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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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アナザーヒロイン

「クラブって名前はどうだろう?」

「うん、いいと思う」

5分ほど走って現場に駆けつけて、初めに俺達が交わした会話だ。


20階建てくらいのビルを、ハサミ状になっている腕で殴り続けている大型幻影獣。

まさしく蟹に見える。

俺のネーミングに麗華さんが賛同してくれたのも当然と言えよう。


いや、そんなことより。


「あのままだと、あのビル崩れる」

「わ、分かってる」

俺の束の間の現実逃避を破る、冷静な麗華さんの声。

周りの人も次々と逃げている最中である。あのビルの中の人達の避難が完了していると考えるのは、希望的観測に過ぎるだろう。


「いくよ、悠斗君」

と、壮麗な剣を実体化させる麗華さん。

…………。

「…………りょ、了解!」

頭の回転の鈍い俺は、3秒遅れくらいで麗華さんの意図を理解して、彼女と同じ剣を実体化させる。


神話や伝説上の剣を、自分なりの解釈で実体化させるのが、麗華さんの幻想剣イリュージョンソード

それを真似ているのが、俺の劣化複写イレギュラーコピー


「周りの人や建物に当てないように気をつけて」

「りょ、了解!」

「……呼吸を合わせて」

「了解!」

二人で【断層剣カラドボルグ】を振りかぶり。


振り下ろす。


空間を切り裂く断層が、エックスを描いてクラブに向かっていく。

カラドボルグは、麗華さんの体調さえ悪くなければ防御不可の攻撃だ。

そして、俺のカラドボルグも威力だけは麗華さんのものに引けを取らない。


当たりさえすれば、Bランク幻影獣でもただでは済まない!


っと思っていたのだが……。


「…………」

「……あ、あれ?」

思わず疑問符を浮かべる俺。


クラブの身体には傷一つ付いていなかった。


俺達の断層剣を防いだのは、クラブがこちらに見せつけるようにしている二本のハサミ。


「あのハサミ……。ひょっとして、めちゃくちゃ固い?」

「最近のBランクは、厄介なのが多い」

面白くなさそうに麗華さん。

……いやいや麗華さん。Bランク幻影獣は昔からボスクラスですよ?


そんなことはともかく。


「正面からじゃ無理。悠斗君、前後から挟み撃ちにしよう」

「りょ、了解!」

「同時攻撃よりも、少しタイミングをずらした方がいい。クラブが向いている側が先に攻撃して、防がれると同時に、逆側が背後から」

「分かった!」

さすが麗華さん。

素早く、かつ、的確な判断力だ。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

麗華さんは天才美少女だが、移動系の能力は使えない。

俺が友人の三村宗一からコピーした超加速システムアクセルで、クラブの後ろに回り込む。


クラブは動きが鋭い訳ではない。


俺の姿をあっさり見失い、仕方がないのでビルを一度激しく殴りつけ、それから麗華さんの方を向いた。

……というか、あのビル大丈夫だろうな。3分の1くらい削り取られてるように見えるんだけど……。


と。

クラブを挟んで反対側の麗華さんから力の高まりを感じる(※ような気がする)。

お互いの距離は100メートルほど。

武器は断層剣カラドボルグでいいらしい。


そして、麗華さんが必殺の断層を放つ。

さきほどと同じく、クラブは避けようとする素振りを見せない。


よし。

あとは、クラブが防御すると同時に……!

…………。


「……え?」


思わず間抜けな声が漏れた。


なぜなら……跳んだ!


さきほどまでの鈍重な動きが嘘のように、20階建のビルの屋上近くまで、クラブが跳躍した!

すげえ!


いや、そんなことより!


「や、やば……!」


クラブが防御しなかったということは、断層剣カラドボルグの攻撃も消滅しなかったということで。

クラブを挟んで麗華さんの反対側には、俺が居る訳で。

そして、何より、俺は防御系のBMP能力をコピーした覚えがない。

このままだと……死ぬ?


じょ、冗談じゃないぞ。

こんな死に方、あり得るか!


カラドボルグで迎撃……いや、今の状態でできるかどうか自信がない。

超加速システムアクセルで後ろか横に回避……無理だ。ちょっと無理だ。

上か下に回避……これしかない!


