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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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追想~首都橋の悪魔~

『10年前・首都橋にて』



「なるほど。こりゃひでぇ」

首都橋の一角、ワゴン車から降り立ったばかりの5人のうちの一人、高校生くらいの、大柄な身体を持つ少年が言った。

その直後、『もう僕の用事は終わりっすね』とばかり、ワゴン車は逃げて行った。


「ここまで派手なんは、さすがにウチも初めて見るわー」

逃げ去るワゴン車を気にもせず、勝気で猫のような眼が印象的な少女が言う。

眼の前に広がるのは、盛大に玉突き事故を起こして沈黙している車の群れである。


「と言っても、直接的なBMP能力による破壊が行われた形跡はありませんけどね」

続けるのは、線が細く、眼鏡をかけた美少年である。

が、腰に下げた刀と相まって、その存在感は大柄な少年を圧倒している。

「そんなの分からない。リーダーみたいに支配系能力者かもしれないし、直接攻撃しなくても、走っている車の制御を乱す方法なんて、いくらでもある」

美少年に応えるのは、さきほどの少女と同じくらいの年の美少女である。

トロンとした眼のせいか、5人の中で一番おっとりした印象を受ける。


「ともあれ、このプレッシャーは本物です。幻影獣ではないようですが……。みなさん、気を抜かずに」

5人の中で一番年上の少女が、締める。

どんなCG補正をかければこんな美少女ができるのか、というくらいの美形だが、その容姿の中で一番眼を引くのは、燃えるような深紅の瞳である。


と、まるでその声に応えるかのように。

数百メートル、数十台に渡って玉突き事故を起こしている大惨事の車の群れの中から、一人の少年が姿を現した。

小学生くらいに見える。まだ幼い男の子だ。


「あいつか?」

「そうだと思う」

「動ける人は避難し終わっているみたいですね」

「ゆうても、車の中に取り残されとる人らも結構おると思うで」

大柄、眠そう、眼鏡、猫目の順で口々に感想を言う。


「救助も大切ですが、第一の任務は、あの少年の確保です。覚醒時衝動を起こしているのはほぼ間違いないので、油断はしないでください」

「こんなプレッシャーの中で油断できるのは、リーダーと蓮くらいやわ……」

わずかに緊張した面持ちで、猫目の少女が赤目の少女に返す。

「リーダー。あの子、BMPどのくらいだと思う?」

「私のアイズオブクリムゾンは、分析にはそれほど向いていないのでなんとも……。ただ、私より上なのは間違いないですね」

おっとり眼の少女に、赤目の少女が返す。


「リーダーより上? BMP170以上は理論的にありえないんじゃなかったか?」

「今この瞬間に覚醒時衝動を起こしている剣大臣のお孫さんも、172と聞いていますが?」

「ああ、そういやそうだった。あっちは国家維持軍で対応するからって外されたんだっけな、俺ら」

大柄な少年と美少年のやり取り。

「正直腐ってたんだが、ひょっとしてこっちの方が大当たりなんじゃね!?」

「相変わらずの戦闘狂ですね、あなたは。……しかし、否定はしません」

水と油どころか、全く接点のなさそうな外見の二人だが、妙に気が合っている。

もちろん、見た目と中身にギャップがあるとすれば、眼鏡美少年の方だろうが。


「ま、とりあえずはお手並み拝見だな」

ひょい、といった感じで、近くに転がっていた軽トラックを持ちあげる大柄な少年。

「ちょ、ちょい待ち……、剛!」

「っけぇー!」

猫目の少女の制止も聞かず、沈黙した車の群れの中で虚ろな目でたたずむ少年に向かって、軽トラックを投げつける!


