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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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新たな予感

剣首相と別れた帰り道。

カレーを待つ麗華さん……。失礼、俺がカレーを作って二人で喰う約束をしている麗華さんが待つ家路に急ぐ俺。


「にしても、俺と麗華さんができているねぇ……」

思わず呟く。

まぁ、覚醒時衝動を今度こそ完全に乗り切ったんだから、俺の覚醒時衝動対策で一緒に住んでくれていた麗華さんとこれ以上一緒に住む必要は全くなく、今でも同居を続けているというのは誤解を生む素地ではある。

「でも、新居が見つからないんだよなー」

探しているのは俺である。

麗華さんの新居を探すのであればともかく、もともと屋根さえあればいいような俺がそうそう部屋を選り好みする訳もなく。

すぐ決まると思ってたんだけど。

なぜか見つからない。

契約寸前までいって断られたケースも何度かあったし、最近では不動産屋に入った途端に、なぜか店側が『お断りモード』に入っている気すらする。


まるで、何らかの国家権力が俺の家探しを拒んでいるかのように!


「……アホか」

と一連の思考を踏まえたうえで結論を出した俺は、改めて家路を急ぐ。


と。


「あれ……」

背筋にわずかな違和感を感じた。

が、不快なものじゃない。

これは……。

「BMP能力者のプレッシャー……?」

久々に感じる。



と、ここで少し補足説明を。

BMP能力者のプレッシャーは、基本的に能力が高ければ高いほど大きいが(※例外俺)、自分の意思で他人に与える影響を抑えることができる。

ちなみに麗華さんクラスになると、抑えないと新月学園がまともに運営できないくらいのプレッシャーをまき散らす(※『ホテル・ヒルトン』にて実証済み)から侮れない。

まあ、それはともかく。

麗華さんクラスでなくても、BMP能力者であれば誰もがそれなりにプレッシャーを与える(※例外俺)ものである。

BMP能力者でない人には、それほど大きくないプレッシャーでも不安に感じる人はいる。

だが、このプレッシャーというやつ、実は慣れることができるのだ。

BMP能力者によらないプレッシャーと同じで、何度も接していると次第に気にならなくなってくるらしい(※例外麗華さん)。

人間の適応能力は素晴らしい。

以上説明終わり。ああ疲れた。



いや、疲れたじゃなかった。

要するに、このプレッシャーの持ち主は、今まであんまり会ったことがない人だということだ。

「…………」

それだけなら別に珍しいことではない。

が、このプレッシャーの持ち主……。


と、曲がり角から『その人』が姿を現した。


「ボクサー?」

というのが俺の第一印象だった。

かなりのスピードでランニングをしているその人は、ボクサーが来ているようなウエットスーツを着ていたからだ。

両手には、総合格闘技の選手がしているような指を露出するタイプのグローブ。

フードのせいで顔は見えないが、ウエットスーツの上からでも引き締まった身体をしているのが分かる。

ただ。


「女性?」

グローブから覗く白くほっそりした指と、胸のあたりの膨らみがそれを物語っている。

まあ女性ボクサーだろうと、ダイエット中のモデルさんだろうと別に構わないのだが、このプレッシャーだけはやはり気になる。

抑えてはいるが、まるで突き刺すような鋭いプレッシャー。

麗華さんとはまた違ったタイプ。


「強い……よな」

すれ違いざま、思わず呟いてしまう俺。

別に語りかけた訳じゃなかった。

けど。


「え?」

彼女には聞こえたようで、顔をこちらに向けてきた。

フードの中の顔が露わになる。

「え!?」

そして、今度は俺が驚いた。


なぜなら。



物凄い美人だったからだ。



◇◆◇◆◇◆◇



「というようなことがあったんだ」


というようなことがあった翌日。

俺は、麗華さん、エリカ、三村と四人で登校していた。


「それデそれデ! それから、どうしたんデスか!?」

エリカは、謎の美人との遭遇について、早速喰いついてきた。

基本どんなことでも真剣に聞いてくれる、見た目ゴージャスなのに健気なハーフ少女なのだが、俺のつたない話でもやっぱり真剣に聞いてくれる。

