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BMP187  作者: ST
第三章『パンドラブレイカー』
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おじい様とのナイショの話

ここは、この国のトップの居城、首相官邸である。


その最奥、首相の執務室内で、一人の客人を迎えているのが剣首相。

そして、その客人というのが、この俺、澄空悠斗である。

一般人偏差値49くらい一般人な俺がこの国のトップと一対一で面談しているというのは、もう超常現象と言っていいのではないだろうか?


「すまんな、澄空君。若者の貴重な時間を年寄りのわがままで浪費させてしまって」

「いえ、とんでもないです……」

剣首相の時間の方が、100万倍貴重だと思います。


俺も一応(※本人の自覚そっちのけで)この国のトップBMPハンターの一人と見られているみたいだから、首相と面会する機会くらいはあってもおかしくないのかもしれないが、俺と剣首相の場合はちょっと事情が違う。

なんとこの人、俺が同居(※同棲じゃないぞ、断じて)しているBMPハンター剣麗華さんのおじいさんなのだ。

だから、麗華さんと剣首相と俺の三人で会うというのは、プライベートでも十分起こりうるイベントなのだが。

麗華さん抜きで会うとなると、やはり異常事態だ。


「そう緊張せんでも大丈夫だよ、澄空君。麗華からも『悠斗君は大人しいところもあるから、あまりプレッシャーをかけてはいけない』と言われたばかりだからね」

「そ、そですか……」

麗華さんナイスフォロー!

でも、もっとはっきり『単にビビリだから、あの子』みたいな言い方でいいっすよ。


「…………」

「…………」

「…………」

「……い、いただきますね」

沈黙に耐えかねて、コーヒーに手を伸ばす。

素人鼻(※うまい表現が思いつかん)にも良い香りのコーヒーに口を付ける。

たぶん高いんだろう。俺は芸能人ではないからして『実は安いんですよ、それー』とか言われても、別に落ち込んだりはしない。


「そ、そいえば、今日は緋色瞳さん、いないんですね?」

さきほどコーヒーを持ってきてくれた別の美人さんの顔を思い浮かべながら言う。

ちなみに、緋色瞳さんというのは『アイズオブクリムゾン』という支配系最強のBMP能力を使うBMPハンターで、『クリスタルランス』という最強BMPチームのリーダーで、おそらく『こども先生』系最強と思われるうちの緋色先生のお姉さんにして、剣首相の秘書みたいな仕事もしているらしい女性だ。

え、設定詰め込み過ぎて意味が分からないって?

奇遇だな、俺もだ。

と、いつまでも現実逃避している場合ではなくて。


「うむ、来てはいるんだがな……」

「え?」

意外な剣首相の一言に驚く。

忙しい人だから居ないのは仕方ないと思うけど、いるのなら顔くらいは見たかったな。

「まあ、彼女にも色々都合があるようだ」

「そ、そですか……」

なら仕方ないか。


それより、そろそろ本題に入っても良さそうな……。


「時に、澄空君」

「は、はい!」

いきなり来た!


「君は、麗華の恋人になるという意味を理解しているのか?」

「は、はい?」

なんのこっちゃ?

「こういう言い方は直接的すぎて好きではないが、あの子は剣財閥唯一の継承者だ。あの腰ぬけ息子に継がせるつもりは毛頭ないからな」

「は、はい……」

なんの話が始まるのかは分からないが、とりあえず黙って聞く世渡り上手な俺。

ちなみに、剣首相の息子さんは、現在剣財閥を動かしている辣腕で鳴らしている実業家だ。どの辺が腰ぬけなのかは俺が聞いてもたぶん一生分からないから、あえて聞かないでおこう。怖いし。

「麗華はあの通り完璧だが、その夫が無能でいいという訳ではない。剣財閥にもしものことがあれば、この国はおろか世界の経済が揺らぎかねんからな。まあ、賢崎や神のところは張り切るだろうが」

「は、はい」

ちなみに、今出てきた3つの財閥が本気で手を組んだら、世界の半分くらいは狙えるらしいすよ。

……今はそんなことしてられる時代じゃないけど。

「その男の決断一つ、行動一つ。あるいは想い一つで、数万……いや、数億の人の生活が脅かされかねんのだ。そのことが君には分かっているのか?」

「いや、でも大丈夫ですよ」

「ほう」

驚いた顔をする剣首相。

『こやつ、意外にやりおるかも』的な顔をしている。


「どんな人なのかは想像もできませんけど、麗華さんの選んだ男性ですから、そのくらいはプレッシャーにも感じないんじゃないでしょうか?」

麗華さんが選ぶくらいだから、きっと麗華さん男性版とでもいうべき完璧で天才な男なんだろう。

あまりに凄過ぎて、たぶん嫉妬すらしないに違いない。

「そ、そうか……」

至極まっとうな意見を言ったつもりなのだが、剣首相はなんだかずっこけたような姿勢をしていた。

気のせいか『こいつは、どうしようもないかもしれん』的な顔をしている?


