ブレードウエポン
『7月24日17時07分・A』
俺の劣化複写は、一度見た能力なら(※劣化状態でだが)真似できるという能力だが。
実はもう一つ大きな特徴がある。
なんとこの能力、発動に特別な手順が必要ないのだ。
一度見たことがあり、それが使える能力であれば、何の苦労もなく発動することができる。
……使いこなすのは、別の問題だが。
「劣化複写:砲撃城砦!」
一度も試し撃ちしたことのないBMP能力だが、今回も問題なく発動してくれた。
圧縮された無数の空気の弾が(※どうやって圧縮したかは分からないので、峰に聞いてください)ガルア向かって飛んでいく。
いくらなんでも、これは避けられないだろう。
致命傷は無理でも、牽制くらいには……。
「あーん」
間抜けな声を出したのは、ガルアだ。
そして、それに答えるようにガルアの前に立ちふさがったのは『口』だ。
「な!」
驚愕する俺。
紫の唇を見せつけるように、『口』が大口を開ける。
と、無数に撃ち出した圧縮空気弾が『口』に吸い込まれていく。
「ちょ……」
思わず文句を言いそうになる俺。
「やれやれ……。僕の『捕食行動』をただのイロモノBMP能力とでも思ってたの?」
イロモノというより、ゲテモノだと思うけどな。
「これでも僕は、Aランク幻影獣だよ。単体戦・集団戦、接近戦・遠距離戦、攻撃・防御。全てにおいて、この子には隙なんてないよ」
紫の唇(※『口』の方のだ。ガルア自身も紫の唇を持ってる)を撫でながら言う、ガルア。
ヤバイ。こいつ、マジで強い。
と思う間もなく、『口』が襲いかかってくる。
「劣化複写:超加速!」
『口』の下を潜り抜けるようにして、ガルアに接近する。
近づいたところで、カラドボルグにBMP能力を切り替えて突き刺す!
……カラドボルグは、刺すのにも使えるのかって?
麗華さんは「たぶん、大丈夫」って言ってた!
と。
「いい!」
眼の前に、『口』が居る。
なんでだ!?
さっき振り切ってきたのに!
いずれにしても、これはマズイ。
「止まれー!」
両足に力を入れて、地面をこする。
が、全く止まりそうにない。なんて、融通の利かない能力だ。
「あーん」
ガルアのセリフが今度は冗談に聞こえない。
マジで死ぬ。
「お、おおおお!」
全力で地面を蹴って、右に曲がる。
ほんのわずかな方向転換には成功したが、とても体勢を保っていられない。
完全にバランスを崩して、転倒する。
それでも勢いは止まらず、まるでコントのように、ぐるぐると回転しながら転がっていく。
壁にしこたま背中を打ちつけて、ようやく止まった。
「な、なんなんだよ……」
涙目になりながら、ガルアの方を見ると。
口の端から端まで5メートルはある『口』が『二つ』。
空中に漂っていた。
「今のは良かったよ、澄空悠斗」
◇◆
『7月24日17時12分・D-1』
陸のナイフが、幻影獣の肩口を捉える。
明らかに浅い。幻影獣も、構わず反撃してくる。
が、その動きが途中で止まる。
その隙に、陸のナイフが一閃。
深手を負いながらも反撃しようとした幻影獣の動きが、また止まる。
そして、陸のナイフが幻影獣にとどめを刺した。
傍から見ていれば、何が起きたのか分からないだろうが、これがクリスタルランスのルーキー、ダガーウエポン・坂下陸のBMP能力『連携攻撃』である。
陸の攻撃を受けた敵は、陸の連続攻撃が中断されるまで反撃できなくなる。
原理は分からない。精神に作用しているのか、なんらかの力で動きを抑えるのか、あるいは空間制御系のBMP能力なのか。
とにかく、陸の連続攻撃中は何人たりとも反撃できない。
それを知っている人間ならば、連続攻撃が終わるまでひたすら防御に徹すればいいだけだが、幻影獣にはそんな知能はない。
むやみに反撃しようとして、できず、追撃で倒されるだけだ。
だが、集団戦には明らかに向いていない。
それでも、陸は踏みとどまっていた。
とっくに撤退命令は出ていた。
聞き逃した訳ではない。
ただ、クリスタルランスの先輩方なら、これくらいの劣勢は一人で覆せるだろうと思うと。
せめて、しんがりくらいは務めないとと思っただけだ。
「潮時かな……」
もう他のBMPハンターの姿は見えない。
代わりに、100体近い幻影獣で、実践訓練場・Dブロックは埋め尽くされていた。
もう十分以上に頑張ったと思う。
ここを抜かれると内層まで、すぐ。
まずいとは思うが、さすがにもうどうしようもない。
というか、ここから100体の幻影獣をかわして逃げるのが、そもそも至難の技だった。
しかも、うまく逃げだせたとしても、おそらく誰も褒めてはくれないだろう。
弱いのは罪だ。最近、本気でそう思う。
ふと、あの男・澄空悠斗の顔が浮かんだ。
剣麗華さんに認められ。
クリスタルランスの先輩方とも何らかの関係がある(※ようにしか思えない)あの男。
あいつなら、こんな状況でもなんとかできるというのだろうか?
