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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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ナックルウエポンの噂

「見てほしいのは、これだ」

と、麗華さんと峰も見守る中、三村が俺の机の上に一冊の雑誌を広げた。

『季刊BMP最前線VOL156・歴代BMP能力値上位100傑特集』だそうだ。

開かれたページの一番上に見覚えのある名前が載っている。


『歴代最強のBMP187。覚醒より半年でBランク幻影獣とAランク幻影獣を撃破した救世主、澄空悠斗』だそうだ。

顔出しNGにしているせいか、上位者は基本的に写真入りなのに、画像部分が「シークレット」になっている。


「三村、いくら俺が田舎者でも、もう雑誌に載ったくらいじゃ感動しないぞ」

最初はしまくってたけど。

「俺だって、おまえが雑誌に載ったからって、騒がないよ」

と、三村は女性側の上位者を見るように促してきた。


女性側の1位は……、麗華さんだよな、やっぱり。

『BMPは歴代2位の172。人類には不可能と言われたBMP170の壁を初めて破った女性。超人的な戦闘能力のみならず、BMP研究の分野でもすでに数々の功績を上げている才女。最近では澄空悠斗のパートナーとして共に闘っており、彼にとってなくてはならない存在となっている』だそうだ。

そして、顔写真は俺と同じシークレット。

こういう風に顔を隠すと『実はすんごい美形なんじゃないか?』という噂はたつが実際にはそこまででもなくて、本人結構悩むが、実際麗華さんはすんごいどころでない美形という、俺達の顔写真を一緒に載せれば、何も悪いことはしてないのに、なぜか俺だけいたたまれなくなるという……。

ええい! 不公平な!


「澄空? 何を難しい顔をしてるんだ?」

どんな顔をしていたのか、峰に心配されてしまった。

「俺には分かる。その愚痴は後でたっぷり聞いてやるから、とにかく先読め」

そして、三村が兄貴モードを発動しつつ『頼むからこれ以上脱線するな』光線を発している。


「なんだか照れる」

意外な一言を言うのは麗華さん。しかも、なんだか嬉しそうだ。

「でも、この文章、まるで麗華さんが俺のサポートをしているみたいに書いてるぞ」

俺は少し憤慨している。実際には、どうやったら麗華さんの足を引っ張らずに済むのか、自問自答している毎日だというのに!

「私が悠斗君のサポートすると、まずいの?」

心底不思議そうに聞かれた。

「い、いや。これじゃ、まるで麗華さんが脇役みたいじゃないか?」

「? 別に構わない。悠斗君の役に立っているのなら、嬉しい」

「…………」

やばい。たぶん、俺、顔真っ赤だ。


と、思わず顔をそらした俺の顔の前に、なぜかカメラがあった。

「?」

そして、三枚ほど撮られた。


「いー表情の提供、どーも♪」

とてもいい笑顔でカメラを構えているのは、俺のクラスの委員長、新條文(※新聞記者バージョン)だった。

「頼む、今のは載せないでくれ」

「大丈夫、すぐには載せないから」

いずれ、載せんのか!

「ネタに詰まったらね。さっきの顔を載せられるのが嫌なら、せっせと活躍すること」

普段の真面目ぶりが嘘のように、恐ろしい裏取引を持ちかけてくる委員長マスコミヴァージョン


と。

「どんな写真が撮れたんデスか?」

金髪の美少女が、委員長のデジカメを覗き込んでいる!

「アラ、悠斗さん、こんな顔するんデスね」

「え、エリカ! なんで!?」

思わず、俺は叫んだ。



ここで少し説明しておこう。

ここ新月学園はBMP能力者育成機関として名高い高校ではあるが、生徒全員がBMP能力者ではない。もちろん能力者ではなくても、対幻影獣関係の仕事に就く者が多いが。

そして、俺のクラス「1-C」は、別に全員がBMP能力者という訳ではなかった。

BMP能力者は、1日か2日に1回集まって、BMP課程を受けるが、それ以外はばらばらにクラスに配置されている。

そして、クラス分けを決めるのは純粋に学力だった。

エリカも非常に優秀ではあるが、学年2位のクラスなので、学年1位の1-Cとはクラスが違うのだ。

というか、BMP能力者のくせに、頭までいいという麗華さんや、峰や、三村(※こいつが一番意外だが)の方が異常なのだ。

え、俺? 俺は大丈夫、このクラスにいるけど頭は悪いし、実際に成績も悪いから。

以上、説明終わり。



「三村さんが、走って行くのガ見えましたのデ。興味があったので、やって来ましタ!」

全く含む所のない微笑みで言うエリカ。

美人でスタイル良くて金髪で性格に裏表がない。この娘はこの娘で凄いキャラだと思う。

……麗華さんが凄過ぎるだけで。


「い・い・か・ら・さ・き・よ・め!」

「りょ、了解っす!」

やばい、三村がそろそろ限界だ。

10個の目が見つめる中、俺は女性側の2位の人を見る。


女性側2位(※男性も含めると3位)は、緋色瞳。

BMPチーム『クリスタルランス』リーダーにして、最強の支配系能力『アイズオブクリムゾン』を使う、うちの担任のお姉さんだ。

BMPは、168。

この人は、顔写真を載せている。

麗華さんと同じくらいの美形に加えて、なんと両目が深紅だ。これが素顔だということは俺が良く知っているが、この人が載っていると、高BMP能力者ってほんとに実在の人物なのか怪しくなってくるな(※と自分のことを棚に上げて言ってみる)。