と言いつつ、最後に二択を残したのが失敗だったかもしれない。

ジャンプしようとして、思いっきりつんのめってしまった。


「ゆ、悠斗君!!」

麗華さんの叫びが聞こえたような気がする。


体勢を崩した俺の眼の前には、無慈悲な空間断層。


今まで麗華さんの近くに居た俺には分かる。

この断層には、万一、なんて絶対にない。

死ぬ。絶対に身体は真っ二つになる。間違いなく死ぬ。


もう回避は不可能。

ほとんど反射的にカラドボルグの実体化を始めているが、間に合うか?

間に合ったとして、相殺できるのか?


……できるのかじゃない。するんだ!

こんなところで死ねるか!


「カラドボ……ぶっ!」


渾身の力を振り絞ろうとした、その時。

俺の身体は、地面に転がされていた。


◇◆


…………最初から、こうすれば良かったんだ。

大地に仰向けに寝転んだ俺の上を、空間断層が通り過ぎていく。

無敵の断層剣も当たらなければ無意味。

ただ寝転がるだけで、かわせたのに……。情けない話だ。


それはともかく。


「大丈夫ですか?」

俺を押し倒した人が声を掛けてくる。

疑うまでもなく命の恩人だ。

しかも、声は女性のものだ。


俺は三村ではないが、それでも何かドラマ的なものを感じずにはいられなかった。


「す、すみません! 大丈夫です! た、助かりました……!」

一拍置いて、恐怖がぶり返してくる。

ほんとに助かった。

この死に方だけはシャレにならない。

いや、どんな死に方だってしたくはないけど!


「それなら、良かったです」

「いや、ほんとに助かりました! あなたは命の恩人です! ほんとに助かり……」

繰り返しお礼を言いながら身体を起こして、命の恩人の顔を見ながらもう一度お礼を言おうとして。

固まった。


見覚えがある。


「け、賢崎……藍華……さん?」

「あら。名前をご存じとは光栄です。澄空悠斗さん」

タイムリーすぎる。

そう思う俺の心中を知ってか知らずか(※もちろん知っている訳がないが)、俺の勝手な想像とはまるで違う穏やかな笑顔でほほ笑む賢崎さん。

眼鏡をしていないせいかもしれない。


「あの幻影獣……。澄空さんには、少し相性が悪いようです」

「は、はい」

相性ではなく、単に実力不足なだけだと思うのだが、とりあえず頷く俺。

「私が隙を作ります。澄空さんは、ソードウエポンと共に攻撃を」

「す、隙を作るって……?」

思わず引き留めようとする俺。

賢崎さんがどんなBMP能力を持っているかは知らないが、あの幻影獣は結構ヤバイ気がする。

「まぁ、ブランク明けの初実戦にしては厄介な相手ですが。なんとかなると思います。でも、危なくなったら助けてくださいね」


ウインク一つ残して、賢崎さんは幻影獣に突進していった。


◇◆


「悠斗君、大丈夫!?」

Bランク幻影獣に突進していく賢崎さんを茫然と見送る俺の前に、青い顔をした麗華さんが駆け寄ってきた。


「あ、ああ。大丈夫」

「ほんとに! 斬れてない!? 切れてない!?」

若干取り乱しているのか、斬れているんじゃないかと疑わしい(※麗華さん的に)箇所を撫でまわしてくる麗華さん。


「だ、大丈夫だから、ほんとに!」

そんな麗華さんをなんとかなだめる俺。

というか、今、麗華さんが撫でた箇所が斬れているのなら、いわゆる一刀両断状態です。

いや、そんなことより。


「麗華さん! それより、あれ! 賢崎さんが一人で幻影獣に! 援護しないと!」

Bランク幻影獣が弱い訳はないのだが、あの【クラブ】は、特別やばい気がする。

全開の【カラドボルグ】を弾くハサミも、あの巨体でジャンプするようなふざけた運動能力も、今までのBランク幻影獣にはなかったものだ。


が。


「ううん、ナックルウエポンなら大丈夫」

「へ?」

「接近戦で『あの能力』に対抗できる幻影獣なんか、ほとんどいない」

と、【認めてはいるが油断できず好きにはなれないが頼りにはなる相手に対する表情】を賢崎さんに向ける麗華さんだった。

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