と。
「ん?」
おかしなことに気がついた。
幻影獣の間をすり抜けるように逃げようとした陸だが、あまりにも幻影獣の動きがないのだ。
最初は、もう自分に興味をなくして内層に攻め込もうとしていると思ったのだが。
「ふむ。闘いの気配は感じていたのですが」
静まり返ったD-1ブロックに響く、涼やかな男の声。
長身と眼鏡をかけた整った顔に加え。
手には、わずかに反った片刃の剣を持っていた。
「まさか、一人で踏みとどまっているBMPハンターがいようとは……。気が合いそうですね」
整った顔に、場違いに爽やかな笑顔を浮かべている。
一匹の幻影獣が飛びかかって行った。
眼にもとまらぬ速さで刀を振るう男。
そして、縦に両断される幻影獣。
全体的に幻影獣達は動かない。
が、別の一匹が飛びかかって行く。
今度は横に両断された。
その男について。
澄空悠斗が居れば「城守さん!?」と呼んだことだろう。長所に恵まれまくった男が隠し持っていた新たな特技に「不公平だ!」とか怒りながら。
剣麗華が居れば、やはり「城守さん」と呼んだことだろう。「久しぶりに闘うところを見た」と無感情に事実だけを語りながら。
緋色瞳が居れば、なんと言っただろうか。
そして、坂下陸は。
「ブレードウエポン……」
かつて……、いや、現在でも最強と呼ばれる男の名前を呼んでいた。
飛びかかって行く三匹目の幻影獣。
今度は、首を刎ねられた。
内層へと続く扉の前に立ちふさがり、一歩も動かずに淡々と刀を振るう城守。
四匹目、五匹目。
一体ずつ飛びかかってくる幻影獣を、順番に斬り捨てていく。
そして、陸の方を見て。
「クリスタルランスの新旧フォワード揃い踏み、といったところですが。邪魔にならないようにしますので、よろしくお願いしますね」
◇◆
『7月24日17時29分・A』
「痛っ」
太ももに走る鋭い痛み。
一匹目の『口』を超加速でかわし、止まったところをもう一匹の『口』に狙われたのだ。
牙にひっかけられた程度だと思うが、油断はできない。
ガルアに注意しながら、すばやく怪我の具合を確認すると。
右足の膝から先がなくなっていた。
「う、うわああああ!」
な、なんだこれ、なんだこれ、なんだこれなんだこれ!
全然痛くないのに、こんなこんなこんな!
「ミーシャ」
「う、うわああ……え?」
絶叫する際に一瞬外した視線を戻すと。
太ももを浅く切り裂かれているが、何事もなく無事の右足があった。
「?????」
?を浮かべる俺。
なんだ? テンパり過ぎて、幻覚でも見たのか?
「少し休憩しよう。息を落ち着けるといいよ」
「な?」
いきなり優しいことを言い出すガルア。
「ちょっと邪魔が入ったからね」
? なんのことだ。
言っている意味は分からないが、とりあえず距離をとって息を静める俺。
大した時間は闘っていないはずだが、完全に息は上がっていた。
一時なくなったように見える右足は、健在ではあったが無傷ではなかった。
最初は滲みだす程度だった血が、少しずつ量を増している。
一旦休憩すると、体のあちこちの痛みが気になってくる。
特に左腕が結構痛い。まさか、折れてないだろうな?
「そろそろいい?」
ガルアが言う。
よくないよ。