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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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追想~はじまりの物語~

「えーと……。つまり、全部俺のせいって訳か?」


さきほどまでの暴れぶりが嘘のように大人しくなった少年を、クリスタルランス5人が囲んでいた。

瞳の見立て通り、やられぶりのわりには誰もほとんど怪我らしい怪我をしていなかった。

「それ以外に解釈のしようがないでしょう」

もっとも、蓮あたりは、プライドに多大なダメージを負ったようだが。


「ま、いきなり軽トラが飛んできたら、普通は敵やと思うやろなー」

「いや、しかし彰よ。あの馬鹿みたいなプレッシャーは覚醒時衝動のもんだと思っても無理ないだろ?」

「万が一そうでない可能性があるから、みんな気をつけるんや! 見事に裏目ったやないか、この脳みそ筋肉君が!」

元気いっぱいの彰に対して、剛は若干疲労の色が濃い。

少年に一番手加減されなかったのかもしれない。


「それが……。覚醒時衝動を起こしていたのは間違いないようなのです」

「「へ?」」

リーダーの言葉に、揃って声を上げる彰と剛。

「というより、まだ覚醒時衝動中です」

と、瞳は、さきほどまでの暴れぶりが嘘のように虚ろな眼で座り込んでいる少年を見た。

ちなみに、なぜかさきほどから光がしゃがみこんで少年の頭を撫で続けている。


「覚醒時衝動中? 確かに、プレッシャーは凄まじいままですが……」

と、疑問符を浮かべる蓮。

ちなみに、今すぐにでも再戦したくてたまらない闘志を全く隠していない。さきほどの戦闘は相当なショックだったらしい。


「もう闘う理由がなくなったから闘わないんだよね。悠斗君」

しゃがみこんで視線を合わせ、少年の頭を撫で続ける光が言う。

その顔は、今までに見たことがないくらい優しい。

ちなみに、名前は瞳がアイズオブクリムゾンで読み取った。


「事故の原因がなんであれ、いきなり襲いかかってきた剛を敵だと勘違いし、事故を起こした人達を守ろうとしたというのは理解できます。しかし、覚醒時衝動となると話は別です」

「だよな。覚醒時衝動中は、普通は意識なんかねえよな」

蓮と剛が頷き合う。

自分達の覚醒時衝動の時のことを思い出したのだ。

そして、結論。


……いや、やっぱ無理だろ、と。


「覚醒時衝動ん時に出るのは、本性だ。力に酔うか、恐れるか」

「その力をどう使うかなんてことに悩みが及ぶのは、気絶するほど暴れた後の話ですよ」

剛と蓮が神妙に言う。おそらく実体験なのだろう。


「その辺は同意見ですけどね……」

深紅の瞳で少年を見詰めたまま言うリーダー。


(力に対する依存も恐れも半分半分……)


ということが読み取れる。

なかなかバランスの取れた『本性』ではある。

そもそも、どんな性根であれ、最終的には大した問題にはならない。

たとえ自分がどんな人間だとしても、目指す目標のために自分を律する意思というものを人は持っているからだ。


だが……。


「ああ、良かった」

いきなり瞳が言う。

「リーダー?」

「だ、そうですよ」

彰の疑問符に応える瞳。


「こんなのは嫌だ。誰かが傷つくのは嫌だ。誰かが傷つけるのは嫌だ。あの子が傷つくのは嫌だ。そんなのは嫌だ」

「…………」

「そんな感情ばかりでした」

と言うなり、二・三度瞬きして赤い瞳の力を落とすリーダー。

「こいつは、聖人君子か何かか?」

「だったら力ずくでも大人しくさせる、というあたりの発想は好みですが」

軽口を叩きながらも、剛と蓮に覇気がない。

色々な意味で衝撃だったらしい。


「リーダー。この子、クリスタルランスで預かれない?」

くるん、と視線を向けて聞いてくる光。

「お、それは……」

「名案ですね!」

なぜか、剛と蓮が割り込む。


「このBMP値だ。どうせ、まともな施設じゃ面倒見切れねえ。力に心が潰される暇もないくらい、徹底的に鍛えてやろうぜ!」

「あなたにしてはまともな意見ですが、どうせ『いい遊び相手ができた』、くらいに思っているのでしょう。言っておきますが、このまま彼が強くなれば、すぐにあなたでは相手にならなくなりますよ?」