なんとなく予想通りの良い子だって? うん、俺もそう思う。


「いや、そのまま普通に走り去って行った」

「そデスか……。でも気になりマスよね、麗華さん」

「うん。悠斗君が強いって感じるくらいだから、たぶん相当に強いんだと思う」

エリカの問いに応えるのは麗華さん。

いつもと同じで、特に喰いついてくるという訳ではないが、つまらなそうにもしていない。

というか、俺は麗華さんがつまらなそうな顔をしている所を見たことがない。

え、予想外だって? うん、俺もそう思う。


で、三村は……。


「安心したぞ、澄空」

「は?」

いきなりの唐突なセリフに思わず疑問符を浮かべる俺。

「おまえの美女遭遇率の高さには今更文句を言うつもりはないが、その美人とフラグ的だったり運命的だったりする恋愛イベントを起こさなかったことは良かった。俺はてっきり、その美人が実はお前と結婚を約束した幼馴染とかじゃないだろうかと気が気じゃなかったんだ」

「…………」

いかん。また、三村の脳に何かが沸いている。


「大丈夫だ、俺には幼馴染とかいないから」

たぶん。

「血の繋がってない妹は!」

「い、いない」

と思う。

「分かるもんか! げんに、お前の姉になりたがっている遠距離攻撃系最強の美女がいるじゃないか! 俺は、お前とクリスタルランスの関係について、まだ疑ってるんだからな!」

「ぐ」

疑わしいどころか完全に黒なのだが、それを言う訳にもいかない。

俺自身がどう思っているかはともかく、10年前の緋色瞳さんの行動は完全に違反行為だからな。

いくら三村達が相手でも、うかつに話すとクリスタルランスの皆に迷惑がかかる可能性がある。


「と、とにかく大丈夫だ。昨日の美女は本当に知らない人だったから」

「昨日まで知らない人でも、これから恋愛イベントを起こすかもしれないだろ!」

どうしろと言うんだ?


「そんなの決まってるだろ! これ以上、ピンク色のイベントを起こさないでくれ。俺は、クラスメイトが三角関係を作っているのを見ると、喘息を起こす体質なんだ」


病院行け。



◇◆◇◆◇◆◇



「大ニュースだ! 澄空!」


1限目の休み時間。

自販機にコーヒーを買いに行ったはずの三村が、教室に飛び込んできた。

だが、俺は驚かない。


「分かってる、三村。ついに新月の学食にささみチーズフライが復活するという話だろう?」

喜ぶべきことだ。

週一で、学園に投書をし続けたかいがあった。


「誰が、ささみチーズフライの話をしてるんだよ!」

「違うのか……?」

衝撃の事実だった。

「なら悪いけど、俺抜きで大いに盛り上がってくれ。俺は今忙しい」

学食に行くのを昼休みまで待つか、2時限目の休み時間に行ってしまうかで悩まなければならない。

「何が忙しいんだよ?」

「昼休みまで待った方が、適度に腹が減ってささみチーズフライを楽しめるのは間違いないが、売り切れてしまう可能性が否定できない。かといって、腹の減っていない2時限目の休み時間に行くというのも、ささみチーズフライに対して不誠実ではないだろうか?」

「…………?」

三村が「いかん。今のこいつとはまったく話が通じない」といった顔をしているが、気にしない。


「とにかく、聞いてくれ。おまえに一番関係のある話なんだよ」

「嫌だ」

俺は珍しく意固地になって、ぷいと横を向いた。

なぜなら、ささみチーズフライの付け合わせを考えなければならない。

「俺的定番のソースかつ丼と組み合わせるのもありだが、よりささみチーズフライを味わうために白米のみというのもありだし、ヘルシーにサラダバーと組み合わせるのもささみチーズフライの味を引き立てるかもしれない」

「分かった。昼休みに俺も一緒にささみチーズフライを食いに行こうじゃないか」

「え?」

言って三村は俺の席を離れる。

峰の席に近づいていって何事かを話し、ちょうど教室に帰って来た麗華さんも捕まえて、俺の席に戻ってきた。


「峰と剣も一緒にささみチーズフライを食べに言ってもいいと言ってる」

「み、三村……」

「あとでエリカも誘っておく。だから、今はとりあえず俺の話を聞いてくれ」

「わ、分かった」

俺は感動していた。

そして、麗華さんと峰は普通にキョトンとしていた。

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