ああ、それから、2位はもう一人いた。

緋色瞳さんと並んで歴代3位のBMP168を持つ女性。


「賢崎、藍華さんか……」


まず、美人だ。

このページを見る限り、高BMP能力者はどう言う訳か美形が多い(※俺除く)ようだが、この賢崎藍華さんは緋色瞳さんと並んで別格だった。

どれくらい別格かと言うと、麗華さんと同じくらい美形の緋色瞳さんと同じくらい美形なので、最終的に麗華さんと同じくらい美形なのだ。

眼鏡が凄い良く似合っている。『知的な美人』としか、俺のボキャブラリーでは表現のしようがない。

しかも、俺達と同い年だったりする。恐ろしい。

まあ、それはともかく。

問題は、文章の方だった。


『BMPは緋色瞳と並んで歴代3位の168。近年は経営者として賢崎グループ内の不採算部門を軌道に乗せ続けてきたが、近いうちにBMPハンターとして復帰予定?』


世相に疎い俺だが、この人のことは知っている。

剣財閥と同格の賢崎財閥の正統後継者にして、歴代3位のBMP能力値を誇る女性。

賢崎はそもそも優秀なBMPハンターの家系でもあるから、この人も強力なBMP能力があるのは間違いないらしいが、それ以上に頭脳の方が凄いらしい。

小学生くらいの時に海外の超難関大学を卒業し、この文章にもある通り、俺達と同い年でありながら、どんなコンサルでも立て直せなかった賢崎グループ内の不採算部門を次々軌道に載せているとか。

要するに社長さんなのだ。それも超やり手の。


「どうだ、澄空?」

「あ、ああ、驚いた」

「だろ。そろそろ、あの賢崎グループを継ごうかって御令嬢様が、なんで今更BMPハンターに復帰するんだろうな?」

「い、いや、でも、『?』って付いているし、本人がそう言っている訳じゃないんだろ?」

この『季刊BMP』は誤ネタを載せないことで有名な雑誌ではあるのだが。


「あ、デモ、この話、本当らしいデスよ?」


意外な所からの意外な発言。

みんな、一斉にエリカを見た。


「犬神さんが『これ、すんごい極秘情報なんやけどな。近々、あのナックルウエポンが復帰するらしいで。いやービックリやなー。悠斗君に刺激を受けたんやろうか? あ、もちろん、この話は秘密な。エリカはんが国家機密並みに可愛いから教えたんやでー』と言ってましタ」

「…………」

何をやってるんだ、クリスタルランスは?

そして、この国の情報管理は本当に大丈夫なのだろうか?

あ、ちなみに、犬神さんというのは、最強BMPチーム・クリスタルランスのメンバーで、BMP能力・電速パルスを使う猫みたいな目が印象的な女性だ。フルネームは犬神彰。


「……ほ、ほら見ろ! クリスタルランスが言うんだから間違いないだろ!?」

と言いながらも、なぜか顔が引きつっている三村。

犬神さんの名前を聞いた途端だな。どうしたんだろう? 三村は三村なりに、何か俺のうかがい知れないドラマでも抱えているんだろうか?


「でも、三村。ナックルウエポンが戻ってくるのは大ニュースかもしれないけど、どうして三村がそんなに興奮するの?」

と至極もっともなことを言うのは麗華さん。

あ、ちなみにナックルウエポンと言うのは賢崎藍華さんの称号だ(※と思う、たぶん)。

「なに言ってんだ剣。ここをどこだと思ってんだ? 天下のBMP能力者養成高校【新月学園】だぜ。しかも、賢崎藍華さんは俺達と同い年。ここに転入してくる可能性は大いにあるだろ?」

と言う三村。

いや、しかし。

「賢崎藍華さんって、もう大学出てるんだろ? 復帰するにしても、もっと本格的な訓練機関に通えばいいんじゃないか?」

と俺は言ってみる。

確かに新月学園は、BMP能力者養成高校としては最高峰だが、あくまで高校だ。

BMP能力の訓練をするだけであれば、もっといい場所は他にある。


と。

「どうしたんだ、澄空? 今日に限って、なんでそんなまともな意見を言うんだ?」

驚いた顔の三村。

失礼な男だ。とっても失礼な男だ。

「これだけの才色兼備美少女が自分と同じ高校に転入してくるかもしれない可能性があるのなら、少々の設定の無理には目をつぶるのが男だろう! それともおまえは、剣さえいれば、他の世界中の美少女がいなくなってもいいとでも言うのか!」