「阿呆か、おまえは。そうならないように、俺も強くなんだろが! ……って、そういや、てめえも負けたんだっけな。自分こそ、いきなり、『リベンジです』、とか言いだすなよ」

「やだなぁ、剛さん。脳幹まで筋肉のあなたと一緒にしないでくださいよ」

「ちょ、ちょい待ち蓮。今はやばいって。真面目な話をしとる最中やから、邪魔するとリーダーに殺される!」

いい感じにヒートアップしてきた剛と蓮を、彰が止める。

もちろん、とばっちりが恐ろしいからだ。


「で、でもリーダー。クリスタルランスで預かる言うんは、悪い話やないと思うで。剣大臣はんは、BMP能力者があんまり好きやないみたいやし、こんだけとんでもないBMP能力者を預かれるとこは他にないやろ? ……光もその気みたいやし」

最後の一言を、なぜか苦虫を噛み潰したような顔で言う彰。

「うん。彰の言うとおり。そして、私がお姉さんになろうと思う」

「お、お姉さんやて」

「うん、私が一番悠斗君と年が近いから。たくさん可愛がってあげようと思う」

「う……。そ、そうやな。それがええわ」

『うちとも遊んでくれるよな!』というセリフを噛み潰して、親指を立てて答える彰。女性だけど漢である。


が。


「みんなの気持ちは分かりましたが」

「?」

「悠斗君はクリスタルランスには入れません」

「……どうして、リーダー?」

「というよりも、政府に報告しません」

瞼を閉じたまま言い放つ瞳。


「それは、違反行為ですよリーダー」

「違反は結構だが、意味があるのか?」

蓮と剛が疑問符を浮かべる。


「この子は、身体に対してBMP能力が大きすぎます。このままでは、遅かれ早かれ異常をきたすでしょう」

「でも、高BMP能力者にとって、精神に異常をきたすリスクは当たり前のもんやろ?」

「この子の場合、精神ではなく身体です。精神ならば、専門の医師の指導のもとで過ごせばそれなりになんとかなるものですが」

彰の疑問に答えるリーダー。

「身体がBMP能力についていかない? そんなことは初めて聞いたぞ」

「でしょうね。私も初めて見ましたから」

剛にも答える。


「どうすればいいの、リーダー」

心配になったのか、少年の頭をぎゅっと抱きしめている光。

「身体がある程度成長すれば、負担も軽くなるはず。小さい頃から鍛えた場合に比べれば、大きな成長は望めないかもしれませんが、そのくらいの方が逆にいいでしょう」

「それまでBMP能力を封印でもすんのか?」

「あら、察しがいいですね、剛。その通りですよ」

さらりと答えた瞳に、剛は驚く。


「今から、この少年に呪いをかけます」

「の……!」

物騒な単語に、彰がひく。

「今日のことを含め、自身のBMP能力に関する記憶の一切を封印します。そして、成長し、自身のBMP能力に対応できる身体と、それを使う意思を宿した時、解けるように設定します」

