表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
44/336

「約束」の解釈

『7月24日16時10分・A』


「中層が破られた」

と、抑揚のない声で麗華さん。


俺も一緒にモニターを見ていたから、状況は分かる。

あの亀みたいなBランク幻影獣が、ついに中層を抜けてCブロックに突入してきたのだ。

ちなみにCブロックは、中層と内層Aブロック(※要は、ココな)を繋ぐ、いわゆる中庭だった。

ついでに言うと、内層にはBMPハンターを配置していない。つまり、あのBランク幻影獣を止める者はもう誰もいないということだ。


どうだろう? こんな状況の時くらい「中層が破られたー!」と思いっきり悲痛に叫んでもいいと思うのだが。


「じゃ、行ってくる」

あっさりと告げる麗華さん。


ちょ!

「ちょっと待った!」

「ん?」

振り返る麗華さん。

「…………」

「何? 悠斗君」

「……えーと」

何を言うつもりだったんだろう?


状況的には、先ほどの打ち合わせ通りの展開だ。

戦力を無駄に消費させないために、あのBランク幻影獣にはなるべく各ハンターに係らせないようにさせ、Bブロックで麗華さんが撃退する。

切り札を使っている時点で良い状況でないのは明白だが、作戦的には間違いないんだと思う。

それは分かっている。

分かってはいるんだけど。


「か、代わりに俺が行っちゃ駄目かな?」

「? 敵の狙いは悠斗君なんだから、私がここに残っても意味はない」

「そ……」

そですよね?

「それに、少なくとも今は私の方が、安定した戦闘ができる」

「いや……」

今に限定しなくても、おそらく未来永劫、麗華さんの方が強いっす。


……強いのは分かっているんだけど……。


「私は抜かれたりしないから、Aブロックは安全。悠斗君は大丈夫」

いや、そんなことは心配……してない訳ではないけれど、今はそれよりも。

「れ、麗華さんだって『絶対』は、ないだろ?」

「そんなことない」

「へ?」

「悠斗君が『私のいないところでは死んではいけない』以上、私も悠斗君がいないところでは死なない」

「あ……」

そのセリフは覚えている。

第五次首都防衛戦の時に、別れ際に麗華さんが言ったセリフだ。

「それが、『絶対』」

「……そっか」

『絶対』ならしょうがない。


「分かった。首を長くして、帰ってくるのを待ってるよ」

「そんなにかからない。すぐ帰ってくる」


◇◆


『7月24日16時16分・管制室』



管制室オペレータ・志藤美琴(※22歳独身。でも、そろそろ彼氏は欲しい。どちらかと言えば年上派だけど、怖い人は苦手。局長みたいにパーフェクト過ぎる人も、プライベートで付き合うにはどうかな?)は、戦闘中にも関わらず戦闘によらない興奮で顔を赤らめていた。


(い、今の会話、聞いていて良かったのかしら?)

そんなことも考える。

今は戦闘中で、ここは管制室だ。プライベートだのなんだの言っている状況ではなく、まして会話が筒抜けになっているのは、あの二人も承知のはずだ。


(というか、今の。なんだか愛の告白みたいにも聞こえたんだけど!)

もちろん、ただの『戦友同士の再会の約束』にも聞こえたが。

そういえば、あの二人は一緒に住んでいるとのことだ。ちょっと変わり者とかなり朴念仁のカップルとはいえ、若い二人だ。どうにかなってないとも限らない。


(いや、そんなことはどうでも良くて……)

