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BMP187  作者: ST
第二章『ウエポンテイマー』
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中盤戦

『7月24日15時57分・管制室』



管制室オペレータ・志藤美琴(※22歳独身。でも、そろそろ彼氏は欲しい。どちらかと言えば年上派だけど、怖い人は苦手)はそろそろイッパイイッパイだった。


「城守局長ー! Dブロックがもう限界ですー!」

『落ち着いてください、志藤君。G-3はどうなりました?』

「クリスタルランスの犬神さんのおかげで盛り返してますー! 物凄い勢いで! しかも、なんだか若い男の子と女の子といい感じですー!」

『ふむ、相変わらずですね。彰君。【いい感じ】と言うのは何のことか分かりませんが……』

「そんなことより、Dブロックがー!」

城守局長には、何か算段があるのだろうが、志藤にはどう見ても限界に見えた。

というか、どうしてこれだけテンパっている自分が、こんな大事な報告をしているのだろうか?


『分かりました、Dブロックのことはもういいです。皆さんは、他のブロックに力を注いでください』

「へ……。ちょ、長官?」


いきなりの予想外な発言に、一瞬固まる志藤。


聞き返そうとするが。


『管制室聞こえてるか! N-4ブロック突破されそうだ。至急、応援を頼む!』

「は、はい! えと、N-4だとどこから出せばいいんだろ……」


そんな暇はなかった。


◇◆


『7月24日15時58分・A』



「という訳で、私はDブロックに行きます」

管制室からの通信(※やっぱり、あの女の人の声だった。他に人いないんじゃないだろうな、管制室?)を終えて、城守さんが言った。

「い、いや、城守さんが行ってもあんまり意味がないんじゃ……? それより、管制室に戻って指揮を取った方が」

プロに意見するのは身の程知らずだとも思ったが、俺は言った。

だいたい、BMP能力者でもない城守さんがあんなところに行ったら危ないぞ。


「大丈夫ですよ。私に策があります」

自信満々で答える、城守さん。

どんな策かは知らないが、どんな策でも普通に危ないと思うんだが。

……思った以上に底知れない人だな、この人。


「それより、麗華さん」

「うん」

「Bランク幻影獣の方は、歩みは遅いですが確実に近づいています」

壁の上の方に設置されたモニターを見ながら城守さん。

そこに亀のような姿をした巨大幻影獣が映っている。

見た目のインパクトは、第五次首都防衛戦の時の奴の方が凄かったが、少しずつにじり寄ってくる姿を見ていると、状況的に今回の方が嫌な怖さを感じる。


……前回はどっちかというと、怖いと感じるほどの余裕もなかったからな。


「いざという時は、お願いしますね」

「問題ない」

これからBランク幻影獣を相手にするかもしれないのに、全く気負いのない麗華さん。


凄い人だよな、やっぱり。


「そして、悠斗君」

「は、はい」

「悠斗君の所にだけは敵を来させないように布陣していますが、万一のことがないとも限りません。あのAランク幻影獣が未だに姿を見せていないというのも、不気味です」

「は、はい……」

それはほんとに不気味だと思う。

あれだけ意味ありげに出て来ておいて、まさか見物だけなんてことはないと思うんだが。


「たとえ万が一のことがあっても、死んでは駄目ですよ」

「も、もちろんです。まだ死にたくないです」

正直に。


「いえ、違います」

と、城守さんがちっちっと指を振る。


「死にたくないではなく、死んではいけない、です」


◇◆


『7月24日16時02分・E-4』



幻影獣は、よく自然災害に例えられる。

殲滅に成功しようとしまいと、時間が過ぎれば過ぎ去っていく。

どれだけ激しく襲撃してこようとも、引き揚げる時は驚くほどあっさりと淡白に去っていくのだ。

奴らの行動様式は謎だらけだが、少なくとも、人類の絶滅を目論んでいるのではないのではないか、という意見もある。


が、今日は違った。


今日のこいつらは、明らかに『目的』がある。

