」

またまた俺の言いたいことを完全に誤解した麗華さんは置いておいて。

賢崎さんは、それまでの流麗な動きから一転、まるで格闘ゲームのような見事なサマーソルトキックを繰り出していた。

格ゲーでも、あんな大技そうそう当たらないが。


そして。



根元から斬り飛ばされたクラブの片方のハサミが宙を舞っていた。



…………マジか?


「悠斗君、準備して」

「え? あ、ああ! 了解!」

ボーとしている場合ではない。確かにこれはチャンスだ!

劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード断層……」

「待って、悠斗君。まだ早い」

「剣……って、まだ?」

「うん、まだ」


言われて見ると、残った右側のハサミの根元に賢崎さんが絡みついていた。


「何を……」


と見ていると、賢崎さんの右肘と右膝がまるで大蛇のように口を広げ。

噛みちぎるように交差した。


断末魔の叫びと共に根元から引きちぎられる、クラブのハサミ。

痛そうっす。敵ながら。

が、賢崎さんはそれでも止まらず、今度はクラブの正面に回り込む。


そして。


気合一閃。

引っこ抜くようなアッパーカットを抜き放った。


高い。

全長10メートルはある怪物が、俺と同い年の女の子のアッパーカットで、ビルの5階くらいまで浮き上がっている。

壮観だった。

というか、非現実的だった。


「悠斗君」

「! りょ、了解!」

呆けている場合ではない。

いまこそ、好機。


幻想剣イリュージョンソード:断層剣カラドボルグ」

劣化複写イレギュラーコピー幻想剣イリュージョンソード:断層剣カラドボルグ!」

二つの声が交差する。


厄介なハサミは既になく、クラブは空中で身動きがとれない。

そして、攻撃力だけなら最高ランクのカラドボルグによる同時攻撃。

これで倒せない訳がない!


俺達二人の初めての同時攻撃は、空間に大きなエックスの文字を描いて、クラブの身体を四つに引き裂いた。



◇◆◇◆◇◆◇



翌朝。

俺は三村にヘッドロックを決められていた。


「どういうことだ、澄空ー!」

おまえがどういうことだ!

どうして、朝の挨拶をした直後に、頭を締めあげられなければならない!


「悠斗さん、凄いデスー!」

俺の頭を締めあげる三村の腕のさらに上から、エリカの胸……もといエリカが抱きついてくる。

この位置関係では、良い感触……もとい良い思いをするのは三村だけで、俺は普通に息苦しい。


「というか、朝っぱらから、なんなんだ!」

「しらばっくれるのか、澄空! 俺がニュースを見ないとでも思ったのか!」

「というカ、ゴールデンタイムに特番が組まれてましタ! 録画しましタ!」

「分かっているか、おまえは! お前と剣が未だに顔出しNGだけど、賢崎さんは顔出ししてしかも凄い美人だったから、視聴者はみんなお前も超二枚目だと思ってるんだよ! 剣は後ろ姿だろうと、輪郭だけだろうと、もうどこからどう見ても美人だと想像するしかないから、おまえもやっぱりハンサムなような気がしてくるんだよ、だんだん! というか、俺も若干ドキッとしたよ格好いいな、お前!」

「デスネ! デスネ! 顔なんか出さなくても、悠斗さん、すっごく格好良かったデスねー」

「顔出さなかったから、格好良いんだよ! 撮影のトリックだ!」

俺の頭を二人で抱えたまま、仲睦まじげに叫び合うエリカと三村。


……なんなんだ、一体?


◇◆


「なぜ今日は、あの三人あんなに仲がいいの?」

「君らがBランク幻影獣を倒したからだろ」

悠斗を中心にクルクル回りながら通学路を歩く不可解な三人組を見ながら、剣麗華は横を歩く峰達哉と話している。

「特別番組が組まれてたの?」

「賢崎グループがメインスポンサーでな。今まで澄空については目立った応援はしてなかったのに、急にどうしたんだか」

「…………」

わずかに顔を曇らせる麗華。


「というか、剣はあんまり嬉しそうじゃないな。Bランク幻影獣を倒したっていうのに。剣くらいになると、Bランクくらい大したことないのか」

「そんなことはない。私もBランク幻影獣を倒したのは、昨日で三体め」

「そっか。奴ら、もともと数が少ないからな」

「私でも、評価されたら嬉しくない訳じゃない。Bランクは厄介な敵が多いから、達成感もある」

「そうなのか?」

「……最近は、だけど」


ふと向けた麗華の視線の先では、ようやくヘッドロックから脱出した悠斗と三村が何やら言い合っている。


「じゃあ、その顔は喜んでいる顔なのか?」

「いくら私が表情に難があるとはいえ、それはない」

言いきる麗華。

「じゃあ、何が気に入らないんだ?」

と問われると、麗華は一息置いて。


「失敗したから。大失敗」

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