今は戦闘中だ。


「でも、あの二人……。なんだか、いいなぁ」

とても、いい。

まるで、映画の主人公達みたいだ。こんな時に不謹慎だが。


と。


「新たな幻影獣の反応あり!」

志藤ではないオペレータの切迫した声が飛ぶ。

たまたま、目立つタイミングで志藤の出番が多いだけであって、別に他のオペレータが仕事をしていない訳ではない。

「ひ、非常に強力な幻影獣です!」

「またBランク!? BMPを測定して、早く局長に連絡を!」

どう見てもオールドミスタイプなのに、地味だけど優しい男性と結婚して可愛い子供もいるらしい主任オペレータの指示が飛ぶ。


「そ、それが……」

問われたオペレータが口籠る。

「どうしたの? 早く、測定を」

「いえ、測定結果は出ました……。機器の故障でなければ、BMP368……です」

「さ……!」

「368!!」

管制室内に衝撃が走る。


「こっちでも確認しました!」

「こっちでもです。誤差なし! 間違いありません!」

「こっちもです!」

次々と最初の報告者を肯定する同僚達。


「Aランク幻影獣……!」

主任が呻く。

「とにかく! どの方向から来てるの? 確認して、局長に報告を!」

「そ、それが……」

最初の報告者及び、追加で確認したオペレータ達が、皆一様に一目で緊急事態だと分かる顔をする。

「今度は、何!?」

オールドミス(※っぽいけど違う)主任が、少しイラついたように叫ぶ。


オペレータ達は一瞬顔を見合わせ。

結局、最初の報告者が口を開いた。


「敵幻影獣、すでに建物内に侵入しています」

「なんですって!」

あまりの展開に、大声を出す主任。


妄想を途中で寸断され少し思考停止していた志藤も、ようやく我に返って、敵幻影獣のBMPと位置を確認する。


「嘘……」


そして、知った。


BMP368は間違いない。

どうやったのか、すでに建物内に侵入しているのも間違いない。


そして、その場所は……。


志藤はマイクを取る。


「Aブロック! 澄空悠斗君! 応答してください!」


◇◆


『7月24日16時18分・A』



「お久しぶり」

小学生くらいの少年の外見をした『何か』が言う。

「…………」

「結構元気みたいで何より。実はミーシャに『あんなことして追いつめたら逆に力を出せなくなるタイプもいるのよ』って怒られたんで、心配してたんだ」

なんでだ?

さっきまでいなかったはずだ。

高BMP能力者と同じく、強力な幻影獣にも、それなりの気配がある。

傍に居るだけで全身が総毛立つような違和感の存在を、どうしてここまで接近されるまで気付かないんだ?


「……どこから入った?」

「? 決まっているじゃないか。あそこの扉だよ。他に出入り口はないし」

少年が指し示すのは巨大な扉。

こいつの言うとおり、Aブロックの唯一の出入り口だ。

しかし、あそこからは、さっき麗華さんが出て行ったはず。

そもそもBブロック『中庭』で麗華さんが待機している以上、誰もAブロックに入れるはずがない。


劣化複写イレギュラーコピー超加速システムアクセル!」

小粋な会話に応じると見せかけて、三村のBMP能力『超加速システムアクセル』を使い、唯一の出入り口からの脱出を図る俺。ありがと三村、物凄く役に立ったぞ。


が。


「あれ?」

この場の状況にそぐわない、自分でも驚くほど間抜けな声が出た。

だって。

「扉がない……」

さきほどまで確かにあり、目の前の少年が入ってきたと主張する、Aブロック唯一の出入り口がない!

というか、俺は扉に向かって『超加速システムアクセル』したはずなんだが。眼の前で突然、扉が消えた。

慌ててAブロック全体を見渡すが、やっぱりどこにも扉が見当たらない。


「思い切りの良さは感心するけど。悪い獣を倒す正義の勇者が、そんな臆病風に吹かれてたらダメなんじゃないかな?」

眼の前の少年(※って、いつまでも現実から目をそらしていても仕方ない。ガルア・テトラだ。Aランク幻影獣だ)は、人さし指を立て腰を折って上半身を突きだす、いわゆる『駄目だぞ♪』ポーズを取っている。

「…………」

こいつの能力なのか?

扉をなくす能力なんて聞いたこともないぞ?


「あ、心配そうな顔をしているから言っておくけど、僕のBMP能力は『捕食行動マンイーター』だけだよ」

「なら、これは一体なんだというんだ?」

扉のない壁面を指して言う、俺。

「『お友達』かな? 誰も一人で来るなんて言ってないよね? って、あれだけゾロゾロ連れて来てるんだから、いまさらか♪」

腰に手を当て、胸を天に向かって張った姿勢で楽しそうに宣言するガルア。

「まさか!」

別のBランク幻影獣がいるのか!?


「大丈夫。誰にも邪魔はさせないから。もし、この場に乱入してくる奴がいたら、敵味方関係なしに僕が『喰べて』あげるよ」

ぺろっと小さい舌で唇をなでるガルア。

そして。

ガルアの背後の空間から、滲みだすように巨大な『口』が姿を現す。


「僕の『捕食行動マンイーター』がね!」


紹介された『口』は。

ガルアと同じような舌の動きで、唇を撫でた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