軽トラックは、冗談のように高く綺麗な放物線を描き。

覚醒時衝動を起こした少年を叩き潰した。


「…………」

「…………」

「……死んだのではないでしょうか……?」

眼鏡美少年が、ぽろっと呟く。

「アホか? 蓮。これだけ馬鹿でかい気配を振りまいてるやつが、これくらいで死ぬか」

「アホは、あんたや!」

すぱん、と、猫目の少女が大柄な少年の頭に突っ込みを入れる。

「んだよ、彰?」

「あのな! いくら強力なBMP能力いうても、それが戦闘系とは限らんやろが! うちのリーダーかて、BMP168やけど、飛んでくる車を受け止められると思うか!」

「…………あ」

「……あ、や、あらへんわ! この脳筋が!」

やっちまった、的なポーズを取る大柄な少年に、再度の突っ込みを入れる猫目少女。

どうやら、この二人は仲がいいらしい。


「どうやら、その心配はなさそうですよ」

赤い瞳のリーダーの澄んだ声が告げる。


それに応えるように、大柄な少年……ハンマーウエポン臥淵剛が投げたのと同じくらい高く綺麗な放物線を描いて、軽トラックが橋の下の海に投げ込まれる。

後には、傷一つない虚ろな眼の少年。


「どうやら、戦闘系みたい」

「しかも、身体能力強化系かよ! 大当たりどころか、超大当たりじゃねえか!」

眠そうな眼の少女の感想に、語彙の少ないことをアピールするかのようなセリフで続く剛。

「リーダー。とりあえず、俺が行っていいか? いや、行く! 絶対行くから邪魔すんなよ、お前ら!」

リーダー……アイズオブクリムゾン緋色瞳はおろか、クリスタルランスメンバー全員に釘を刺して、剛が駆けだす。


◇◆


「どうりゃあーーー!」

丸太のような太い腕が、無防備な少年の頭を捉える。

ピンポン玉のように跳ね飛ばされる。

と思いきや、少年は、まるで恋人に訳のわからない理由で頬を叩かれて訳のわからない男のような仕草で、緩慢に頬を指で掻いていた。


「おおおおー!!」

雷のように激しい蹴りが、少年の身体に深々と突き刺さる。

くの字に身体を折り曲げるが。

次の瞬間には、何事もなかったかのように虚ろな眼で佇んでいた。


「ま、まじかよ、こいつ……!」

純粋なる身体能力強化系の怪力無双ドラゴンバスターの攻撃を歯牙にもかけない少年を前にして、剛は怯えるどころか、ますます闘志を滾らせた。

「面白れぇじゃねぇか! こうなりゃ、どっちかが倒れるまで……!」

最後まで言えなかった。

華奢というほどではないが、決して強そうには見えない少年の腕に、がっちりと首を抱え込まれたからだ。

「……この!」

それまで無反応だった少年の突然の反応に驚く剛だが、さすがにそこはBMPハンター。

逆に、少年の胴を掴み返した所で。


腹に、思いっきり膝を叩きこまれた。


「が……。がはっ……」

不意を突かれたことを差し引いても、胃液が逆流しそうな程の強烈な一撃。

ダンプカーと正面衝突しても、相手が車両保険に入っているかどうかを心配する(※主に仲間がだが)剛にとって、初めての衝撃だった。


「や、やべぇ……」

危険な相手どころではない。

先日、クリスタルランスで初めて倒したBランク幻影獣が可愛く見えるくらいの、暴力的な力だった。


続いて、下げられた剛の頭を、引っこ抜くようなアッパーカットが襲う。

一瞬、剛の足が地面から離れる。

頭の中に星が舞う、という表現が比喩ではないことを実感する。


「ぐ、お……」

気力で地面に倒れこむのは拒否したが、防御どころではない。

まだ視界さえ定まらない。

その揺れ動く視界の中で。


虚ろな眼をした少年が、その頼りなさげな拳を凶悪に振りかぶっているのが見えた。


最大級の危機を迎えながら、ガードを固めず、あえてカウンターを狙いにいった剛の拳は空を切り(※そもそもまだ焦点があっていない)。


代わりに灼熱の衝撃が頭を貫通した。


◇◆


「死にましたかね……」

「ど、どうやろ……」

眼鏡美少年……ブレードウエポン城守蓮と、猫目少女……電速パルス・犬神彰が思わず呟く。


視線の先には、10メートル近く吹っ飛ばされ、柱に強く打ちつけられて、そのまま動かなくなる剛。


「剛が力で負けるなんて……」

「恐ろしい能力ではありますが、純粋な身体能力強化系なら、それほどやっかいな相手でもなさそうですね」

眠そうな眼の少女……アローウエポン茜島光に、どこか残念そうな様子で答える蓮。


「どうでしょう、リーダー。ここは、私が片づけましょうか?」

「油断しないでください。さっきから私が……」

「うあ! ヤバイで、あれ!」

凄く行きたそうにしている蓮に、瞳が何らかの警告を発しようとしたところで、彰が弾かれたように飛び出した。



虚ろな眼をした少年が、地面に伏したままぴくりとも動かない剛に向かって歩き始めたからだ。


◇◆


電速パルス!」


一陣の風が通り過ぎた後。

虚ろな眼をした少年の身体に電気が走りぬける。


「?」

まるで、コントのように目視できるほど激しい電撃だったが、少年はキョトンとしていた。


「マジかいな……」

眼を疑いながらも、返す刀で少年の傍を走り抜けると同時に再度の電撃。

「…………」

が、やっぱり、これといった反応を示さない虚ろな眼の少年。


「攻撃力だけでなく、防御力も半端やなく上がっとる……。まるで、剛の怪力無双ドラゴンバスターや……」

あまりの鉄壁ぶりに閉口する。

とりあえず、剛の無事を確認しながら、少し距離を取ろうとする彰。


が。


「……え?」

少年が居ない。

剛の方を向いた一瞬の隙に、身体中を電気で焼かれていたはずの少年が姿を消していた。


「ど、どこに……?」

不安げにあたりを見回す彰。

敵にそうさせたことは何度もあるが、自分がするのは初めての経験だった。


と。


「え?」

腰のあたりに、温かい感触。

見ると、小さな二つの手が、後ろから回されていた。


「あ……」

彰の顔が、眼に見えて青ざめる。

さきほどこの男の子は、全開で怪力無双ドラゴンバスターを発動させていた剛の防御をたやすく吹き飛ばした。

並みの防御力しか持たない自分が、あの力で攻撃されればどうなるのか。


「あ、ああ……」

上半身と下半身が二つに引きちぎられる絵が頭に浮かぶ。

が、それも決して大げさな妄想ではない。

一か八かの想いで、自分の腰に後ろから回された少年の手を掴む。


全ての力を使い切る覚悟で、電撃を放とうとした彰に。



逆に紫電の衝撃が彰の身体を駆け抜けた。

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