「そんなことができるのですか?」

疑問を投げかける蓮。

アイズオブクリムゾンなら記憶の封印はできるかもしれないが、任意のタイミングでそれを解除するとなると想像もつかない。


「私の弟を捧げますから」

「弟? 捧げる?」

何を言っているのか分からない、クリスタルランスメンバー。


「光、悠斗君の顔をこちらに」

「……記憶は本当に戻るの?」

「戻らなければその方が幸せかもしれません」


残酷でもあり優しくもあるリーダーの言葉。


「急かすつもりはありませんが、あまり時間はありません。今この瞬間にも、悠斗君の身体は衰弱し続けています」


光はしばらく考えていたが。

やがて、少年を促して瞳の方へ向かせる。

少年は完全に無抵抗だった。


「あなたのためとはいえ、これから私は、あなたにとても酷いことをします」

「…………」

「できるだけBMP能力に関する記憶に限るつもりですが、それでもかなりの部分の記憶を失います」

「…………」

「生活環境も、おそらく今まで通り暮らすことは不可能でしょう」

「…………」

「納得してくれているとはいえ、私の弟にも……。いえ、翔には、すでに謝り切れないほどのことをしていますね、私は」

「…………」

「恨んでくれても結構です。結局、これは私の勝手な考えに過ぎないのですから。ただ、できれば恨むのは私一人にしてください」

「…………」


一度深紅の瞳を閉じて。

見開く。

その眼は、今までにないほど強い光を放っていた。


「うっ」

少年が呻く。


「短くて10年ってとこか。ま、気長に待つとするか」

剛が言う。

「長いですね。けれど、退屈はしないかもしれません」

蓮も続く。

「ああは言うけど、リーダーの呪いは強烈やからな。ちゃんと帰ってきいや」

彰が心配する。

「悠斗君、私は待ってる。今度会えたら、ちゃんとお話ししよう」

光も約束する。


「では、頼みますよ、翔」

「…………」



「また、いつか。私の呪いが解ける日に会いましょう、澄空悠斗君」



◇◆◇◆◇◆◇



『7月24日19時15分・D-1』



「とまぁ、意外に大したことのない話なんですが」

澄空悠斗が泊まり出してから急に品ぞろえが豊富になった自販機コーナーで、『どくどく緑クン』なる謎のドリンクを片手に、ブレードウエポン城守蓮は語り終えた。


「いや、十分大したことありますって!」

大声で反論するのは、後任のダガーウエポン坂下陸。

「そうですかね」

「そうですよ! 知っちゃいけなかったり、知らない方が良かったりする秘密が5・6個ありましたよ、今の話! 先輩方が話してくれない訳で……」

「大したことのない話なんですよ」

静かに、しかしはっきりと断定するブレードウエポン。

「あなたはクリスタルランスなんですから」

「あ……」


その一言で。

ブレードウエポンが何が言いたいのか分かった。


「ほんとに……、俺が聞けば、先輩方はこの話、してくれたんでしょうか?」

「お疑いなら、改めて聞いてみればいいと思いますよ」

まだ迷っている様子の陸に、涼しい顔で返す蓮。

「……そうしてみます」

陸も頷く。


「澄空悠斗が覚醒時衝動を起こしていても城守さんが落ち着いているのは、あいつが一度、覚醒時衝動を克服したことがあるからですか?」

「ええ。覚醒時衝動といっても、悠斗君にかかれば解法の分かっているパズルのようなものです。心配には及びません」

陸の問いに、信頼しきった表情で答える蓮。


「ブレードウエポン……。城守さんがクリスタルランスを辞めたのも……。やっぱりあいつに負けたからなんですか?」

「そうですね。それまでの生き方を全否定されるくらい、見事なまでに酷い負け方でしたからね」

セリフに比して、とても穏やかな表情で言うブレードウエポン。



「あまりに酷過ぎて……。悔しいとか、憎いとかを通り越して、憧れてしまったんですよ」



「あ、憧れた……?」

「目標ができた、と言っていいかもしれません」

と、飲み終えた『どくどく緑クン』をきちんとゴミ箱に捨てながら(※意外にうまかったらしく満足そうな顔をしている)城守は続ける。

「ただ、それまで何も考えずに生きてきたツケは大きかった。確たる目標ができたのに、どうすればそこに至れるのか、さっぱり分かりませんでしたからね」

「……」

口を挟まず蓮のセリフを聞きながら、陸も空き缶をゴミ箱に捨てる(※こちらは普通の缶コーヒーだった)。

「10年は長かった。色々な経験をして、多くのことを学んで、色々な闘いに挑戦して……」

と、一旦、言葉を切って。



「あの日の少年の背中に、一体どれくらい近づけたんでしょうね?」

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