「む……」

無茶苦茶だ。今日の三村は、なんだかとっても無茶苦茶だ。


「ま、分からないでもないけどな」

「え……」

峰が意外にも口を挟んでくる。

「強者と共に学ぶことは、とても意義のあることだ。特に俺たちみたいな成長途中の若者にとってはな。容姿端麗というのも、悪いことじゃない。少なくとも三村みたいな連中はさらにやる気をだすだろう」

……おまえは、一体何歳だ?


「同い年で、しかも同性の高BMP能力者と友達になれるなんテ、私ももちろん嬉しいデス。麗華さんだって、そうデスよね」

「うん。否定する理由はない」

エリカと麗華さんも肯定したっす。

というか、俺だって別に嫌だと言っている訳じゃないんだけど……。



「というかさ。澄空って、ひょっとして女嫌いなのか?」



「ぶっ!」

唐突な三村のセリフに、吹いた。

「な、何言ってんだ、お前は!? 健全な男子高校生が、そんな漫画やアニメみたいな設定を持ってるわけないだろ!」

持っているわけがないとも!

「と言ってもな……。剣にはなんとか慣れてきたみたいだけど、俺、おまえが剣やエリカ以外の女子と話してるのあんまり見たことないぞ」

「ぐっ」

そ、そんなことないと思うぞ、たぶん。

た、たまたま麗華さんと話す機会が多いだけで。

「だいたい、おまえはAランク幻影獣を倒した救世主様なんだからな。BMP能力者の守護者を自称してる賢崎の後継者様が、おまえ目当てに転入してくる、くらいの妄想しても誰もおかしいとは思わないぞ」

「それが、一番、困るんだよ……」

と、言ってから、しまったと思った。

みんなキョトンとした目で俺を見ている。

ちなみに、みんなというのは三村達5人だけじゃない。

クラスメイト全員に注目されてる!


「澄空君……やはり」

委員長マスコミヴァージョンがメモを取り始める。

ヤバイ。これはなんだかとってもヤバイ。

「ち……違うんだ、委員長。俺は別に女子が苦手な訳じゃない」

「? 別に私は何も言ってませんけど?」

と首を傾げながら『もっと頑張って言い訳しないと、既成事実として季報・新月に載せちゃうよー。あ、既成事実というのはヤオイということね、もちろん』オーラを発している委員長マスコミヴァージョン

「た、確かに、美人は少し苦手ではあるけど、基本的には普通だ、ほんとだ」

と言ってから、またしまったと思った。

俺は何を言ってるんだ?


これは、麗華さんが苦手、と言っているに等しいではないか!


「悠斗君は、美人が苦手なの?」

と麗華さんが聞いてくる。

麗華さんが俺なんかのことで怒るとは思えないけど、もともと表情が読みにくい人だから、怒ってるのかいないのかさっぱり分からん。

「ち、違うぞ、麗華さん。ほ、ほら、麗華さんはもちろん、緋色瞳さんや茜島光さんみたいな美人とも普通に話してたろ? 全然、そんなことないよ」

茜島光さんは、クリスタルランスのメンバーだ!

「た、ただ、こういうクール系というか冷徹……は言葉が悪いな。えーと、そ、そう、厳しそうな美人さんはちょっとだけ苦手というか……。ほ、ほら、俺は三村みたいに『美人に踏まれて感じる属性』とかないから……」

「なぜ、そこで俺を引き合いに出す」

とツッコム三村。そんなもん、もう他にどうしようもないからに決まってるだろ!


「ふーむ。まあ、言っていることは分かりました」

と、しっかりメモを取りながらも、一応引き下がってくれる委員長。

クラスメイトもなんとか納得してくれている(※と見せかけて、たぶん俺に気を使ってくれている)。


「最強のBMPヴァンガードも、女性には勝てないか」

「なんカ、いいですネ、こういうノ」

妙に暢気な峰とエリカの会話を聞きながら。


俺は、もう一度、さっきのページに目を戻した。

賢崎藍華さんの顔写真をもう一度見る。

大丈夫だ。こんなハイスペックあんどハイソサエティな美少女がクラスメイトになるなんてこと、一生で二回もあるはずがない。

全部、三村の単なる願望だ。


と。

「ん?」

思ってたんだけど。


「この顔……」


見覚えがある。

基本的に人の顔を覚えるのが苦手な俺の脳裏にも、一度見ただけで焼きついてしまった美顔。

眼鏡のせいで、気がつかなかったのは、いかにも俺らしいが。

この人……。


昨日、帰り道で会った人じゃないのか?

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