それが本当に澄空なのか、それとも別の何かなのかは分からないが、それが達成されるまで、こいつらは引き揚げない。


そして、幻影獣の実際の数は良く分かっていない。

なにせ、普段はどこにいるのかも分からないのだ。確認のしようがない。

本気になった奴らの増援がどれくらいのものなのか……。あるいは、無限なのか。


峰がそう考え始めるほど、激しい消耗戦だった。


「『砲撃城砦ガンキャッスル』!」

味方に当たらないように小刻みに移動しながら、圧縮した空気の塊を連射する峰。

これだけの乱戦で下手に撃つと誤射の危険があるので、威力も数も絞り気味に撃っていた。


そして、気付いた。


(この技、手加減して撃つ方がよっぽどキツい!)


もちろん、それだけではない。

そもそも、乱戦は遠距離攻撃系のBMP能力者にとっては、鬼門なのだ。

近接状態での回避は難しいし、攻撃も即応性があるとは言い難い。


その意味では、三村よりよっぽどきつい。


おまけに、峰はペース配分が苦手だった。

序盤から全力で飛ばして、後は野となれ山となれタイプだった。

当然、レベルが上の相手には通用しない。

前回の入院及び、そこで知り合った少年に諭されて、そこのところをよーく反省したつもりだったんだが。


「そういえば、あいつは、どうしてるんだろうな?」


確か、小野倉太という名前だった。

一応ウエポンの属性持ちのBMP能力者だと言っていたから、この作戦にも参加している可能性はあるのだが。


「って、そんな場合じゃないな!」

眼前に迫る幻影獣に『砲撃城砦ガンキャッスル』を掃射。

見事撃ち倒すが、やはり全力では撃てなかった。

疲労もストレスもたまる。


「こんなことじゃ、ますます澄空に相手にされない!」


病院で、どこから入手したのか知らないが、小野に見せられた映像は衝撃的だった。

死力を振り絞る仲間(※本郷エリカのことだ)を背に庇い、生まれて初めて発動したBMP能力でBランク幻影獣を叩き斬った同級生。

こいつだ、と思った。

BMPハンターは、好敵手が居た方が上達が早いというのは、周知の事実だ。

剣麗華の強さは別格だが、彼女をライバルにしようとは思わなかった。

別に、女性だからというつもりはない。

……何か違うのだ。

澄空悠斗を見て、それが分かった。


あいつはこれからどんどん強くなる。

それに必死で付いていけば俺も強くなる。


峰が考えているのはこれだけだった。

別に、大した伏線も事情もない。

ただ単に強くなりたいだけなのだ。


幻影獣を倒すために。


なのに。


「くそ……」

この間Aランク幻影獣に奇襲された時、麗華を除いて誰も(※もちろん自分も)反応できなかった『捕食行動マンイーター』をあっさりと叩き斬って見せた同級生。

あの時は、心底仲間を心配している顔に見えたが。


(ひょっとして、足手纏いと思われたのかもしれない)


そんなことはないとも思うが、もしそうなら屈辱だった。

助け合うのはいい。

だが、足を引っ張るしかできない実力なら、BMPハンターなんか辞めた方がいい。


幻影獣が目の前に迫る。

泥でできたような、個体と液体の中間のような姿をしていた。


「ふざけるな! 澄空悠斗ー!」

ついにタガが外れた。

全力で『砲撃城砦ガンキャッスル』を掃射してしまった。

今までとは比較にならない威力で、幻影獣の体に拳大の穴が無数に開いていく。

幸いに誤射とはならなかったが。


「あ」


力が尽きた。

感覚でわかった。

そして、間が悪いことに、この液体の体を持つ幻影獣は、『砲撃城砦ガンキャッスル』では倒せない敵だった。

身体中を穴だらけにしながらも、粘液のような腕に頭を掴まれる。

途端、呼吸ができなくなる。


あまりに情けない幕切れ。


せめて最後は潔くしようという思いと、まだ諦めたくないという思いが同時に生まれ。

結局何もできずに、酸素を奪われていく峰。

周りのハンター達も助けに来れる状態ではなさそうだった。


そして、いよいよ限界を迎えようとした、その時。


閃光が走った。

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