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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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続・ナックルウエポンの噂

その日の放課後。

俺は麗華さんと二人で下校していた。

峰は賢崎さんの話でさらにやる気を出したのか特訓。エリカは買い物、三村も買い物(※エリカと一緒に行ってるんじゃないだろうな)、緋色先生は普通に仕事(※そもそも一緒に帰ってない)。

なので二人きりだ。

住んでいるところが同じなので最後は必ず二人きりになるのだが、最初から二人で下校するのは珍しい。


二人きりだとやっぱり緊張する。

三村やエリカがいればもちろん、峰でもいてくれれば基本的に話題に困ることはないのだが。

二人きりだと、俺か麗華さんのどちらかが話題を振らなければならない。

悪い意味で普通な俺と、悪い意味で普通でない麗華さんには、なかなかの難題だった。


「悠斗君」

「ん?」

「面白い話をしよう」

……ほらな。


「え、えーと、面白い話……?」

「うん。面白い話。下校時にまで、実用的な話ばかりしても仕方がない」

そ、それは、俺もそう思うけどね。

方向性として面白い話をするのは大賛成だが、「面白い話をしよう」と宣言するのは、いわゆるムチャ振りというのではないだろうか?

基本的に、俺は口下手(※美人相手にはさらに口下手)だというのに……。


あ、でも待てよ。


「賢崎さんの話なんかどうだろう?」

「ナックルウエポンの話?」

「そ、そうそう」

やはり、賢崎さんの称号は【ナックルウエポン】で間違いないらしい。素手で闘うのだろうか?

しかし、女の子なのに【ナックル】とは、ちょっとゴツい感じはするな。

……まあ【ソード】が女の子らしいかと言えば、悩ましいところではあるが。

というか。


「麗華さん。賢崎さんのこと知ってるのか?」

「上条博士の研究所に入る前、何度か会ったことがある。パーティーとかで」

「あ、なるほど」

麗華さんは剣財閥当主の孫娘。賢崎さんは賢崎財閥の次期後継者。

セレブ同士繋がりがあっても別におかしくない。

俺みたいなスーパー庶民と麗華さんに繋がりがある方がおかしいんだ。

……いや、それはともかく。


「どんな人?」

と俺が聞くと、麗華さんは少し考え込んで。

「一言で言うのは、難しい」

「え?」

セリフ自体よりも、その声の調子に少し驚いた。

嫌悪しているという感じではなかったが、友好的とは程遠く。

認めてはいるが油断できない相手と言うか、好きにはなれないが頼りにはなるというか。

どうも、俺の交友関係には存在しないタイプの、ちょっと訳ありの関係らしい。


「悠斗君も会ってみれば、分かる」

「そ、そう?」

俺も健全な男子高校生だから美人に会うのが嫌という訳ではないが。

……やっぱり、できたら会いたくないかもしれない。


「たぶん、向こうから会いに来る」

「え!」

なんですと!

「三村の言うことは、あながち間違いではないから」

言うと、くいっと顔をこちらに向けてくる天才美少女。

身長差がほとんどないから、美少女に見上げられる構図にならないのが唯一の難点だ。でも可愛い。


「つい最近になって対幻影獣に力を入れ始めた剣財閥とは違って、賢崎は元々BMP能力者の支援に積極的だから」

「あ、その話は俺も聞いたことがある。賢崎グループは創業以来、幻影獣から世界を守ることを理念にしてるって」

ソースは三村だ。

「というより、賢崎は元々BMPハンターが本業」

「え?」

「賢崎一族は幻影獣を倒すために存在する。企業経営は、彼らにとって副業。もしくは手段」

淡々と話す麗華さん。

俺も賢崎がBMP能力者の家系ってのは聞いたことがあるけど(※もちろんソースは三村)。

……というか、この話、俺が聞いてもいいものなのか?


「私が知っていることで、悠斗君に教えられないことなんてない」


そういうつもりじゃないと分かっていても、どうしても惚れてしまいそうになる麗華さんのセリフ。

ほんとに惚れたら、麗華さん、責任とってくれるんだろうな?



それはともかく、麗華さんの話をまとめると。

1:BMP能力には遺伝的な要素もあり、代々BMP能力の強い家系というのも存在する。

2:賢崎一族はその中でも特に強力な家系(※ちなみに麗華さんのところは、代々という訳ではなく、麗華さんのお祖父さん……剣首相の奥さんが凄いBMP能力者だったらしい)。

3:賢崎一族は強力なBMP能力者を多数輩出しているが、なかでも多いのが「流れの先を読む」タイプのBMP能力者。

4:その力を生かして経済界で成功し、その富をBMP能力者の支援と対幻影獣に充てている。

ということらしい。



「対幻影獣とは言っても、幻影獣はBMP能力者にしか倒せないから、彼らにとっては強力なBMP能力者はどんな富よりも貴重な宝。普通は適齢時判定が出た段階で、生涯にわたっての支援を申し出てくるはず」

続けて話す麗華さん。

よーし。今日は出血大サービスで、もいっちょ説明行くぞ!