「少し、回りくどかったようだな……」

「?」

「単刀直入に聞こう。君は、麗華とできているのか!?」

「………………」

…………え。


「えーーーーー!」

思わず大声を上げてしまった。


「で、でででで、できてないですできてないです! お、俺と麗華さんは節度を守って同居生活を……!」

節度を守るのなら、そもそも同居するなとか言うな!

どうしても、引っ越し先が見つからないんだよ、どう言う訳か!


「ありえん!」

「え?」

あ、ありえんとか言われても……。

「元々の事情が事情とはいえ、あの麗華と同居しているんだぞ、君は! 男なら、すでに二桁後半くらいは不埒な行為に及ぼうとしているはずだ!」

「そんなことしたら、首飛びますって! 比喩じゃなく、リアルで! 断層剣で」

一国の首相が何言ってんだ!

というか、この人、キャラが変わり過ぎではなかろうか。

「だから、君の首と胴体がくっついている以上、できていると考えるしかないだろう!」

「いや、そもそも襲っていないと考えてください……」

断層剣を抜きにしても、あり得ない。

俺達ほど彼我の戦力差(※もちろん男女としての)があれば、畏れ多いを通り越して滑稽だ。

剣首相は、自分がナイスガイだからそんな自信があるに違いない。


「ほう、あくまで違うと言い張る訳だな、君は」

「ち、違いますです」

噛んだのは許してほしい。

剣首相の口調が、国会で質問に立った野党の党首を逆にいびっている時と、凄く似てきた。


「尾藤君、あれを!」

なんだか芝居がかった剣首相の声に応えて現れる、さきほどもコーヒーを入れてくれた秘書らしき女性(※というか秘書だろたぶん)。

緋色瞳さんと比べるのは相手が悪過ぎるが、この人も相当の美人だ。

いやにアナログな機械を持っている。

テープレコーダーとか、もう骨董品だと思っていた。


「ここを押してください。問題の部分が流れます」

そのテープレコーダーを机に置き、上記のセリフだけを言い残して、尾藤秘書は退室していった。


「テープレコーダーなのは、雰囲気を出すためだ。特に意味はない」

「そ、そうですか……」

聞いてもいないのに教えてくれるというのは、本人にはそれなりにこだわりがあるらしい。

「これは、先日のBMP管理局籠城戦の時の録音記録だ」

「え?」

「もちろん極秘データだ。が、ここに問題の記録がある。心して聞きたまえ」

「りょ、了解です」

さきほどまでの話と全く繋がらない展開のような気がしたが、なんだかおおごとなのを察した俺は素直に頷いた。

そして、剣首相が再生ボタンを押す。



「か、代わりに俺が行っちゃ駄目かな?」

「? 敵の狙いは悠斗君なんだから、私がここに残っても意味はない」

「そ……」

「それに、少なくとも今は私の方が、安定した戦闘ができる」

「いや……」

「私は抜かれたりしないから、Aブロックは安全。悠斗君は大丈夫」

「れ、麗華さんだって、『絶対』は、ないだろ?」

「そんなことない」

「へ?」

「悠斗君が『私のいないところでは死んではいけない』以上、私も悠斗君が見ていないところでは死なない」

「あ……」

「それが、絶対」

「……そっか」

「分かった。首を長くして、帰ってくるのを待ってるよ」

「そんなにかからない。すぐ帰ってくる」



「という訳だ」

停止ボタンを押す剣首相。

「…………」

いや、もちろんあの籠城戦が記録されていることくらいは知ってたけど。


俺、ほんとにあんなこと言ったのか?


顔が熱くなる。


「君は、この一連の会話が、できていない者同士の会話だと主張できるのかね?」

「と、ともに死線を潜り抜けようとする仲間同士の会話にも聞こえます!」

先日の国会で、野党の売り出し中の新人議員を完全粉砕した時と同じ口調で迫る首相に、驚異的な精神力で反論する俺。

というか、反論しないと殺されるぞマジで!


「なるほど……。なら、これはどうかね?」

ま、まだあるんすか?

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