~適齢時判定について~

1:この国に生まれた者は皆「ある年齢」に達するとBMP能力値の検査を受ける。

2:「ある年齢」が決まっていないのは、毎年学会で見直しがされるからだ。ちなみに今年は6歳だったはず。

3:というのも、BMP能力は先天的に素養が決定するにも関わらず、生まれてすぐは観測できないからだ。

4:ちなみに俺も5歳の時にちゃんと受けたと思う。その時は確かBMP103という、この国の平均値まんまの数字だったはず。なのに、今年の4月に再検査した時にはBMP187というとんでもない数字になったのは周知の通りだ。

5:あの時の検査機関がなんらかのミスをしたのか、その後、俺に何か超常的な出来事があって劇的に伸びるはずのないBMP値が増えたのか、あるいは上条博士が極秘裏に開発した非合法の【BMP値を上げちゃうぞ薬品】の投与を受けてしまったのか、は神のみぞ知るところだ。

という感じだ。

それはともかく。



「でも、俺には、賢崎財閥からは今まで何のアプローチもなかったけど?」

「私のせい。……なんだと思う」

無表情で言う麗華さん。

普段から無表情なので、無表情にならないといけない話題なのかそうでないのか分かりにくい。

「えーと……。それは、麗華さんが剣財閥の人だから?」

「そう。おじい様が対幻影獣に力を入れだして以来、剣財閥と賢崎財閥はそれなりに良好な関係を築いているから、気を使ってるんだと思う」

そう言った後に、麗華さんは一呼吸入れて。

「でも、これだけ悠斗君の評判が高まってしまうと、さすがに限界みたい」

と相変わらずの無表情で言った。

その時。

俺の『本質的にはもちろん全然分からないんだけど時々麗華さんの表情の意味が分かるような気がする』スキルが発動したような気がした。

具体的に言うと、麗華さんがなんだか嫌な顔をしたような気がした。

なので聞いた。


「えーと……。俺、何か酷いことされるのかな……?」

「そんなことはない。賢崎はBMP能力者に危害を加えたりはしない。対幻影獣の大義を盾に、BMP能力者の自由や権利を阻害するようなこともしない。せいぜい、悠斗君専用のディテクトアイテムの開発提案をしてくるか、悠斗君の対幻影獣活動全般の資金支援を申し入れてくるか、ライセンス契約を結んでCM出演の依頼をしてくる程度だと思う」

「……」

ちょい待ち!

最後なんか一つ、とんでもないのが混じってましたが!


「ただちょっとだけ気になるのが……」

俺の『麗華さんならともかく俺の顔なんて公共の電波で飛ばしちゃダメだろ』的な心配をよそに、麗華さんは何やら考えている。

「悠斗君の資質を考えると、あり得ない話ではないけど……」

珍しく言いにくそうに、俺の顔を覗き込んでくる麗華さん。

……いや、言いにくそうというか、なんだ、この顔?

こんな表情の麗華さんは、初めてみるぞ?


「麗華さん?」

「うん……。悠斗君。ひょっとしたらなんだけど……」

と、また、一瞬口ごもって。

何か考えるような顔をして。

それから俺の方を向き直って。

もう一度、口を開……。


開こうとしたところで、携帯電話が鳴った。


大して件数の入っていない俺のメモリーの中で、一つだけ着信音の違う登録先。

しかも、同時に麗華さんの携帯電話も鳴っている。

BMP管理局からのエマージェンシーコールだった。


慌てて出る。


「はい、もしもし、澄空ですけど」

「はい、剣です」


『突然すみません、悠斗君! オペレータの志藤です! ご無沙汰してます! 緊急事態です!』

『城守です。いや、困ったことになりました』


「何があったんですか?」

「何があったの?」


『市街地にBランク幻影獣が出現しました! 近くには、悠斗君と麗華さん以外にBMPハンターが居らず、非常に危険な状態です』

『Bランク幻影獣です。下位ハンターでは、犠牲が増えるだけなので下がらせています。なんとか、お二人で喰い止めてください。もちろん退治していただいても結構です』


「び、Bランク幻影獣……!?」

「位置は?」


『今から位置を転送します。すでに応援要請はしていますので、なんとか時間を稼いでください! このままでは、大惨事になります!』

『座標の転送は終わっています。BMP値は345。Bランクとしては高い方ではありませんが、何やら嫌な予感がします。油断はしないでください』


「あ、ええと……。と、とりあえず、向かいます(※見方が分からんっす)! 麗華さんに付いていけば大丈夫ですよね?」

「位置は確認した。悠斗君と足止めに向かう。可能なら撃破する」


『く、くれぐれも無茶はしないでくださいね。いくら悠斗君が凄くても、実戦経験はまだまだ多いとは言えないんですから……。というか、なんで悠斗君にばっかり大変な敵が来るんだろ? 不公平ですよね!』

『そういえば、悠斗君と麗華さんの共同戦闘は初めてですね。どんなコンビネーションを見せてくれるのか楽しみです。仲良く闘ってくださいね』


「そ、そうですね……」

「うん。分かった」


という訳で、俺も麗華さんも電話を切った。

……なんだろう? 良く聞こえなかったけど、同じ会話をしているとは思えないくらい、緊張感というかテンションが違う会話だったような気がする。

まあ、それはともかく。


「行くよ、悠斗君」

颯爽と走り出す麗華さん。

「りょ、了解っす」

やっぱり、格好いいよな。

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